第82話「vs 邪教徒術者」

私達は問題の教団に向かって歩いている。



「それにしても、この地は禁足地や忌地が多いのじゃな」


「心霊スポットとしても知られ始めているのですよ」

「誠に困った事で」



禁足地や忌地は全国至る所に存在する。

中には時代と共に忘れ去られ、祀り捨てられ妖怪化してしまった神々もいる。

結界が無いからと、下手に関わると祟られたりするから近寄らない方が良い。

そんな所が禁足地とか忌地として語り継がれていたり、失伝してしまっている。

中には口に出して語るのも憚られる場所もあるから要注意だ。





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やがて問題の教団がある地に到着した。



「この国の宗教施設って民家と変わらんのじゃ」


「規模が小さい場合はそうですね」



宇迦之御魂うかのみたま様の説明では、大きな教団になればデザインの凝った自前の施設を建てるらしい。


どうやら件の教団は拡張を始めようとしている所なのかも。

だから周辺の土地を手に入れたがっている。

そのために氏子さん達の立ち退きを迫っているという事なのか。

それも合法・非合法含めて。



「うーむ、聖職者にあるまじき連中の様じゃな。

 我は守護天使の一柱ひとりとして邪教徒に神罰を与えねばならん」


「それで荼枳尼天ダキニテン様を害したのは何処にいるんだろ」


「教団の建物は結構庭が広いんですね」



教団の建物や周りの住宅を調べてみた。

やはり決戦場として定めるのはあの庭が丁度良さそうに思える。



「庭の隅に古井戸が有りますね」


「怪しい呪符が沢山張ってある」

「と、言う事はあれが『地獄穴』になってる?」


「では、邪術を使う術者をあの庭に誘き出して下さい。

 私は奇門遁甲陣を仕掛けてきます」


「頼みます」



何仙姑かせんこは教団施設を奇門遁甲陣の中に組み込む事に決めた様だ。


野球のボール大の様々なパワーストーンを彼方此方あちこちに設置し始めた。

どうやら石の持つ力場で気の流れを乱すのかも。

それらが影響し合って奇門遁甲陣が完成するのだろう。



「むう、あ奴だ、あ奴が邪術で私の眷属を喰ったのだ」



やがて建物から出て来た一人の人物を見つけ、荼枳尼天ダキニテン様は怒りに包まれる。


術者は黒いパーカーを着て、深くフードを被っている。

おそらく修道僧か魔術師の格好を模しているのかも。

外の景色が異様な事になっているから狼狽えているようだ。



……うーん、見るからに怪しい奴。



「貴様、先ほどはよくも我眷属を喰らってくれたな、リベンジに参ったぞ」

「偉大なる神に背く邪術師、お前を許す事は出来ん、神罰を受けるのじゃ」


「ふ、性懲りも無くまた来たか、目にモノを見せてやるぜ」



術師は懐から短剣を取り出し、儀式を始めた。


額に触れ、「アテー汝ら

胸に触れ、「マルクト王国

右肩に触れ、「ヴェ・ゲブラーそして力

左肩に触れ、「ヴェ・ゲドゥラーそして栄光

胸の前で両手を握り締め、「エロイム」

指の間の短剣の先端を上方に向け、「エッサイム」


東に向かい空中に「悪魔の逆五芒星型」を描く。

短剣の先端を五芒星型の中心に合わせ、「アッ=シャイターン」

短剣を突き出したまま南に向かい「悪魔の逆五芒星型」を描き、「ベルフェゴル」

西に向かい「悪魔の逆五芒星型」を描き、「エヘイエー」

北に向かい「悪魔の逆五芒星型」を描き、「アグラ」

東に戻り、短剣の先端を最初の「逆五芒星型」の中心に戻す事で円環を完成させる。


両腕を広げ術者の詠唱は続く。


「我が前にアガリアレプト、我が後ろにアスモデウス、我が右手にアドラメレク、我が左手にアマイモン」

「我が前方には逆五芒星が燃え上がり、我が後方には六つの光線を放射する星が輝く」


額に触れ、「アテー汝ら

胸に触れ、「マルクト王国

右肩に触れ、「ヴェ・ゲブラーそして力

左肩に触れ、「ヴェ・ゲドゥラーそして栄光

胸の前で両手を握り締め、「エロイム」

指の間の短剣の先端を上方に向け、「エッサイム」



「何だ、あの呪文は」


「うぬう、あ奴、カバラで行う五芒星の小追儺儀礼を改変しておるのじゃ」



四大の力を悪魔に置き換えている事で、闇の力に護られる結界が完成した。

そして呪殺の箱『コトリバコ』を開け、怨霊をこの場に解き放つ。



「行っけ――――――――――――

 怨霊・亡靈・魑魅魍魎ども―――――――――

 奴らを食い尽せ! 取り殺せ! 魂を奪い取れ!」


うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――

   ひいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――

       うううううううぅぅぅぅぅぅ     あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

  おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――



腐肉の様な色をした瘴気の靄の中に無数の子供たちの顔が見えた。

スケール間を無視したように大小さまざまな大きさの顔、顔、顔、顔、顔。

皆、断末魔の苦しみ、恐怖、絶望、恨み等々負の感情に支配された表情だ。



「くっ、何ておぞましい呪術を」


「なるほど、闇の力に護られているから、平気で怨霊を放てるのですか」


「普通の人や光の側の者では、太刀打ち出来ないほど濃い怨念です」


「ふ、だけど無駄ですね。

 何者とて奇門遁甲陣から出られないのですから」



何仙姑かせんこが言うように怨念は奇門遁甲陣の中で煙の様に広がる。

しかし意図的に狂わされた磁場と気の迷宮内から私達の所には届かない。



「霊的攻撃は封じられた、次は物理的攻撃ですよ皆さん」


「よし、聖なる光の弓矢で射るのじゃ」


「皆さん、驚門、傷門の方面から攻撃して下さい」


「わかった」


「くそっ、お前ら何をした! このままで済むと思うなぁ!!!!!」



術師は奇門遁甲陣の中を彷徨いながら、私達の攻撃を避ける。

攻撃を避け続けながらも、ジリジリと封印の古井戸に向かい始めた。

地獄穴を開放して全てを吸い込むつもりだろうか。



「くそっ、くそっ、目の前に見えるのに何故辿り着けん!」






「あ、あそこから悪霊が漏れ始めたのじゃ」


やがて八門の一つからドス黒い怨念が漏れ始めた。

奇門遁甲陣の中を充満しきったから脱出口にも到達し始めた様だ。


ジブリールは真っ先に立ち塞がりに向かう。



「急いで討滅しないと」


「ジブリール、前に出ないで!」



ジブリールが前に出ると、炎の神聖ルーンが放てない。



「こんな神の御心に背く醜い呪詛は許せないのじゃぁぁぁぁl!」



ジブリールの断罪剣は怨霊を切り裂いた。

二つに避けた切り口は後から後から顔が湧いて来る。

やはり浄化で削って行った方が最善の方法だったに違いない。



「ちっ、斬撃は効かないのじゃ あっ」



下がろうとした時、二つに斬った部分が触手のようにジブリールに絡み付く。



「このっ! このっ! 剥がれるのじゃ!」


「ジブリール!」



しかし浮き出てくる顔が噛み付いて離れない。

どの顔も一度喰らいついた場所から体を食い千切り始める。

必死に逃れようと藻掻くジブリールに後から後から無数に顔の浮き出た触手が絡み付く。



「あああぁぁ、い、いやじゃあぁぁl、こんな奴に喰われたくないのじゃあぁぁぁぁ」


「ジブリールさん……」



まるでイソギンチャクの触手のようにジブリールを飲み込む怨霊の塊。

断末魔の悲鳴も怨念の中に消化されて行く。

やがて見えていた手の先も飲み込まれてしまう。

誰もが助けようにも助けられない状態でもあった。

皆の心には悔恨の念や無念が広がる。



「何という事を、私の眷属もあのように喰われてしまった」


「ジブリール、助けてあげられなくてごめんね」




「ふはははは、一人犠牲になったか、だが、まだまだこれからだ」



術者はとうとう呪詛の井戸に辿り着いてしまった。

そして封印の呪符を剥がす。

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