第114話「海上訓練」

「はぁ、黄金騎士団の戦いは凄かったですね」

「かっこよかったですの」


「あんな軍隊だなんて知らなかったよ」


「ヒルト、あれは私にも勉強になりましたよ」



私達はヴァーラスキャールヴ城に設けられているお茶室で今日の試合の事を話題にしていた。

何仙姑かせんことジブリールと私、そして試合を観に来たチャンディードゥルガー様。

正直この世界のお菓子は、あまり美味しいとは言えない。

そんな訳でお土産品の中から、お茶に合いそうなお菓子を並べている。



「アルレースがあんなに強くなってたなんて知らなかったよ」


「将軍らしく黄金の鎧兜を身に着けていましたね」

「かっこよかった」

「用兵も手慣れた感じでしたよ」


「それにしてもあの鎧兜、どこかで見た様な、あ!

 ひょっとしてヘパイストス様謹製の」


「神具だったんですか?」

「あの大将軍に相応しい武具ですね」

「きれいだった」



「皆様、アルレース将軍がお出でになりました」


「お通しして」


「畏まりました」



ほどなくして城の使用人に案内され、アルレースとアリエットが入室して来た。



「失礼いたします」

「ご招待、ありがとう存じます」


「ああ、良く来た、適当に座りなさい」


「アルレース、今日の活躍は凄かったね、見直しちゃったよ」


「ありがとう存じます。

 お褒めの御言葉を頂き、至福の思いで御座います。

 これで私共をエインヘリヤル女神ヒルト様の戦士とお認め頂けますでしょうか」


「認めてあげたいけど、私、こんなだから。

 でもね、今、貴方達の主君に相応しくあるように修行中なの。

 だから、もう少し待っててね」


「御意に御座います」

「女神ヒルト様はこんなにもお優しくフレンドリーな御方だったのですね」


「どうして皆、私なんかに仕えたいの?」


「主たる女神ヒルト様が謙遜なさるは相応しくありません。

 ヒルト様は大将軍アルレースがお仕えしたいあるじです。

 臣下の我等もアルレース大将軍と心を一つにしているのです」



アリエット元王女は真剣に力説してくれる。

でも私は主なんて、何をしたら良いのか解らないよ。

何仙姑かせんことジブリール、そしてチャンディードゥルガー様はニヤニヤと見守っている。



「話は変わりますが、後日我等はエインヘリヤル達と海戦で模擬戦訓練を行う事になりまして」

「船に乗った経験の無い私達は困っているのです」


「今度は海戦をやるの?」



う~ん、こりゃ困ったねぇ。



「そうだ、武蔵くんの力を借りたら良いかも」


「武蔵くん?」


「武蔵くんは船魂で、本体は戦艦武蔵だたら、海のエキスパートに違いないよ、きっと」


「それは何で御座いましょう?」



チャンディードゥルガー様、アルレース、アリエットは何の事か理解が及ばない様子。



「出てお出で、武蔵くん」



私は依り代の小芥子を取り出し語り掛けた。

呼びかけに応えた海軍将校服の少年、武蔵くんが現れた。



「皆様、初めまして僕は戦艦武蔵の船魂です」


「船魂って?」


「船の魂です」


「戦艦武蔵って?」


「日本帝国海軍が建造した大和型二番艦の戦闘用の軍艦です」


「軍艦だってぇぇぇ⁉」


「軍艦って、もしかして軍船やヴァイキング船より大きい?」


「はい」


「武蔵君、お願いがあるの、黄金騎士団の方達、海上戦闘の経験が無いの。

 だから操船とか、海上戦闘を教えてあげてくれないかな」


「解りました」


「アルレース将軍、良かったですね」

「うむ、頼りにしている」







私達、何仙姑かせんことジブリール、チャンディードゥルガー様、そして私と黄金騎士団。

みんなで海にやって来た。


100人乗りのロングシップをチャーターして、船に慣れるとことからレクチャーは始まった。

この船は海戦模擬戦訓練の日も使わせてもらう事になる。

流石に総数2367人分の船は用意出来なかった。

だから代わる代わる船に乗り込み、オールを漕いでもらう事にした。


全員、揺れる船におっかなびっくりで乗船する。

次に長いオールを漕がなければならないのだけれど、騎士といっても女性ばかりだから、どうにもならない状態だ。

それでも頑張ってもらうしかない。



「うーん、沖に出るまで大分だいぶ時間がかかるねぇ」


「やっぱり女性だから非力なのは隠せませんね」


「私達も出て声援を贈ろうか」


「そうですね」



武蔵くんの小型水中翼船を出すと、残りの黄金騎士団員達から驚かれた。



「な、何ですか、その変わった船は?」


「小型水中翼船だよ、凄く早いんだから」


「小型水中翼船?」



「じゃ、ロングシップを追いかけようか」


「はい」



波止場から発進した小型水中翼船は、みるみる速度を上げ、船体は浮き上がる。



「船が飛んでる!」

「とんでもない船ですわ」

「何ですの、あの速さは、馬より速いなんて」






「ヤッホー、皆、その調子、頑張ってねー」



ロングシップの漕ぎ手達も、私達の船に度肝を抜かれていた。



「みなさん、あそこ、船が飛んでる! 飛んでますわ!」

「何ですの、あの速さは、馬より速いなんて」

「とんでもない船ですわ、誰が漕いでいるのでしょう?」



「ところで武蔵くん、君の本体というのは、どんな船なのです?」



チャンディードゥルガー様は戦艦に興味がわいた様子。



「御覧に入れて差し上げたくても、僕の力だけじゃ再現出来ないんです。

 それに浅瀬では座礁してしまいますから、これくらいの沖でなければ」


「なら、私も力を貸してあげますよ、ヒルトさんも貸すでしょ?」


「うん、もちろん」


「なら、私も力を貸してあげますよ」



何仙姑かせんこチャンディードゥルガー様も力を貸してくれるという。

私も武蔵くんの本体、戦艦武蔵の実物を再現でも良いから見たいよ。

武蔵くんは練習中のロングシップから離れた所で停船した。



「だいぶ沖に出ました、ここら辺なら十分と思います」


「じゃ、この船に力を注げば良いのかな」


「それで大丈夫かと」


「解った、それじゃ、いっくよー」



小型水中翼船はみるみる巨大な船に膨れ上がって行く。


そして完成したのが、全長263m、全幅39m、満載排水量72,809t。

46cm (45口径)砲3連装3基9門、15.5cm (60口径)砲3連装4基12門、12.7cm (40口径)連装高角砲6基×12

他機銃多数、零式水上偵察機2機搭載の化け物戦艦だった。


私達も黄金騎士団たちも、その威容に度肝を抜かれた。

ハリネズミのように彼方此方あちこちに機銃が備わっている。

大砲の大きさも常識外だ。

砲弾装填も人の手ではなく、機械で装填するらしい。



「急に海の上に城が……」

「あの城は鉄で出来ているのですか?」

「あ、ありえませんですわ」

「あれは島ではなく船だと言うのですか、何と非常識な船」

「私達では、あの船と戦えませんね」



「みんなも乗ってみるー?」


「あれは女神ヒルト様の船なのですか?」

「女神様が呼ばれています、私達も女神の船に乗れるのですね?」


「騎士団は縄梯子を掛け乗艦せよ―――――――」



乗員約3,300名の戦艦武蔵だから、黄金騎士団総数2367名は余裕で乗船出来た。



「少しクルーズしてみますね」



戦艦武蔵は汽笛を上げて動き出す。


ボ――――――――――――

  ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ



「この船の雄叫びなのでしょうか?」

「凄過ぎという言葉では足りません」




「この船が海戦模擬戦訓練で使えたらなぁ」



私のボヤキにアルレースが答える。



「使ってみれば良いではないですか」


「ヴァイキング船に対して戦艦武蔵だよ? チート過ぎだと思うの。

 それはあまりにも卑怯と言うか」


「戦いに卑怯も正義も無いのです。

 戦争とは、騙し合いであり、兵は詭道であります。

 情報弱者が戦いに負けるのです」


「じゃぁ、ちょっとやってみようかね。

 見つからなきゃ良いんだけど。

 ただ心配なのは、このチートな戦艦武蔵、エインヘリヤル達が絶対に認めないと思うんだよね」



どうにも戦の専門家、アルレースには勝てないね。

まぁ、認めないだろう事は考えるまでも無いね。

こんな巨大戦艦見せられたら、誰だって戦いたく無くなっちゃうよ。



「それについては、私事、アリエットにお任せ下さい。

 必ずや許可の言質を取って参りましょう」


「大丈夫?」


「御心配無用に御座います」



この後、黄金騎士団の面々は、機銃などの操作法を教えてもらう事になった。

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