第117話「神々の会議」
所はヴァーラスキャールヴ城。
一方、主神オーディンの方でも重臣達と議論を交わしていた。
広い会議室、上座の段に主神オーディンが控える。
出口まで伸びる長いテーブルの白湯に重臣達が居並び、議論を交わす。
「先日の模擬戦をご覧になられたか?」
「あれは凄かったでありますな」
「うむ、黄金騎士団といい、軍艦といい」
「あの黄金騎士団は、ワルキューレヒルトの臣下を希望しているらしいですな」
「ヒルトの扱い次第では、怒った黄金騎士団が反乱を起こしそうじゃ」
「軍艦は黄金騎士団が操る船、つまりどちらもワルキューレヒルトのものという事になりましょう」
「旅行に出ただけで、異国の神々とも親交を持ち、財宝を持ち帰ったとはな」
「オーディン様は如何にお考えでしょう?」
「あの様な軍艦を我が神界で造れるか?」
「あんな化物船を造れるだけの資金も技術も御座いません」
「何たる事だ」
「あの軍艦はアース神界に必要だ」
「接収出来ぬのか?」
「試みましたが、芳しく無く」
「あの軍艦はだたの船ではありませなんだ、生きているのです」
「軍艦が生きている?」
「どういう事だ」
「詳しくは省きますが、あの軍艦はワルキューレヒルトの物なのです」
「儂はワルキューレヒルトに報告書を書かせ知った事だが、
我が全霊を賭けて会得した『神聖ルーン』であった。
しかし、それは『言霊』の
我等はもっと外の世界を知り、学ぶべきとも思い知らされた」
「『神聖ルーン』が劣っていると申されるか?」
「我等には言葉が、文字が足りぬそうだ。
豊葦原瑞穂の国では文字は50音あると言う。
我等の使う文字は26文字、永い歴史と共に言葉や文字は失われたらしい」
「我等は言葉を失っていると申されるのでありますか」
「うむ、『言霊』が『神聖ルーン』の源流だったのだ。
これは儂独自に調べてみたから、間違いない」
「なんと!」
「今、儂は豊葦原瑞穂の国の言葉を学びに行きたいと思っておる」
「主神がアース神を留守にして如何しますか、お止め下さい!」
会議場には重臣の間で様々な議論が沸き起こった。
「オーディン様、別件となりますが、
前日の試合を観ていたワルキューレ達が皆、休暇届を出しているらしいですぞ」
「さもありなん」
「皆、ワルキューレヒルトに続けと気炎を揚げているそうな」
「ワルキューレが全員出払ってしまっては、機能不全が起こりますぞ」
「エインヘリヤルが黄金騎士団に暴行を受けたと聞き及んでおります」
「数を絞ってはどうだと計画書も届いております」
「む―――――――――――」
「このアース神界に新風が吹き込んで来たという事でしょうか」
「世界の新技術や情報、文化を取り入れねば、アース神界は遅れる一方になるでありましょうぞ」
「いずれ
「それに異論はない」
「アース神界を強化せよ」
「もっと大量に人材を、もしくは
「ワルキューレ達には、外界の知識、技術、人材、文化を持ち帰らせろ」
「次々に旅に出たいと願うワルキューレ達は何を持ち帰るでありましょうな」
「ワルキューレ達には、戦士以外でも人材スカウトを頑張ってもらいましょう」
「そうよな」
「ん―――――。仕方無い、
後、儂の所にヒルトを寄こしてくれ、知りたい事があるでな」
「畏まりました」
☆
私はフレイヤ様さから呼び出された。
「ヒルト、オーディン様がお呼びです、至急向かうように」
「はい」
「では、行きましょう」
「はぁ?
「見学者ですから」
「うん」
まったくもう、私なんか見てて何が面白いのかなぁ。
私の応援とか言っちゃってるけど。
出来れば
-----
私達は主神オーディンの執務室に呼ばれてやって来た。
上座にはオーディンの豪華な執務机があり、眼前では文官達が書類の精査に励んでいる。
何となく塾か学校の教室を彷彿とさせる。
ドアを潜ると文官に案内され、執務机の隣に見える談話室に通される。
その後、議事録を摂るための文官達が、オーディンに連れられ入室して来た。
「お呼びでしょうか、オーディン様」
「失礼します」
「しつれーします」
「うむ、良く参った。
一瞬面食らったオーディンだったが、気を取り直し、用件を繰り出した。
後ろでは文官達が筆記の態勢に入っている。
「豊葦原瑞穂の国の言葉を教えてくれぬか?
50音図とはどの様な物か、儂が知りたい」
「これです」
私は縦に『あいうえお』横に『あかさたなはまやらわん』と並んだ50音図と
「この升一つ一つに描かれているのは言葉であるか?」
「そうです」
「ふーむ、こんなにあるのか、で、どの様に発音するのだ?」
「あー、私では習いたてで全部を言うのは無理ですね」
「そうか」
「わたしならいえまーす」
「ジブリール様!」
そりゃぁそうだよね、本体が
ジブリールは50音図を読み上げた。
「なるほど、しかし我等には発音出来ぬ音があるな」
「練習と勉強しか無さそうですね」
数年留学した外国人だって喋れるようになるのだ。
習得するのは不可能じゃないはず。
その証拠に
「『言霊』を祀る神社もあると言うのだな?」
「はい、
「うむ―――――、行きたい、学究魂が疼く、行って儂も
しかし儂は主神だから、この世界から動けぬのだ」
「分御霊を創れば良いと思います」
「分御霊とな?」
私達の世界に分御霊の概念は無いんだよね。
「オーディン様、ジブリールは
分御霊が知る事は、本体も知る事が出来るんです」
「おお、そうじゃった、ジブリール様、分御霊はどの様に創るのか教えてはくれまいか?」
「いいですよー」
オーディンはジブリールに教わりつつ、四苦八苦しながら分御霊を創り上げた。
体は私が創って差し上げる事になっちゃったけど。
そして眼帯で偉そうな8才位の少年が出来上がる。
まだ別人格を創り上げるのは無理だったようで、性格は本体そのままだ。
一生懸命に普通の少年を演じさせるつもりだろう。
オーディン様に、どれだけ役者の才能が有るか知らないけど。
「ふむぅ、なるほどのぅ」
「名前はどうします?」
「ん―――――、そうょなぁ『デン』と名付けよう」
オーディン様のネーミングセンスは、私とドッコイだよ、それじゃ。
オーディンは横を向き、近くにいる文官に声を掛ける。
「ランドリック、近々休暇を取って旅に出るワルキューレは誰だ?」
「しばしお待ちを、…………ルトラーデで御座います」
「良し、ルトラーデにこの子、『デン』くんを同行させよ。
但し儂の名も、この子の出自も決して語るでないぞ。
ルトラーデは自由気ままに旅をし、『デン』くんは一緒に付いて行くという筋書きじゃ」
「畏まりました」
ランドリックは『デン』くんを連れて退室して行く。
いずれ身バレするだろうけど、その時ルトラーデは腰を抜かして驚くだろうなぁ。
どういう手筈でルトラーデに押し付けるのか興味湧くけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます