第9話 ポトフからの攻撃

 息絶え絶えになりながら、僕はつむぐと我が家へ到着した。


「昨日の今日でこれか、まぁ昨日よりかは走れたんじゃねえか? 」

「うるさい性悪仔犬め」

「文句が出るってことはまだ元気だな。もう一走りするか? 」

「しないよ駄犬」

「俺の飼い主マジで辛辣」


 玄関のドアを開けてつむぐの足をウェットティッシュで足の裏を拭いてあげた。

 ふん、と鼻を鳴らしてつむぐは渋々足を差し出した。

 まぁこれは仕方ないのでお互い無言で最後の足を差し出した。


「よし、綺麗になった!リビング行こうか」


 一人と一匹は綺麗になった足でリビングへ足を運んだ。

 時計を針はもうすぐ午後六時を指していた。

 夕飯のいい匂いがする、今日は何のご飯だろう。


「おかえり渉〜」

「ただいま母さん、今日のご飯は何? 」


 グツグツと音を立てる鍋に母が「じゃじゃーん!」とドヤ顔をしながら「自信作なの! 」と自慢げに鼻を鳴らしながら言っていた。それは野菜がたくさん入ったポトフだった。

 相変わらず母さんは料理が上手だ。

 というのも、母さんの趣味は料理なので僕の舌は普通の人より肥えているだろう。

 いつも咲衣家の食卓は豪華だ。


「美味しそうだね。お腹空いた」

「手を洗って席に着いてね〜 」


 キッチンで手を洗い、ダイニングテーブルに腰を下ろした。


「栄養たっぷりだよ〜。いっぱい食べてね! 」


 母の誇らしげの顔を見て僕への愛情を感じた。

 学校から帰りつむぐの散歩を終えた僕の食欲はグンッと音を立てるように急上昇した。

 ハラペコだ。

 母はお皿を取り分けテーブルの上に人数分置いた。

 もちろんつむぐの分のご飯もちゃんと用意されている。

 流石元人間、「待て」ができる賢い犬だ。

 涼しい顔をしているが僕にはわかるぞ。尻尾。尻尾が揺れてるぞ。

 なんだかんだ待ちきれないんだろうな。不覚にも可愛いと思った自分に心の中でビンタをかました。

 中身はオッサンだ、正気に戻れ渉。


「よし、つむぐ食べていいよ! 」


 母の一声でつむぐはドッグフードが入ってるお皿にがっついた。

 良い食べっぷり。毎回惚れ惚れする程に。

 躾って大変なイメージだったから、咲衣家の番犬はつむぐで良かったと素直に思ったのは胸にしまっておこう。

 ハグハグと効果音が聞こえてきそうだ。

 僕も「いただきます」と言って両手を合わせた。

 母も同様両手を合わせて、スプーンを持ちポトフを口へ運んだ。


「ん〜!やっぱり自信作だあ!ほら、渉も食べてみて! 」

「ん…!うん、美味しい…!」


 文字通り自信作と言えるだろう。

 野菜たっぷりで歯応えも良く、栄養満点だ。

 これを食べられないなんて、元人間としてのつむぐはどう思うのだろう。

 さぞ羨ましがるに違いない。

 ポトフを食べながら横目でつむぐを見てみる。


「ングッ…ふ、あはっ!見て母さん、つむぐの顔」


 やはりドッグフードには勝てなかったようだ。

 僕の皮肉混じりの煽りを受信したのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 もしくは分かりやすく顔に出ていたのだろうか。

 おそらく「後で覚えてろよ」とか思ってそう。こわいこわい。


「ふふ、面白い顔してる。ポトフ食べてみたいのかな? 」

「多分そうだろうね」


 羨ましがるような、恨めしそうな顔をしてるつむぐの視線を感じながら咀嚼する。


「さぁて、記念すべき初登校!どうだった? 」

「とりあえず外観が凄かった。めっちゃオシャレな図書館みたいで感動して… 」


 今夜も豪華な食卓に談笑の花が咲いた。

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