第115話「模擬戦闘訓練②海上戦」

海上模擬戦訓練当日になった。

オーディン様から訓練注意事項やルール説明がなされている。


右側に整列している黄金騎士団に、左側に整列しているエインヘリヤル達は、ニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。

どうやら、私達がロングシップ訓練をしている所を観たエインヘリヤルがいたようだ。

幸いにも沖に出ていた戦艦武蔵は見られていない様だけど。


黄金騎士団が海に不慣れという噂が広がっているんだろうな。

海上模擬戦訓練時に、私達は黄金騎士団の救助の名目で戦闘区域から外れた所で隠れて待機している事にした。


黄金騎士団の第一目的は、私達の所までロングシップを漕いで辿り着く事だ。


全員乗艦したら戦闘部隊と、弾薬を届ける輜重輸卒隊しちょうゆそつたいに分かれる。

戦闘部隊は機銃で威嚇射撃をして、乗り移りを防ぐ事にある。

それが今回の作戦になる。



今回の決闘も見届けるギャラリーも集まっている。

オーディン、トール、フレイヤ、テュール、三女神ノルニル、ルデグスタ課長、戦闘部のワルキューレ達の基本メンバーは同じだけど、今回は輜重輸卒部しちょうゆそつぶのワルキューレ達も観戦に多数参加していた。



「おや、お嬢さん達は海戦は初めてかい?

 ハンデをやろうじゃないか、これでも俺達はジェントルマンなんだ。

 レディーファーストだ、好きな場所と船を選んで良いぜ?」


「お手柔らかにお願いします」



エインヘリヤル大将格の男は、不安そうな副官アリエットに囁きかける。

アリエットも役者で、如何にも小動物といった風を装って、相手の優越感を引き出している。

さすが元王女、人心掌握術も身に着けているのだろう、食えない副官だ。



「皆さん、エインヘリヤル側より、私達にハンデを頂きました」


……よっしゃ、言質を取った!

  これで心置き無く戦艦武蔵を使う事が出来る。



戦闘領域は5km離れた小島を目印に、その一帯で海戦を行う予定になった。

私達は、その小島に隠れる訳だ。



海域を互いに10km離れた所から海上模擬戦訓練が始まる。

ギャラリー達は見晴らしの良い所から観戦するという訳だ。



「これより海上模擬戦訓練を始める!

 模擬戦訓練開始――――――――――――」



バァン


フレイヤの号令と共に、火球が爆発音とともに打ち上げられた。



両軍は一端それぞれの陣地まで100人乗りのロングシップで向かう。

黄金騎士団は総数2367名、24隻の船団で収まる事になる。

その数はエインヘリヤル側もほぼ同数に絞っている。

しかし、彼らの向かう位置は風上方面だ。


100人乗りのロングシップは左右50人づつで櫂を漕ぐ。

船縁に防壁を兼ねた丸盾を設置している。

この船は水深僅か1メートルの航海を可能で十分揚陸性能が高い。


この船は大きな帆で風を受け、櫂で縦横無尽に海上を移動する。

貨物輸送を目的としたクナール船ともなれば、一日で75マイル (121km) 航海する事がが可能だ。



ウッシ、ウッシ、ウッシ、ウッシ、ウッシ、ウッシ、ウッシ


双方同時に舟を出すけど、やはり非力で不慣れな黄金騎士団の進みは遅い。

両軍団の間はどんどん広がって行き、沖に出る頃には、ほぼ10km離れている。

これから船列をどう組んで、風を読み、操船する技術が物をいう。



「ヒルト様、ただいま到着しました」


「各船は錨を下ろし停船! これより戦艦武蔵を出現させる。

 騎士団員は船から速やかに乗船せよ!」


「武蔵くん、お願い」


「はい」



武蔵くんは全員搭乗を確認した後、舵輪を操作する。






ギャラリーとエインヘリヤル軍団は驚愕の声を上げる。


うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ


「何だあれは!」

「化物船が現れたぞ!」

「一体どこに隠れてた、いや、隠してたんだ!」



対戦相手のエインヘリヤル軍団はパニック状態だ。



「何だ、あの化物は」「あれはまるで海に浮かぶ鉄の城じゃねぇか」

「何で海の上で攻城戦をしなきゃならねぇんだよ」

「あの高さをどうやって登れば良い、どうやって白兵戦やるんだよ」

「なんたる悪夢だ――――――――」「俺達はまた負けるんかぁぁぁぁぁぁ」



これにはアース神界の神々も度肝を抜かれた。



「何だ、あの怪物は」

「いきなり城が現れたぞ」

「あんな船が有り得るのか」

「神話の記録にあんな船なんか無いぞ」

「あれが船だとでもいうのかぁぁぁぁぁl」

「島だ、島が動いている」



ボ――――――――――――

  ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ


「城が咆哮しおった!!!」

「これから何が起こるのでしょう?」

「何と恐ろしいものを……」



敵軍との距離は4kmほどになった。

近づく巨大な戦艦の威容はエインヘリヤル軍団を圧倒した。



「おい、何だよ、あの大きさはよ」

「俺達の舟より速いじゃねぇか」

「ううう、恐ろしい、俺達はどうされちまうんだ」

「悪魔だ、あれは悪魔の船だ、俺たちゃ皆、殺されちまう」

「俺はもう、逃げ出したくなったぜ」

「助けてくれよ」

「バッキャロウ、奴らにヴァイキングの勇猛さを見せつけてやるんだよ」

「本当に俺達で勝てるんだろうか」

「と、とにかく、船に登っちまえば白兵戦に持ち込めるさ」



------



「ヒルトさん、主砲を撃ちます。

 皆さんは甲板から急いで避難して、衝撃に備えて下さい」


「そんなに凄いの?」


「はい」


「アルレース、全員退避命令を」


「はいっ、黄金騎士団、艦内に避難――――! 衝撃に備えろ――――」



やがて戦艦武蔵の3連砲塔が回転し始める。

一応威嚇射撃だから、直撃を避けて陸上を狙う。

砲弾の飛距離約42kmだから、敵軍団の頭上を砲弾が飛んでいく事になる。



発射ファイアー!」


ドゴ――――――――――――――――ン


ドゴ――――――――――――――――ン


   ドゴ――――――――――――――――ン


主砲からは大音量の轟音、巨大な火炎と、凄まじく大量の黒煙が発生した。

艦内は巨大地震が起こったような衝撃に見舞われた。

同時に凄まじい爆風がエインヘリヤル軍団を襲い、ヴァイキング船は全部転覆してしまった。

もはや戦うどころではなくなった。


やがて大量の爆煙は風に流されていく。

https://www.youtube.com/watch?v=ihowrQfocXU

https://www.youtube.com/watch?v=by_OrGh-jEI



------



「何と凄まじい」

「恐ろしや、恐ろしや、恐ろしや」

「トールの雷でも、これほどの轟音にはなるまい」

「海上で巨大な炎と煙だと、何なんだ、あれは」

「怪物としか言い様が無い、本当にアレに人が乗っているのか?」

「離れているこちらまで大気が震え、衝撃が来たぞ」

「あの黒い煙は何だ、街が燃えている様な煙ではないか」

「あいつ、移動しながら撃ったぞ」

「こんなものが海戦だとでも言うのか」

「あの船、アース神界に欲しい……」



やがて遠くの陸地で爆発が起こる。



「あの轟音は何だ、陸地が抉られてるぞ」

「あの辺りは荒れ地で、誰も住んでいないから幸いだったな」

「あんなに遠くを攻撃出来るのか、あの化物は」

「世界はこれほどまでに進歩していたのか」



エインヘリヤル軍団はこの日、不戦敗を喫してしまう。

近代戦艦の前では、戦う事も許されなかったのだ。



BGMにどうぞ

https://www.youtube.com/watch?v=Dxay5r59cXY

Tales Of The VikingsTales Of The Vikings Theme Song 1960

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