第112話「エインヘリヤル vs 黄金騎士団」

「ヒルトの穴埋め要員が15名ですか。

 まぁ、それくらいでも助かりますね」



グラズヘイムに大量の女が来たと、古参のエインヘリヤルは大盛り上がりだ。

そればかりか、何人かはウエイトレスをしてくれるらしいという噂が駆け巡っている。

『女』というワードに回春作用があるかどうか知らないけど、要介護のエインヘリヤルも興奮して起き上がって来る始末。



エインヘリヤルレクリエーションルームで早速ナンパに挑む者もいる。

たいそうな名称だけど、実態は酒場だ。



「おい、どいつだ?」


「新顔だから、あのオネーチャンじゃねぇか?」


「おーい、オネーチャン、蜂蜜酒ミードだ、蜂蜜酒ミードをくれー」




暫くして小柄で気の弱そうな新人が蜂蜜酒ミードを運んで来た。

メイド服の似合う美女だ。



「お待たせしました」


「うへへへ、君、可愛いねぇ、名前は何てぇんだ?」


「ルネステルと申します」


「ルネステルちゃんかぁ、今度一緒しねぇか? 俺様の強い所を見せてやっからさぁ」


「それはどういうお誘いでしょう?」


「いや、それほどの事じゃねぇんだがよ」


「もしかして、ナンパでしょうか?」



若気にやけた顔のエインヘリヤルは、ルネステルの手を握ろうとした。

ふと顔を上げて、ルネステルの顔を見て驚いた。



「え?」


「き、さ、まぁ~~~~」



気の弱そうなルネステルの顔が、般若の様な表情に変貌しているではないか。

小柄ながらも全身から異様なオーラがゴゴゴゴゴゴゴと立ち上り始める。

彼女は一体何者なのかと、いぶかしがるエインヘリヤル達。



「私達が憧れたエインヘリヤルがこんな為体ていたらくでどうするか!

 そんな事で主君、神々の戦士たる矜持が何処にあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 許せん‼! 根性を叩き込んでやる、歯を食いしばり、そこに直れ!」


「あわわわわわわわわわわ」


「根性入魂!」「一魂注入!」「根性入魂!」「一魂注入!」「貴様も必要かー!」


「あわわわわわわわわわわ」


「根性入魂!」「一魂注入!」「根性入魂!」「一魂注入!」「まだまだいくぞー!」


「ひいいぃぃ、た、助けてくれ――――――――――――――――――」


「逃げるな根性無し!」「一魂注入!」「根性入魂!」「一魂注入!」「根性入魂!」



エインヘリヤル達はルネステルから怒声と、鉄拳制裁の嵐に見舞われた。

椅子と蜂蜜酒ミードが散乱する床に、数名のエインヘリヤルは床に倒れ伏している。

死屍累々の光景を作り上げたルネステルは、栄光ある『黄金騎士団』の一員なのだ。



「ふん、これ位で伸びるとは軟弱な、アルレース大将軍のしごきは、こんな程度じゃ済まないぞ」





新人が配属されてから、こういう事件は多発した。


エインヘリヤル福利厚生課のルデグスタ課長は頭を抱えてしまった。


古参エインヘリヤルの習慣化した生活に活を入れ、新しい風を齎すのは良い事だ。

それは長年望んで来た事でもある。

しかしエインヘリヤル神のための戦士達の自信を女性騎士達に根こそぎへし折られているのは大問題だ。

古参の戦士達が役立たずになってしまう。









「あのアマっどもめ、もう我慢ならねぇ」


「応よ、一発痛い目に合わせて、俺達の強さを見せつけてやらにゃあよ」


「だが、どうするよ」


「模擬戦闘訓練で思い知らせてやっぺよ」


「それが良い、アマっ娘どもは痛い目を見て思い知れば良いんだ」


「俺達はヴァイキングなんだぞ、恐ろしさを思い知らせてやれ」


「おい、誰か模擬戦闘訓練届を出しておけ」


「おう、俺が行く」


「なら俺は宣戦布告して来るぜ」



古参のエインヘリヤル神のための戦士達は模擬戦闘訓練を仕掛ける事で一致した。

届が受理されようが、されまいが、やる事は決定事項だ。








アルレースのテントに伝令兵が駆けこんだ。

『黄金騎士団』キャンプに通報が齎されたのだ。



「アルレース大将軍、古参のエインヘリヤル神のための戦士達が私達に模擬戦闘訓練を申し込みました。

 場所は練兵場の一角であります」


「ホッホッホッ、愚策ですねぇ、愚策、それも悪手中の悪手ですよ」

「古参のエインヘリヤル神のための戦士は私達の実力を推し量れぬ愚か者揃いのようですね」


「では?」


「受けましょう、そして蹂躙してやるのです」

「我等は栄光ある『黄金騎士団』なのです、至急各部隊長を呼び集めなさい」


「はっ!

 女神ヒルト様の為に!」


「「「女神ヒルト様の為に!」」」


「後、出番があるか判らぬが、工兵隊、22班、23班、24班は塹壕用意!

 26班、27班は軍馬の用意を、皆は武器防具の点検を済ませろ」


「はっ!

 女神ヒルト様の為に!」


「「「女神ヒルト様の為に!」」」



黄金騎士団サイドは急速に臨戦態勢を整えて行く。








館ではフレイヤ様が顔色を変えて走って来た。

私は座学でフレイヤ様の近習から教わっている最中だった。



「ヒルト、大変です」


「どうしたんですか? フレイヤ様」


「エインヘリヤルと黄金騎士団が対立して、模擬戦闘を始めるようですよ」


「えええ!」



私達は急いで『黄金騎士団』のキャンプに走った。



「アルレース!」


「おお、これは女神ヒルト様、御心配召さるる事はありません。

 私共に任せて大船に乗ったつもりで御観戦下さい」



模擬戦闘訓練は二つの陣地に分かれて行うようだ。

黄金騎士団は陣地の大将を護る形で塹壕を掘りに行っている。


塹壕戦は割と現代まで有効な戦法だ。

迫り来る敵兵に対し、身を隠しながら一方的に迎撃が出来る。

ただ突っ込んで来る敵兵は、片っ端から打倒されてしまうしかない。

塹壕戦は別名ミンチマシーンとも呼ばれている。

このため、塹壕戦同士の膠着状態が生まれてしまい、突破するために戦車が考えられた。


今回の模擬戦闘訓練で戦車が在るとは考えられない。

一応保険の意味で塹壕を用意しているが、そこまで攻め込まれる事は無いかもしれない。

ましてや騎馬戦闘だけでも、黄金騎士団は一騎当千のつわもの揃いなのだ。

そんな軍団が近隣諸国を蹂躙し、王国を拡大して来た実績がある。



「でもね、アルレース、相手は力が強い男性だし、蛮勇名高いヴァイキングなんだよ」


「どうって事ありません」



今のアルレースの体を見れば、強いのは一目瞭然だった。

全身に刀傷が無数に付き、異常なほど筋肉もついている。

出会った頃のアルレースはこんなんじゃなかったのに、と時の無情さを嚙み締めるしかない。



「ヒルト様、大丈夫です、私達は決して負けません」

「必ずや女神ヒルト様に我等の勝利を捧げます」



ああぁ、何でこうなっちゃうのかなぁ。

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