第111話「フレイヤ様」

数日後、私はルデグスタ課長に呼び出された。



「ヒルト、オーディン様より辞令が下りました。

 貴女はフレイヤ様の下に赴き、上級神としての修行を積んでもらいます。

 当面はフレイヤ様預かりとなりますが、新たな部門を新設するそうですよ。

 つまり、ワルキューレ輜重輸卒部しちょうゆそつぶ、エインヘリヤル福利厚生課担当部署からの栄転です。

 ですが、手不足の折ですから、貴女の穴埋めが必要になります。

 あの騎士団から何人か、こちらに回せるように話を付けて下さいね」


「解りました」



黄金騎士団の入る『戦士の館ヴァルハラ』は建築中との事。

流石に女性騎士を男ばかりの古参のエインヘリヤル達と一緒には出来ない。

だから別棟という事になり、そこが黄金騎士団専用の『戦士の館ヴァルハラ』となる。

大量に軍馬の調達も迫られるだろうから、費用捻出に揉めているらしい。








私は何仙姑かせんことジブリールを伴って練兵場にやって来た。

広範囲にテント村が出来上がっている。

しかし避難民じゃなく、進軍中の軍隊といった風情を醸し出している。

男くさい軍隊だけど、皆女性騎士軍団だ、アマゾネス軍団と言っても良いかも。

あの中には、姫騎士なんて可愛らしいのは一人もいない。



「こうして見ると、凄い大軍団ですね」

「みんな訓練してるです」



そのうち私達に気付いた人が大声を上げる。



「おお~い、皆の者、女神ヒルト様がお出でになられたぞ」


おおおぉ――――――――――――――

      おおおぉ――――――――――――――

 おおおぉ――――――――――――――


「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」

  「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」

 「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」



「ヒルトさん、凄く人気者ですね」

「凄いですの」


「恥ずかしいから止めて欲しい」



私はアルレースとアリエットを呼んで二柱ふたりに紹介した。

二人は片膝を付き、騎士の拝礼で二柱ふたりに自己紹介と挨拶をする。



「我等が女神ヒルト様の御同輩の方々で御座いますね?

 私はアルレースと申します」

「私は副官のアリエットと申します、以降お見知り置きを」


「いや、二柱ふたりは私の師匠というか」


「これは大変失礼致しました」


「私は崑崙仙界の何仙姑かせんこです」

「私は豊葦原瑞穂の国の豊宇気姫とようけひめ分御霊わけみたまジブリール」


何仙姑かせんこ様とジブリール様に御座いますね」


「みなさん、よろしくね」


「御意に御座います」



う~ん、二人とも武人臭ハンパないんですけどぉ―。

まぁ、アレクロウド王国の大将軍と副官だしなぁ。

アリエットなんか第三王女様だったなんて見えないよ。

寿命終えた今、アレクロウド王国騎士団じゃなく、エインヘリヤル私の戦士達を目指している訳だが。



私はアルレースとアリエットに私の穴埋め要員として、何人かウエイトレス業務に就いて欲しい事を伝えた。


アルレースは少々意外だという顔をする。

皆騎士という事は、生前は貴族だったのだろう。

貴族として女給という平民の仕事に就くのは抵抗があるに違いない。



「ウエイトレス業務で御座いますか」


「アルレース大将軍、不敬ですよ?

 主君の代理を務められるなんて栄誉では御座いませんか」


「すまぬ」


「今、『戦士の館ヴァルハラ』を新たに建築していますから、完成後にそちらに移ってもらう事になるでしょう。

 私は暫くの間、フレイヤ様の下で修行の日々を送る事になりました。

 その間、指導官の指示に従ってください」


「御意に御座います」

「修行からのお帰り、心よりお待ち申しております」



私は皆を激励して、この場を後にする。

フレイヤ様の下に向かわなければならないのだ。



「ヒルトさん、フレイヤ様って、どんな方です?」


「あぁー、フレイヤ様ねぇ」



フレイヤ様はヴァン神族でスレイの双子の兄妹にあたる方だ。

豊穣・幸運を司っていて、オーズという旅の神との離婚歴がある。

ヴァン神族はアース神族と戦争もしたが、同盟の証に二柱ふたりは送られてきて居候している。

セイズという呪術的魔法の使い手であり、死者の魂の管理者でもあるワルキューレの総統率者。

どうしようもない悪癖があって、性に奔放で逆ハーレムを作っていると有名だ。



「逆ハーの主ですか、何と羨ましい」


「仙人って性欲無いんでしょ?」


「そうとも限りませんねぇ、呂 洞賓りょ どうひんの師、壺公こと鍾離 権しょうり けんは女好きでしたし」


「そんなもんかぁ」


「でも性欲コントロールくらい出来なければ、仙人行なんて出来ませんから」


「て、事は仙人は女好きを演じてる? 何仙姑かせんこさんは食いしん坊を演じてる気がするけど」


「ふふふ、どちらでしょうね」





フレイヤ様の館には、噂通り若い男ばかりいる。

中には妖精やエルフもいるけど、男コレクションの内に違いない。

料理番や、この広い庭を手入れする庭師も男だろうし。


貴族の邸宅ほどの規模の館の中に、どれほど男を囲っているのやら。

正に好色女一代って所だね。


男の門番に来訪を伝え、館の中に案内してもらう。

館の中の使用人達も当然、綺麗な男ばかりだ。



「はあぁ、これが本物の逆ハーレムって奴ですか」

「周りが男ばかりで怖くないですの?」


「主なら恐く無いんでしょうね」



男に襲われると言うより、フレイヤ様が男を襲う側だから。





私達が館の中を珍し気にキョロキョロと眺め回しているばかり。

やがて主人であるフレイヤ様がやって来た。

勿論、小姓というか、男の側近を引き連れて。


部屋に在るソファーに座ると、正面に私達に座れと手を振った。



「ヒルト、良く来ましたね、そちらの方達は?」


「え、と、私の付き添いというか」


「何言ってるんですか、何仙姑かせんこ様とジブリール様じゃないですか。

 お二柱ふたりをお連れしちゃって、どういうつもりなんです?」



目を三角にして怒るフレイヤ様に対して、何仙姑かせんこは助け船を出してくれる。



「まぁ、まぁ、私達の事は、ただの見学者だと思って下さい。

 今まで旅で一緒だったヒルトさんを応援しようと思って勝手に付いて来たんですから」

「わたしもー」


何仙姑かせんこ様にそういわれると断り辛いですね。

 それにしても、見学者付きですか」



フレイヤ様は渋々と受け入れてくれた。

先日オーディン様より勅命を受けたと言う。


ヒルトの連れて来た『黄金騎士団』は、ヒルト以外の者の言う事に応じないそうだ。

『黄金騎士団』はあくまでもヒルトの臣下を主張して、主君以外に仕えないと意固地になっているとか。

例え相手が神であっても「退かぬ!! 媚びぬ!! 省みぬ!!」と鼻息が荒いらしい。

人手不足の折、大量の新人は有難いけど、これでは困る。


ならば苦肉の策として、

『黄金騎士団』が主と仰ぐヒルトを出世させ、『黄金騎士団』を纏めさせる方が良いと決まったらしい。

そのためにもヒルトには、上級神たる修行が課せられたというのが経緯だった。

誰が修行を付けるかという段になって、ワルキューレを総統括するフレイヤに白羽の矢が立った。



「そういう訳なのですよ、ヒルト」


「はぁ」


「良いですか? 私はビシビシ教育しますからね」



あぁ、こりゃあれだ、モテ廚で同性の女に嫌われるタイプだ。


そんな私を何仙姑かせんことジブリールは、面白がって見ている。


ホント、みんな性格悪いんだから

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