第91話「言霊の神社」

私達は木花咲耶姫このはなのさくやひめ様の御前を辞して次に向かう事にした。

西に向かい、富士川と大井川を越した所に在る事任ことのまゝ八幡宮が目的地だ。

言霊の神様、己等乃麻知姫ことのまちひめのみことを古来よりお祀りしてるという。

摂社として天照大神などをお祀りする五社神社・稲荷神社・金刀比羅神社が散在する。



「この国って何にでも魂が宿るんだぁ」


「そうですね」



魂とはタマとシヰの二つ一組からなる。

タマは宇宙の源から来りて地球上のシヰと結びつく。

シヰは『欲シヰ欲シヰ』のシヰ。

強いるのシヰであり、生命維持の欲求の事を指す。


対してタマは心の主体を指す。

生命が尽きると物質が離れてタマシヰも分解する。

タマは大宇宙の中心に戻り、シヰは欲求だから地球上に残る。

これが生まれ変わりの事で、生成と分解を繰り返しながら世界を循環する。


その有様が『輪廻転生』の実態。

中には稀に分解しきれなくて記憶が残る事もある。


『魂』は物質じゃないから、そんな物は無いと主張する人もいるようだけど。

実際には物質じゃないものは、いくらでも存在している。

観察して『在る』と認めなければ、無いも同然でもある。

けれど、そういう認識じゃぁ法則通りにしか結果は出ない。


仏教では、観察を追及しまくって『シヰ』を意識のコントロール下に置く。

仙道では、『シヰ』に影響されない体を創る事で、『シヰ』の欲求を飽和させる。

それが修行の方向性の違いだろうね。









静岡県一之宮、事任ことのまゝ八幡宮に到着した。

http://kotonomama.org/

「ことのまゝの明神」、つまり願い事が叶うお宮として有名らしい。

但し、言霊の法則と用法を知らなきゃ駄目なんじゃ?




「意外と小さい神社なんだねぇ」


「でも私達を歓迎している印が見えますよ」


「え? そんなのが有るの? どこに?」


「鳥居の上、木々の茂りに〇があるでしょう?」


「うーん、、そんなもんかなぁ」




御祭神の己等乃麻知姫ことのまちひめのみこと様は天児屋根命様の御母堂にあたるらしい。



「ごめんくださーい」


「はいはい、ようこそお出で下さいましたね、はい」



何か軽そうな方が出て来たよ。

でも、自己紹介で、この方が己等乃麻知姫ことのまちひめ様で間違いじゃない様だ。

言霊の大先生でもあるはずだから、雰囲気に惑わされたら駄目だろう。



「あのぅ、ここを言霊の神社と伺いまして」


「はい、さいで御座いますよ」


「言霊について教えてもらえたらと思いまして」


「お教えするのは良いのですが、結構ヘビーな内容になるかと」


「え、ええ、構いません」


「では、こちらへどうぞ」



どうせ講義中は子供組には退屈だろうから、自由に遊んでいてもらう事にする。

神社周辺には道の駅くらいしか楽しめそうな所は無いけど。


私達は巫女さんに本殿へ案内され、奥の一室に通された。

畳の部屋で椅子の用意は無い。



「低い文机があるだけですねぇ」


「もしノートを取りたければ、これをどうぞ」


「あ、はい、ありがとうございます」



やがて己等乃麻知姫ことのまちひめ様は私服に着替えてやって来た。

私達の前に用意された座布団に正座で座る。

よくあんな座り方が出来ると、いつも感心するよ。



「はいはいはい、お待たせしましたね。

 さて、『言霊』を語る前に『言葉』から説明した方が解り易いでしょうかね」



言葉は『音波』であり『エネルギー』そのもの。

音波は波であるから波長が存在する。

波長には生物や物質の持つエネルギーを増幅させ強化する『正』と反対に作用する『負』がある。



「これは理解出来ますね?」


「ええ、まあ。

 良い言葉と悪い言葉があるんですよね?」


「そうそうそう、その通りです、はい。

 次に『エネルギー』は何かを説明するに、量子物理学論を絡めますよ?


 万物は総て素粒子の塊に過ぎないのですよ。

 『正』と『負』は流れの方向性の因果ですね」


「はぁ、すごく難しいお話になりますねぇ」


「そうなんですが、まだまだ続きますが、我慢してくださいね?


 あらゆる物は『原子』で成り立っているのです」



原子は分解すると『中性子』『陽子』『電子』で構成されているという。

そして更に『中性子と陽子』は『クォーク』と名付けられた小さな要素に分解出来る。

現状では『電子』と『クォーク』はそれ以上分解出来ない。

つまりそれ以上分解出来ない最小単位のものを『素粒子』と定義している。

この『素粒子』を研究しているのが『量子力学』なのだと説明された。


原子は中心にある原子核と、その周辺を高速で回転している電子があり、『空間』で構成されている。

それはあたかも惑星と衛星の関係にも似ていて、それぞれの間にかなりの距離がある。

距離の間は何も無い『空間』という事も同様に考えられる。



「それを踏まえると原子の集合体である人間も空っぽという事がお解りになるでしょうか?」


「でも人間は『物体』として存在しているんですよね?」


「そうそうそう、それは何故そうなっているか? それを説明しましょう、はい」



それは99.99%以上の『空っぽの空間』を電子が途轍もないエネルギーで高速運動しているからだという。

電子が原子内を超高速で運動し、その強力なエネルギーが固さのある物質を作っていると説明された。



「アイヤー、それは『気』の説明と似てますね」


「そうですか、私には『気』の事は解りませんが、同じと考えれば理解出来ないでもないですね、はい」



万物は物質と言うより、エネルギーと見る方が正しいだろう。

その『エネルギー』が想像を絶するスピードと、無限のバラエティーによって私達にあらゆる『物質』を『見せている』のが世界を創っているものの正体だと断定出来る。


以上の事から森羅万象万物の全てが『エネルギー』であり、『私』も『貴方』も『エネルギー体』であると量子力学という物理学で説明が出来る。

物質になるほど凝縮した物には途轍もない『エネルギー』で構成されている。

『目に見ある学問』や『量子力学』は『この世にはエネルギーしか存在しない』事を証明しているのが解る。


また量子力学では、素粒子はこの世の『常識を超えている』事を証明している。

その一つが素粒子は『目に見える物質』であり『目に見えない波動でもある』という事。

素粒子は『観測すると物質化する』。

観測していないと『波動になる』。



「世界の全ては『エネルギー』で出来てるんですかぁ」


「古代において『言』と『事』は同一の概念で、

 漢字が導入された当初も『言』と『事』は区別されずに用いられていたのですよ」


「うん、言葉も物も事象も『エネルギー』なんですね?」


「言葉は事象そのもので、事柄やモノに作用する事を祖先達が知っていたのでしょう」


「それをどうするかが『言霊』の極意になるんですか?」


「いえいえいえ、まだまだまーだですよ。

 今までの説明は『言葉』とは何かの説明段階です」


「凄く難しいお話しだったんですね」


「神の英知に関わる事ですから、はい」



己等乃麻知姫ことのまちひめ様の講義は続く。


言葉は『音波』であり『エネルギー』と同義のものという事になる。

発せられる言葉は善悪の区別も、例外も無く『言霊』として貴方や貴方の環境・周りの人・動植物に影響する。

この観点からすれば『言霊』は程度の差はあるけど『誰でも使える』という事になる。


そして『量子力学』では、意識が全ての『状態を確定させる事』を『証明している』。

つまり『貴方の意識』が『貴方の世界』の『万物の状態』を『決定』している。

『貴方の意識』が関与するまでは、全ては『無限の可能性』でしかない。


言霊をより強く発動させるには『確信』と『力道』がポイントとなる。

『概念」と『潜在意識』を『コントロール』して『確信を持って言葉に乗せる』。

『具体的なイメージ』を伴う事が出来れば尚更良いという。

つまり『言霊』は『素粒子』への『強干渉』に他ならない。



「魔術や神聖ルーンと同じなんですね?」


「はいはい、そうですねえ、けど根本に大きな問題もあるのですよ」


「問題ですか?」



『倭言葉』は特に言霊の作用を決定付けるのに向いていると言う。



「『言霊』は全ての呪文の根源であり、源流でもあるのですよ。

 貴女方の言葉、文字はいくつありますか?」


「アルファベットは26文字だと思いますが」


「つまり、26音の組み合わせで言葉を話しているのですよ。

 対して『倭言葉』は50音ありましてな」


「50音、50文字もあるんですかぁ」


「はいはいはい、そうなんですよ、はい」



母音五文字に子音が九列存在する。

意味のある子音を繋げる事で力道が形成される。

発音振動は力道を通り現実世界に影響力を与える。

それこそが『言霊』の極意になるそうだ。

力道を繋げる事は文法の基本でもあると言う。



「日本以外は言葉に50音が無く不完全だったんですね」


「そういう結論になりますね、はい」



だから魔術は形状や色で、魔法陣を構築してエネルギーを集めなければならなかった。

そしてこの国には元々『魔法』や『魔術』の概念が無かった。

人類は永い時の内に言葉を短縮して来た。

国や地域、民族毎に方言も出来て『言霊』を忘れ去ってしまったようだ。

文字の整備や進化や変化も関係があっただろう。



「『神はコトバなりき』『言霊は神の力の顕現である』の意味はこれで理解出来ましたでしょうか」


「え、ええ、まぁ」


「では『カタカムナ』五首・六首・七首をとなえまするから、心で受け取って下さいまし」



『カタカムナ』は古代文字の一つらしい。



五首「一二三四五ヒフミヨイ 廻リテ巡ルマワリテメクル 六七八九十ムナヤコト 阿吽ノ術知レアウノスヘシレ 象先カタチサキ


六首「空ニ諸ケ世ソラニモロケセ 故瓊愛ヲユヱヌオヲ 生エ津稲奔ハエツヰネホン 星神奈備カタカムナ


七首「69ノマカタマノ 天御中主神アマノミナカヌシ 高皇産霊神タカミムスヒ 神皇産霊神カムミムスヒ 000ミスマルノタマ


「んー、何となく何かが解る気もしたような、しないような。

 かつてオーディン様は、神聖ルーンの秘密を知るために苦行をしたらしいけど、『言霊』の秘密を知ったら、また苦行をしなくちゃいけないねぇ」


「いずれる事もありましょう。

 吐普加美依身多女とほかみえみため

 では次に『魂』とは何かを語りましょう、はい」


「あ、はい、お手柔らかに願います」

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