第93話「横浜食べ歩き」

横浜は東京江戸と違い、外人居留地があったから、海外の息吹があるそうだ。

https://travel.rakuten.co.jp/mytrip/ranking/spot-yokohama



「ここには外国船が沢山来るらしいですね」


「へぇー、どんな船が来るんだろうね」



神界は中世世界をモデルに創られている。

いや、逆かもしれないけど、中世世界風というのは最高神の方針なのかもね。

そんな環境で想像出来るのは、精々三本マストの戦列戦艦がやっとといった状況だ。

にも拘らず、ここの世界の船にはマストも帆も無い動力船が主流だ。


観光で一番楽しめる時代にやって来ているから、文明の進歩度が凄い。

ここの港で見るどの船も、私の知るロングシップよりでっかいから目を見張すばかり。

一番大きい100人の戦士を乗せるドラゴン船ドラッカーで、34組のオールを持つ船が精一杯だね。

https://26506.mitemin.net/i570201/



「うげ! 何じゃあの船は、つか、船なのか? 島じゃなくて?」


「あれはクルーズ船という大型豪華客船ですね」



大型豪華客船クルーズ船の凄さに私達は驚いた。

かつて沈没で有名になったタイタニック号の二倍以上の大きさがあるそうだ。

クルーズ船の大きさは241mから347mと何隻か存在しているという。。

https://www.excite.co.jp/news/article/Labaq_51864530/


総トン数22万8081トンで最大乗客定員6680人の世界最大の豪華客船は『シンフォニー・オブ・ザ・シーズ』号と言うらしい。



「ちょっと、何あれ、8階建てのホテルが乗ってるんですけどぉ。

 あれは船と言うより、島じゃないの?」


「アイヤー、あんなにトップヘビーで、よく転覆しないですね」


「因みに武蔵くんの本体はどれくらいあるの?」


「僕の本体は263mで、あの船より少し大きいですね」


「げげげ! 十分に化物船だねぇ、良い意味でだけど」



総搭乗員数が約3,300名で基準排水量は64,000tもあるそうだ。

45口径46cm3連装砲塔を艦橋の前に2基、後ろに1基の計3基9門を搭載していたという。

その大砲の最大射程は42,026にも達するらしい。

それはつまり弓矢や魔法、バリスタでは届かない遠方から、艦砲射撃をして制圧する事が十分可能という事だ。

https://26506.mitemin.net/i570203/



「敵戦に乗り移って白兵戦する必要が無さそうだねぇ」


「うん、そんな事しないですよ」


「じゃあ、どうやって戦って負けたの?」


「無数の航空機に爆撃され、魚雷を沢山打ち込まれたんです」



人だって無数の虫に襲われたら無事じゃぁ済まないだろう。

そう考えると当時の状況は解る気がした。


見れば武蔵くんは辛そうに目を伏せる。



「あぁ、ごめんね。辛い事思い出させて」


「いえ、もう済んだ事ですし……」



私達は港沿いに歩いて山下公園に行ってみる。

中でも武蔵くんの目を引いたのは、係留されている『氷川丸』だ。

戦後、復員船として活躍したという。

http://jinja-kikou.net/hikawamaru.html


夏には船上ビアガーデンが行われていたりするそうだ。



「羨ましいです。

 船の皆さん、晴れ晴れしい活躍が出来て。それに比べて僕は……」


「そんな事無いから、武蔵くんはしっかり私達の役に立ってるから元気出して、ね?」


「そうですよ、私達を伊勢から連れて来てくれたじゃないですか」


「そうですの、あの速さにみんな驚いたの。武蔵くんは凄い船に違いないの」


「いずれは戦艦として働いてもらう時もあるかもしれないよ?

 だから自信を失わないで」



そうは言ったけど、武蔵君の本体を復元するとなると、創る材料や財源をどうしよう。

内心、色んな意味でむっちゃ冷や汗が出る。

チートな船を再現するためには、それだけチートな能力も必要になる。

神の能力で、どれほど対応出来るだろう。

そんなの私には無理そうだ。





私達は船の博物館で色々な映像を見て少しだけ勉強をする。

バイキングの頃からどれ程船は進化したんだろうね。



「ちょ、何これ、たぶん凄く大きな船が急旋回してるよ」



大型空母のドリフトスピード旋回

https://www.youtube.com/watch?v=kHX-qv-RVGg



「空母といって航空機を何機も収容したり、発進や着地が出来るんですよ」


「それって、どれほど大きいんだろ」


「説明見たら319mだって」


「武蔵くんが263mだから、もっと大きいんだ」


「アイヤー、さすがアメリカの船ですね」


「戦列艦の大きいのでさえ70m位だから、武蔵くんは物凄く大きいよ」



1805年のトラファルガー海戦において、イギリス海軍の1等戦列艦ヴィクトリーはそれくらいだったはず。

三階層で104門も大砲を積んでたらしいけど、前装填式の大砲で丸い砲弾を飛ばすんだよね。

三本マストの帆船で、この規模は当時は凄かった。


思えばジュール・ヴェルヌが1870年に発表した『海底二万マイル』は、トラファルガー海戦の65年後に書かれたんだぁ。

その当時もまだ帆船から動力に移り変わる時代だったのに、潜水艦を想像してたのは凄過ぎだね。

博物館の資料によれば、最初の潜水艦は1897年に造られたホランドだったようだ。


何か色々凄いよね。

世界初の潜水空母イ号401くんも手に入らないかな。



「船見てると武蔵くんが暗くなるから、次に行きましょうよ、中華街とか」


「中華街というと、神になった関羽が祀られてるんだっけ」


「そうですよ、『関帝廟』があるんですよ」


「関羽雲長って、単に蜀の武将に過ぎなかったはずだよね」


「歴史的有名人で人気が有れば、神として祀られちゃうんですよ。

 諸葛孔明だって祀られてますし」


「うーん、何だかなぁ。

 関羽って蜀の武将だけど、ヤクザみたいだし」


「アイヤー、それは偏見というものですよ。

 強い武侠でもあり、死ぬまで劉備に仕えた忠義の士で凄いんですから」


「でも主の劉備や張飛は、人気がイマイチというか」



そんな話をしながら中華街に足を運んでみた。

エビチリやマーボー豆腐、エビのマヨネーズ和えの発祥地らしい。

陳 建民という有名な人が創作したり、ローカライズしたと言う。










https://www.welcome.city.yokohama.jp/chinatown/



「門を潜っただけで随分雰囲気が変わるね」


「そうですね、ここだけ本場の中華というか。

 食べてから関帝廟に行ってみましょう」


「そだね」


「どの店が繁盛してますかね。

 繁盛してる店なら、ハズレは無いと思うんですけどね」



世界三大料理として『フランス料理』『中華料理』『トルコ料理』が有名らしい。

けど近年何かと『日本料理』が広まりを見せていると聞く。

まぁ、無理もないよね、この国は麺料理もやたらと種類が多い。



「ヒルト様、私も色々味わってみないのですが」


「あ、丸藻まるもも食べたいんだ。

 いままでずっと静かにしてたから忘れてたよ、ごめんね」



丸藻まるもには秘密裏にこの国のお金を手に入れてもらってる。

お陰で何かと資金に困る事が無くなった。


私達は目に付いた適当な店で食事をする事にした。

五柱ごにんでの入店ともなると、時間的に席が無さそうに見える。

どうしようかと考えてると、女将が席に付いて待っている客に大声で命令して動かした。



「あんたたち、あっち!」


……をいをい、何か迫力が凄いね。


「まぁ、中国人って声が大きいのが有名らしいですし」



申し訳なさそうな顔で何仙姑かせんこが言う。

彼女が大声で話しているのを見た事が無いけど、仙人の仲間内だとどうなんだろうね。


中国人経営の本格的料理店で回転する丸いテーブルや陶器製の匙れんげは存在しないらしい。

それらは日本人の発明らしい。


この店は点心飲茶の種類がやたらと多かった。

焼売・水餃子とか小籠包、春巻き、中華まんを含め、約50種類はありそうだ。

どうやら本格的な点心師という、点心専門のコックがいそうだね。

私達は味が被らなそうな物をチョイスした。


他にも、皮つき焼豚の東坡肉トンポーロー、牛バラ肉の煮込み、フカヒレや大海老そして鮑や北京ダック、本場の四川麻婆豆腐を注文した。

どれも美味しいんだけど、最後にチャーハンで〆る。



「どれも、お美味しいと思うけど、味のバリエーションが少ないかな」



ジブリールは少々物足りなそうな顔をする。

本体が豊受姫だから、そう思うのかも。

何仙姑かせんこ以外、私達にとっては異国の料理として楽しめる。



「次は関帝廟ですね」



関帝廟は中華街の中にあるから、すぐに辿り着けた。

中国のお寺といえば、道教という事になるのかな。

私達は大きな線香を買ってお参りをする。

本堂の中に赤い顔の関帝像が祀られていた。



「ふぅん、あれが関羽さんかぁ」


「じゃあ、次行こうか」


「女神様方、お待ち下され」



踵を返す私達に関羽が声を掛けて来た。

このパターンも何度目かな。

神として祀られている関羽でも、人間の霊に変わりはない。

関羽様直々にご挨拶に来たと言う。


関聖帝君は言う。


「混沌は大極を生じ、陽気開天し陰気闢地される也。

 その時、天地の境界は生まれ、領域の分割を果たしたり。


 天に元亨利貞の四徳あり。

 元徳は萬物を発生せしめ、亨徳は繁長を促し、利徳は結実を為す也。

 そして貞徳は収休させ、四季は運行される也。


 人は寒暖を以って春夏秋冬の四季を分けんとするも、四季は連続し分け難し。

 そこで1年を24節気、72候に分断し、点の移行を以って季の移を表し2至2分(夏至と冬至、春分と秋分)を中心に4立(立春・立夏・立秋・立冬)を境界としたり。

 2至2分を中心に6節気を以って1季とするも、境界たる4立は互いに隣接する季の気を有し分かち難し。

 然れど、境界たる4立にて分かち難きと雖も季節は確実に巡りて、境界の存在を証明するなり。


 境界とは、2つ以上のものが集まりし時に、領域を明然とする為に設けられる也。

 この境界の定め方に点と線あり。

 点とは2つ以上の領域の特質を有するものが集いて境界となる也。

 これ恰も点が集まりて、曲線を描くが如し。


 霊団の境界等に於いて申す事が出来る也。

 6萬年の長き輪廻にて霊性は夫々違いたり。

 因業は魂の輝きを失わせ、気質性の違い等を生じ、1霊として同じもの無し。

 然れど霊質は違えども、似通った霊は存在す。

 その時に類は友を呼びて集まり、2つ以上の集団の特質を持つ魂が集まりて境界となりたり。


 線とは第三者が領域の意義を定め、意図的に分かつ方法也。

 その時第三者は公を以って為し、個なる私議を挟む事許されず。

 神事を行いし時、結界を張りて領域を定める事あり。


 第三者は祭主にして、神の意を以って領域を定む也。

 縄を以って領域を視覚化させ、縄なる1本の線にて清き場と不浄れし場を分かつなり。

 神の意のみを以って祭主は為し私議挟む事無し。

 若し、個なる私議を挟めば、結界を張るも領域の意義は失われ、聖俗は混沌と渾然一体化するなり。


 点による境界は、不明瞭にして定め難し。

 これ目に見えぬ、内に於ける点も含まれる為也。

 線なる境界は明瞭なるも、第三者の公は、第三者以外の他にとりて、個と受け取り易く認め難し。


 境界とは、己の存在を定着させるもの故に人々は嫌う也。

 明瞭不明瞭に関わらず、領域内に在す霊は守るべきものあり。

 境界を越えぬ事也。

 境界を越えれば領域内の秩序は乱れ、境界を不明瞭とする様になる也。

 境界を守り、秩序を保つはこれ理也。


 秩序を保つには、領域内の絶対なる規則を守るにあり。

 規則破らば領域内の居住権失いて、彷徨する事とならん。

 領域内の規則を守り秩序が保たれれば、領域間の秩序も保たれる也。

 領域内の秩序が完全になればなる程、領域間の秩序も保たれ、複数の領域が会する事とならん。

 これに依りて複数の領域は一つに纏まり、更に大きな領域を形成する事とならん。


 領域が集い新たなる境界が定められれば、現今の境界は新たなる領域の秩序として革新されるなり。

 領域の集合に於いて一つの境界が定まるも、領域内の秩序は細分化され纏められる所以也。

 領域が、完全なる領域が集合する時、それを統合と呼ぶ也。

 統合とは秩序の集合にして、個々の領域の秩序の完備無くして語る事能わず。

 統合を目指す者は、常に最小単位を纏め、更に大いなるものに挑戦せねばならず。

 完全に秩序が保たれし領域同士が集えば統合は為されるも、不完全なる秩序の許に領域が集えば領域は乱れ、互いの勢力を誇示する乱世の争いとならん。

 統合は集合の着目よりも、各々の領域の秩序の保持に在るを知るべし」



「うわあああぁぁぁ

 ごめんなさぁい、もう許してぇぇぇぇー」



私はもう逃げるしかなかったよ。

元は実直な武将だけあって、物凄く性格が硬くて息が詰まりそうだった。

あの硬さは金剛石ダイヤモンドより硬いかもね。

凄く為になる良いことを語られてるんだけど。


関羽といえば、筋骨隆々の大男ってイメージだよね。

赤ら顔というイメージは私には薄かった。

顔が赤いって事は、大酒呑みって事なのかな。


三国志演義で青龍偃月刀という刀身のデカイ薙刀のような武器で戦ったとある。

刀身が大きくても振り回せたのは、当時は青銅器の時代で、青銅は鉄より重くない。

だから大きな刀身の武器でも扱えるのかなと思ってたけど、当時はそんな武器は無かったらしい。


西暦184年からの三国志には正史と、娯楽作品としての演義が有るという。

世間的に有名なのは演義の方で、皆超人的に描かれているようだ。

やっぱ、地味な正史より、超人の戦う演義の方が面白いよ。


紀元前1046年の周と殷の戦いの時代を描いた『封神演義』がある。

その仙人の時代からいる何仙姑かせんこは、関羽より年上という事になる。


そりゃ崇められるよね。

薄々感じてたけど、何仙姑かせんこってヒルトより年上なんだ。




関帝廟を後にした私達はラーメン博物館へ向かった。

建物内に展開する昭和のレトロな雰囲気が何だか良い感じだ。



「ラーメンって本当に沢山種類が有るんだ」


「でしょう? この国、店の数ほど味のバリエーションがあるってのも過言じゃないですよ」



同業他店が多いほど競争原理が働いて、より多くの個性を生み出したそうだ。

中にはチェーン店もあるから、全ての店の味が違う訳じゃないだろうけど。


ここでは普通より小さい丼があって、色々試せるようになっているのも嬉しいね。

私達は一通り全店食べ歩いた。


その後、●●●ヌードルミュージアムを回り、有名なシウマイをお土産用に大量に買い込んだ。

それにしても、シウマイ? シューマイ?どっちが正しい言い方なんだろ。



「次は横須賀だねぇ」



そんな事を話ながら歩いていると、一人の女性が暗い焦燥感タップリの表情で歩いているのが目に付いた。



「あれなに?」


「あー、何かに憑かれてるね」


「取り敢えず祓っておきましょうよ」


「そだね、ペイッと」



怨念を持つそれは神族の私でも簡単に祓う事は出来る。



「祓ったは良いけど、この人はこの後どうするんだろ」


「気になりますね」


「こっそり付いて行くですの」



気になった私達は気配を消して付いて行く事にした。

何かあっても守ってあげる事くらいは出来るだろうし。



※関聖帝君のお言葉は、天道御聖訓より引用です。

 魂の琴線に触れる方には、ぜひどうぞ。哈哈哈!

 苦手な方にはスルー推奨です。

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