第87話「駿河湾に向かう」
私達は天照大御神様の御前を辞して次の地を目指す事にした。
と、その前にお土産も買わなくちゃ。
ここ伊勢では真珠を買う事が出来る。
私達の世界では、真珠なんて海の奇跡の産物なんだよね。
大きさと品質で値段はピンキリだ。
私はお土産として、赤珊瑚とそこそこの真珠を10ほど買い込んだ。
目の前には伊勢湾が広がっている。
富士山で木花咲耶姫様にご挨拶するなら、海路を行くのも悪くない。
その時はいよいよ船魂『武蔵』くんの出番になるね。
「少し戻る事になるけど、
「
「
「なるほど、それは知っておいた方が良いね」
世の中は言葉を通じて意思疎通が行われ物事が動く。
日常的に無意識に使われているから、疑問を持つ人は少ないかもしれない。
しかし、なぜ人は言葉に左右されるのかと言えば、言葉には情報、意味、魂が込められているからだ。
魂無き言葉は誰の心にも届かない。
言葉に宿る魂を人は言霊と言う。
言霊は人に作用するばかりか、世界にも作用を及ぼす。
世界にも影響を及ぼす言霊を、人は魔法とか
言霊の神様が
「じゃぁ、その逆戻りのルートで行こうか」
私は船魂『武蔵』くんを亜空間収納から取り出した。
「その子は誰ですの?」
ジブリールver.2が初めて見る武蔵くんに目を見張る。
一見して二人とも年が同じくらいに見えなくもない。
二人を一緒にしていれば、良い友達になるかもしれないね。
「ジブリール、この子は武蔵くん。船の魂だよ。
お友達になれそうかな?」
「はい、よろしくですの」
「よ、宜しくな」
武蔵くんに伊勢湾から駿河湾に向かいたい事を相談した。
「僕に舟を与えてくれれば、船にあらゆる能力を与えられますよ」
先ず舟が無ければ駄目らしい。
資金を覗いてみた私はガッカリする。
舟一艘買うとなると、結構お値段が高い。
「うーん、どうしよう」
ここはひとつ、七尾白狐『
「なら、舟は私が創りましょう」
何だか知らないけど、仙術で創った物ならもらうのに罪悪感が少ないね。
皆で防波堤の先に行って、舟を創ってもらう事にした。
『気』を物質にまで凝縮させていると彼女は説明をしてくれた。
材質は木材じゃないどころか、何で出来てるのか良く解らない。
それでもちゃんと強度はあるし、安定感もある。
イメージのエネルギーが凝縮して物質が出来るのかな。
そんな気もしないでもない。
うーん、仙術って便利だねぇ。
こういう事が出来る神様はいないと思う。
旅が一段落したら教えてもらわなくちゃ。
やがて小型のボートが出来上がる。
大型カヌーというか、カッター舟って言うのかな。
バイキング船に比べれば、大きさは半分も無い。
大勢乗れるけど、私達は
巨大戦艦じゃなくて申し訳ないけど、そんな大きな戦艦は持て余しちゃうだろうし。
後は所定位置に武蔵くんの依り代である小芥子をセットオンするだけだ。
これで舟自体が武蔵くんの依り代になる。
私は武蔵くんの座る操縦席の下の箱に丁寧に収める。
皆は操縦席の後ろに並んで座った。
これで何時でも発進OKだ。
「皆さんは急ぎたいですか?」
「まぁ、
長時間波に揺られると船酔いするかもしれないし。
私はバイキング船で多少は慣れている。
でも
「なら、最新知識で得た水中翼船に変えて突っ走ります」
「水中翼船? なにそれ?」
水中翼船とは船体の下に翼があって、速力を上げると船体が浮くという。
水抵抗が極端に減るから、とんでもない速度を出せるらしい。
小さい物なら、足漕ぎの舟でも水中翼船は作れるんだとか。
モーターボートのように、バシンバシンとバウンドする事が無いそうだ。
私達は舟に乗り込んだ。
後の事は武蔵くんにお任せするしかない。
「じゃぁ、行きます! よーそろー」
「え? あれ? 漕がなくて良いの?」
「船体の下の翼にハイドロジェットを用意しました」
「ええ~? なにそれ」
ギュオオオオオオ――――――――――――――――
エンジンが起動すると、舟もゆっくり動き出し岸から離れて行く。
舟の後ろには、二条の白い水流の軌跡が見える。
頃合いを見て武蔵くんはエンジンの出力を上げ、速度を増して行く。
速度を上げると、本当に舟が海面より持ち上がる。
もはや舟は海の上に浮かんでいない。
すでに私の知る舟の速さなんか目じゃないほどのスピードになった。
陸が信じられない速さで動いて行くのが見える。
けど外洋に出ると、比較出来るものが無くなり、速さが解らなくなってくる。
さらに舟は風と波を切り裂いて、とんでもない速度で突っ走る。
向かい風は嵐の風より強く感じるよ。
風と氾濫する川の急流のように流れ去る海面で凄い速さだという事が判る。
「囲いが無いと息が出来ないよ」
「了解です、フードで覆いますね」
船体上部に丸く透明な被いが出来た。
船底の下にある翼のハイドロジェットはとんでもない量の海水を噴き出していると言う。
もう、舟じゃなくて別の乗り物だよね、これ。
「なんですの、これ、お舟が海の上を飛んでるの」
ジブリールver.2も目を見開き興奮をする。
周りの景色を見れば海だから、今乗ってるのは舟に違いない。
しかし矢のような速さは、舟のスピードじゃない。
この舟を武装したら、海の上じゃ無敵かも。
「今の速度は
船魂『武蔵』くんは、とんでもない知識と能力を持っているようだ。
舟限定の能力だから気が付かなかったよ。
私達の乗る舟は波に揺られる事は無かった。
舟だから海面に多少影響されるから、少し上下するだけ。
水中のジェット音と風を切り裂く音がけたたましく耳に響く。
これでもまだ100%の全速力じゃないらしい。
それにしても、
私なんか手漕ぎの速度しか知らなかったんだからね。
今までに乗った船の速度は解らなかったけど。
☆
私達一行は海の上を矢のような速さで、伊勢湾から駿河湾に向かう。
やがて驚くほど短時間で富士山の
速度を落とした舟は海に着水して、やっと本来の舟らしくなる。
私達は防波堤の横に舟を着けて上陸する。
舟はパタパタと畳めるようだ。
武蔵くんが畳んだ船を私は亜空間収納に仕舞い込む。
武蔵くんが陸上にいれば、それこそ
水上でこそ彼の能力は発揮される。
いや、ひょっとして宇宙船てな隠し玉もあるかも。
今はいらん事言うのは止めておこう。
本当にやりかねないから。
「浅間大社の入り口は富士宮市にあるのかぁ」
「そこまで観光しながら歩いて行くしかないですね」
船魂『武蔵』くんはジブリールver.2と仲良く手を繋いで歩ている。
なんだかなぁ~、前より子連れ旅感が強くなってしまったよ。
【水中翼船参考】
https://www.youtube.com/watch?v=_EEv1hif3T4
人力水中翼船「ABAABA Ⅳ」
https://www.youtube.com/watch?v=wObflyTPLvM
HYDROFOIL -- The Amazing Boats of Kotaro Horiuchi. Video posted by Ray Vellinga
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます