第81話「作戦会議」
「戦いに赴くなら私も同行します」
相手は人間ではあるけど、決して侮れないと言う。
「敵には強力な呪物が在るのです」
「強力な呪物?」
「そう、携帯呪物として呪殺の箱『コトリバコ』、他にも『地獄穴』とか」
「『コトリバコ』なんて可愛いネーミングなのじゃ」
「まったく可愛くありません。
小鳥箱ではなく、『子取箱』と表記した方が正しいでしょう」
公表されていないけど、かなりの子供が行方不明になっていて犠牲になっている事実がある。
犠牲になった子供達の歯・生爪・毛髪・指など体の一部が怨念の依り代になって箱に閉じ込められているのが『子取箱』の正体だという事だった。
苦痛や呪詛が余りにも濃いため、眷属のキツネ達では怨念競り負け歯が立たなかったらしい。
濃厚な怨念に纏わりつかれ、喰われ同化させられてしまった。
もはや助け出すのは不可能で、
『子取箱』のルーツは2000年に亘る半島呪術で『呪詛の壺』にあると言う。
敵に強姦された女性達を切り刻み、苦しみや呪詛と共に壺に封じ込められた呪物、それが『呪詛の壺』だ。
正に負の念の極致が濃縮され渦巻いているのだろう。
他にも悪霊を吸い込み続け濃縮して蟲毒と化した地獄穴まで用意されていると術者は言ったそうだ。
今の所詳しい事は不明だけど、一旦開かれると地獄の底に引きずり込まれるらしい。
ジブリールは思わず顔を顰め歯軋りをする。
「うぬぅ、何て忌々しい邪術を」
神々、天使や精霊、妖精を含め、心霊の戦いはエネルギーの奪い合いとなる。
剣や術で戦うのは人間視点で見る演出として語り継がれているのだけど。
実際には、エネルギーを失い、存在因果をも消滅すると存在を保っていられなくなる。
そういう戦いは実際の武器で戦うのは不可能だ。
敵霊体を切り刻み削る事が出来るのが、聖剣とか神剣と呼ばれる物である。
神の使う術は『魔法』とは違い、元からの神力とか通力となる。
仙人など人が使うのは神通力とか魔法とか法力とか超能力とか呼ばれるのが普通だ。
「まるで悪魔のような教団ですね」
「キリスト教ブランドを名乗っているけど、似非キリスト教団じゃな」
敵は我欲に凝り固まり教団施設拡大のため、氏子の土地を奪おうとしているのだ。
だから何人もの氏子と問題を起こしていう上に、土地問題も絡めて宗旨替えを迫っている。
そんな話を聞けば
敵側の霊能者なのか、退魔師なのかの術者は雇われているのかどうかも判らない。
「無暗に突っ込むと、私達まで危なくなりそうですよ」
「取り敢えずどうするか、立ち話も何だから何処かで落ち着いて作戦会議ですね」
私達は本殿の奥に案内された。
ここで全員集まって作戦を練る事にした。
仙女の
こんなに血生臭い戦いはあの女神様に似合いそうな気がしてならない。
「う~ん……、
惑星そのものから吹っ飛ばせるだろうけど、それじゃぁ元も子もないし、
規模を小さくして、直線上の地形そのものから抉り取るのもアレだし」
大出力の破壊力というのも考え物だよね。
流石の鬼神ダーキニーでも、怨念の濃さと量で競り負けたのだ。
どれ程弱者の犠牲者の命や苦痛、怨念が詰め込まれてるんだろうね。
悪魔に匹敵する人の持つ残忍さや非情さや汚さを感じざるを得ない。
「ヒルトさんは戦場を駆け回った女神なのに、血生臭いのは苦手なんですか」
「そりゃそうよ、悲惨なのは同じでも、こんなにドロドロした気持ち悪い怨念なんか満ちてないし」
私が
英雄を生む時代は無念や心残りを残す者はあっても、戦士の矜持に賭けて恨みは残さなかった。
怨念を残すような奴は戦えなかった者か、戦わない卑怯者しかいないんじゃないかな。
話に聞くドロドロな怨念はどうやって浄化すれば良いか。
更なる負の存在に喰い尽されるか。
怨念を上回る余程の『陽』の気で中和しきるか。
聖なる炎で無情にも全てを焼き尽くし、何も無い状態まで浄化するか。
ブラックホールの様に聖も邪も何もかもを超超重力場に飲み込むか。
炎の浄化は魔属性の守護神、明王ならば可能だろうけど。
神剣と神聖ルーンしか私には無い。
神聖ルーンにしても上級神が扱える程の物じゃない。
うーん、私だけじゃどれも無理だ。
中華で連想すると、西遊記にあった金格銀閣の持っていた仙具の
呼びかけた相手が返事をすると、中に吸い込んで溶かしてしまう瓢箪の『
なんてのが有れば話は違うだろうけど、そんな物もここには無い。
「何とか手立てがあれば……」
「ソロモンの指輪なんかどうじゃろう」
「ソロモンの指輪?」
ソロモンの指輪は、偽典の一つとされる『
ソロモンの指輪は様々な悪霊を使役する権威を与えると言われている。
ソロモン王によって書かれた魔導書『レメゲトン』の中に、魔術師によって呼び出される72の精霊、悪魔の名が記されている。
「うーん、ドロドロの怨念に対抗するために悪魔を使うのですか」
「指輪と『レメゲトン』が無いと、どうにもならないねぇ。
ジブリールはそれらが何処に有るのか知ってるの?」
「知らないのじゃ、でもミカエルに聞けば判るかも知れないのじゃ」
「ミカエルかぁ、何となく結末が見える気がする」
「結末って?」
「ヤーベの許可が無いと貸し出せないとか」
「いかにも言いそうですね」
私と
とにかく天使は頑固で融通が利かない連中だ。
「我にも契約の指輪は作れるけど、新たに契約悪魔を作って行かなくちゃならないのじゃ」
「つまり、カラッポの指輪って事?」
「ううぅ、それは言わないで欲しいのじゃぁ」
「しかし、術者はどうやって自分に影響を及ぼさない様にしているんだろ」
「結界でも張ってるんですかね」
「そうなれば、私達の攻撃は届かないで、術者の攻撃は私達に届くという事であるのか」
「それは卑怯なのじゃ」
私達は敵である術者の攻撃を防ぎながら、術者を攻撃しなければならない。
この考えは敵の術者も同じことを考えているから、同じスタンスになる。
ならばどうすれば良いのか。
「敵の用意している第二の攻撃法の地獄穴に敵の術者を追い落とせれば……」
「あ、それは良いですね」
「その結界が完成する前に攻撃をして邪魔をしながら追い込んでいくしかなさそうですか」
「その前に『子取箱』の怨霊を何とかしたいですね」
「それなら、私が奇門遁甲で封じ込めましょうか」
「奇門遁甲? それは結界ですか?」
「結界とは少々違うかもしれませんけど」
今では受動的に占術としか伝わっていない。
しかしもっと能動的に使えば敵を封じる事も出来ると言う。
三国志の中で諸葛孔明が使うように、これは軍事面で使用された技術の一つだ。
「そんな術があったんだぁ」
「地脈の流れを占術で探すのではなく、作ってやれば良いんです」
奇門遁甲または八門遁甲は、八つの性質を持つ
それぞれを開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門と名付けられる。
敵軍が驚門、死門、傷門を通ると自ら破滅の道を歩む事になる。
自軍が生門、景門を通り進軍すれば戦いに勝利を得る事が出来る。
受動的な占術は門の配置状況を測る事しか出来ないらしい。
奇門遁甲陣の中に捕らわれると敵軍勢は方向を迷ってしまうという。
おそらく怨霊ですら封じる事が出来るかもしれない。
「凄いですね、そのような術がある事を私は知りませんでした」
「
「何だか解らないけど、普通の結界とは違うのじゃ」
「素晴らしい」
「問題は怨霊が生門や景門から出て来ると大変な事になるんです」
「部分的に漏れ出る程度なら、私達でも払えそうですね」
「うむ、一斉攻撃だと対処は出来なかったが、出口で武威を奮えばいけるやも」
「後の事は我等に任せるのじゃ」
「そこまで出来れば、後は術者を自らの地獄穴に追い落とすだけだね」
作戦は決まった。
後は敵の本拠地に乗り込んで、術者と対決するだけだ。
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