第88話「船魂神社」
「うわあ、ここからだと富士山がすごいですの」
「ジブ、あのお山は倭の国の有名な霊山なんだぞ」
ジブリールver.2は驚いているけど、ここはまだ裾野の端でしかない。
私達が到着したのは『田子の浦』港という漁港。
資料によれば、万葉集に
『田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にそ 不尽の高嶺に 雪は降りける』とある。
今は冬じゃないから雪は無いね。
「あの山の
「資料によれば、麓の富士宮市に富士山本宮浅間大社があるようだね。
富士山の
「ヒルトさん、富士宮と言えば焼きそばが有名なんですよ」
「焼きそばねえ」
B級グルメ大会で優勝した事が有るらしい。
B級グルメは御馳走と言うより、どちらかと言えばストリートフードだ。
この国はストリートフードでも十分に美味しいんだけど。
地図を見るとこの地域には、日本の滝百選の白糸の滝や富士急ハイランドという遊園地があるようだ。
お子様組には、たまらないだろうね。
「まかいの牧場なんてのもあるんですか」
「魔界の牧場なんて穏やかじゃないね」
「よく見ると魔界じゃなくて馬飼野とありますね」
「うーん、それは少々残念と言うか」
正直いうと魔物が飼育されてるなら見たかったな。
でもそこは牧場のテーマパークのような所らしい。
結構歩く事になるけど、富士山本宮浅間大社にご挨拶に行くのが先だね。
『天皇』というのは、
その前の
神々がどうして何万年も生きているかと言えば、この次元の外には時間が無いからだ。
元々人の創った『時間』という概念は人の感覚上にあっても、存在はしない。
今いる場所から違う場所に移るのは運動エネルギーがあるというだけの事に過ぎない。
本当のことを言えば、連続空間の中を移っているだけに過ぎない。
連続空間のちょっと先には、世界をセットしている者達がいるんだよ。
「さて、そろそろ富士宮市に向かおうか」
「そうですね、焼きそばを食べないと」
「富士山本宮浅間大社に行くんだってばよ」
☆
街中に差し掛かった時、一角に社が見えた。
小さな社だから分社なんだろうけど。
「中に漁師のおじさん達がいる」
「あんなに小さな所に人がいるんですの?」
武蔵くんの目からは漁師のおじさんに見えたんだろう。
けど、あれは舟魂たちだ。
社は船魂神社。
「あのおじさん達は皆、舟魂だね。
武蔵くん、ご挨拶して来たら?」
「うん、そうする」
武蔵くんは社に駆けて行った。
社と言う集会所では、舟魂達が酒を呑みながら懇談の最中だったようだ。
その風景は公民館に漁師達が集まっているようにも見える。
「おじさんたち、こんにちは」
「お? 坊やも舟魂かい」
「礼儀正しい子だね」
「何だい? その服は、まるで海軍さんみたいでねぇか」
武蔵くんの格好は白い海軍士官服に、白い海軍士官帽子を被っている。
子供がそういう服装だとコスプレっぽいけど、彼はビシッと決めていて不自然さが無い。
「舟名は何てんだ?」
「僕の船名は『武蔵』です」
「えええぇぇぇ‼ 『武蔵』てぇと軍艦の?」
「新造の小型舟かと思ったら、英霊様じゃねぇか」
「英霊様が御自ら俺達にご挨拶に来られたってか」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
漁船の舟魂達からすれば、戦艦武蔵は国の伝説の英雄だ。
戦中は秘密兵器扱いだったけど、戦後は広く知られる様になった。
中には拝みだす者までいる。
戦艦武蔵は呉海軍工廠で建造された。
戦艦大和と共に大艦巨砲主義の申し子と言って良い。
1943年|(昭和18年)2月11日に大和から連合艦隊旗艦の座を譲り受ける。
1944年10月24日、レイテ沖決戦に向かう途中で米航空機の攻撃に見舞われたのだった。
米軍から魚雷20本と直撃弾17発と猛攻撃を受けて撃沈した。
軍艦の頑丈さに米軍は驚いたと言う。
日本の軍艦は三角波に負けない丈夫な船体を持つように設計される。
海外の船は三角波で大破する事が有るらしい。
沈没以来、戦艦武蔵の船魂は、共に沈んだ軍人達の英霊に護られて来た。
就航年齢があまりにも短いため、戦艦武蔵の船魂は少年の姿を執っている。
大和型軍艦は三隻建造された。
三兄弟の内、一番艦は戦艦大和で、二番艦が戦艦武蔵、三番艦の信濃は空母になっている。
「英霊様は何故こんな小さな漁港にいらっしゃったので?」
「焼津にはもっとちゃんとした大きな船魂神社もあるのですが」
「僕は女神ヒルト様に助けられて、お連れの一行を乗せて伊勢からやって来ました」
「何と、女神様の船になられたのか」
「何と素晴らしい」
「女神様の船になられるとは、何と栄誉な事じゃないか」
女神ヒルトは上位神じゃないけど、神族の者に違いはない。
人や船魂達にとって、大した違いは無いのかもしれない。
「おい、英霊様に最新の情報をお教えした方が良いんじゃないか?」
「おう、そうだな、GPSとか、魚探とか」
「GPS?」
「GPSは宇宙に飛んでる人工衛星から位置情報を受けられるんでさぁ」
「魚探は海中にいる魚の群れが解るんですよ」
外洋に出て、陸が見え無くなれば、何処にいるのかを知るのは難しくなる。
帆船時代の昔の人は、六分儀を使い星の位置を観ながら、現在地を推測した。
天気が悪ければ観測は無理になる。
しかし、人工衛星からの情報なら、自船ばかりか他の船の情報まで瞬時に判る。
攻撃に応用すれば、水平線の向こうから、敵の位置を特定する事も可能なのがGPSだ。
「へえー、広い海上で何処にいるのか判るのは良いですね。
凄い技術発展です。
それらの機械を見せてもらって良いですか?」
「宜しければ英霊様に献上させていただきますで」
「おい、漁網も差し上げた方が良かっぺよ」
武蔵くんは、お土産にGPSや魚探と漁網を貰った。
人工衛星とやらは勉強してみないと、どうにもなりそうもない。
様々な最新機器や、機械の構造を学ぶほどに能力は増して行く。
「軍事の事なら横須賀に行けば、子孫の軍艦達に会えるでしょう」
「米軍の空母は驚くほど大きいんですよ」
横須賀には今でも爺ちゃん格の戦艦三笠が飾られている。
第一次世界大戦時、ロシアのバルチック艦隊を破り、日本海軍の実力を世界に知らしめた。
「そうですか、それほどの大戦果を挙げられた三笠殿に僕は顔向け出来そうにありません」
「英霊様は女神様の船になられたんだ、そんなに落ち込むこっちゃねぇですよ」
「そうだ、英霊様は俺達の希望だで」
「大和魂を胸に、もっと堂々としてくだせぇ」
「皆さん、ありがとうございます。
今後は女神ヒルト様の船として屈辱を返上する事を誓いましょう」
「それでこそ、おら達の英霊様だ」
「みんな、軍艦行進曲で英霊様をお送りするんだ」
「おう、それが良い」
「これからも頑張ってくだせぇ」
武蔵くんは地元の船魂達に励まされ、送り出された。
「何か知らないけど、良かったね、武蔵くん」
「はい、これからもお役に立たせてください」
「あたしもー」
「じゃぁ、皆さん富士宮に向かいましょう!
焼きそばですよ!」
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