第6話 枯葉が紡いだ出会い

 なんだかんだ時刻は十二時五十分、昼ご飯の時間だ。

 四時間目は移動教室では無かったので、授業が終わるとほまれ君は振り返り、ご飯食べようと朗らかな笑顔で誘ってくれた。


「知ってると思うけど、この学校は売店もあるんだよ」

「パンとか? 」

「ふふ、パンだけじゃないよ。普通におにぎりとか、麺類とかもあるし」

「そんなに⁉︎お弁当じゃない人への配慮が高すぎる… 」


 この学校だからなのか?少なくとも僕がいた高校ではそんなに種類は無かった。

 お弁当がない日は寄ってみよう。


「そうだ、渉君はなんで転校してきたの? 」

「うち、元々転勤族でさ。やっと安定して一軒家建てたんだ」

「へぇ〜、そうだったんだ!ここの制服珍しいよね 」

「うん、この制服も気に入ってるし、最後がここで良かったよ」


 登校初日にいい友達にも恵まれたし、幸先は良好とも言える。

 その後は雑談しながら昼食を終え、気づけば最後の授業を終えた僕は一息つくようにため息を吐いた。

 副教科以外は対して変わりはなく、安心して授業を受けることができた。

 問題は音楽だ。このままでは着いていけない。ほまれ君や先生に教えてもらいたい…いや、自力でも充分頑張るけど。

 不安を抱えつつも帰りの準備をする。バスの時間もあるし、マイペースにならないように気をつけないといけないな。

 徒歩通学のほまれ君と下駄箱で別れて校門を目指していると、どこかからピアノの音が聞こえたので思わず足が止まった。

 当然見渡してもむき出しのピアノなんてあるはずもなく…。


「音楽って風の流れにも乗れるんだ… 」


 おそらくどこかの教室からだろう。音楽室は防音らしいけど…窓でも開けているのだろうか。

 まぁ特に気にならなかったので再び僕はバス停を目指して歩き出した。


 バス停に乗って十分くらい乗ると、最寄りの駅に着いた。そこから色々曲がって少し不安になったが、無事初日は迷子にならずに家に着く事が出来た。


「ただいま…ってまたお前か」

「飼い主の帰りを待つ健気な可愛い子犬だろ?」

「僕には死神にしか見えないよ」

「お前はもう少し人の心を学べ」


 渉のお出迎えされながらリビングのドアを開けると、母が夕飯の支度をしていた。


「渉おかえり!どうだった⁈友達できた⁉︎ 」


 想像以上に食いついてきて話そうかと思ってた内容を落としそうになった。


「まあ、楽しかったよ。運良く良い友達も出来たし、僕、音楽にすごい興味が湧いたんだ! 」

「それは意外だわ!夕飯の時にまた父さんと聞かせてよ」


 母はせっせと夕食の準備をしながら、明日土曜日だし、つむぐの散歩頼んだよっ!というとすぐに夕飯の準備に戻った。

 帰ったと思ったらまたこいつか…!

 …まあでも、一応今日のことくらい話してやるか…。


「渉、ほら、つむぐ。散歩行くよ」


 つむぐは素直に玄関の方へ向かった。

 家族の前では猫かぶってるからな。

 外に出たら何言われるか溜まったもんじゃない。

 散歩道具を持ってドアを開けた。

 いつもと同じ枯葉の匂いだった。


「もう秋すっ飛ばしてこりゃ冬だな」

「んね、鼻のいいつむぐがそう言うんだもん。間違い無いよ」


 珍しく喧嘩をせずに公園まで来た。

 しかし、今日は先客がいた。


 高身長でスタイルがいいあの特徴的なシルエット…まさか。

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