第79話「京都」

「次の目的地ですが、大阪が近いけど京都に向かおうと思っています。

 少々仕事が入りましてね、私の案内はそこまでという事で大丈夫ですよね?

 取り敢えずヒルトには連絡用の手段を授けておきます」



チャンディードゥルガー様は仕事で旅行案内を抜けると言う。

京都の醍醐寺で準鄭観音を祀っているという。

どうやらそこがこの国での仕事場になってるのかな。


今後の連絡用にと青い宝石の嵌った腕輪ブレスレットを私にくれた。

何か困った事が有ればチャンディードゥルガー様と相談が出来るそうだ。



「ヒルト、私を呼びたい時は、その腕輪ブレスレットに『オン・シャレイ・シュレイ・チャンディ・ソワカ』と唱えなさい」


「はい、わかりました」



その真言マントラをコールの合図として決めた様だ。

見方を変えれば、その真言マントラチャンディードゥルガー女神様召喚呪文と同じ事だね。

まぁ、余程の事じゃなきゃ呼ばないけど。



「京都、良いですねぇ。

 京都は料理も美味しいですけど、独特なラーメンの発祥地ですよ」



ここでも何仙姑かせんこのラーメンLOVEが始まった。

一緒に食べ歩いた私もその気持ちは解かる気がする。



「『古代の中華を知りたければ日本に行け』と言われるほど京都や奈良は有名なんですよ」



当時の文化は中国に残っていないと何仙姑かせんこは言う。

文化大革命の際、「天命思想」の易姓革命で前王朝の文化全てを否定し廃棄してしまったそうだ。

それは古代中国に於いて孟子らの儒教に基づく五行思想などから王朝の交代を正当化する理論らしい。



「う~ん、歴史遺産を破壊するって事で人類を無知にするのは同じだなぁ」


「まぁ、歴史って勝者が自分の都合が良いように書き換えますからね」



本当の歴史を知りたければ、宇宙の図書館『アカシックレコード』にアクセス出来なければ知り様も無いのか。

過去・現在・未来が記されている『アカシックレコード』は宇宙にあるとでも思われているかもしれないけど、実は『水』がアカシックレコードの正体でもある。

どうして『水』という記憶媒体に過去・現在・未来が記されているのかと言えば、時間と言う物は存在していないからとしか言い様が無い。



「京都って平城京だっけ」


「アイヤー、違いますよぅ、京都は平安京で奈良が平城京ですよ」



奈良時代から平安時代にかけて、早良親王の怨霊を恐れた桓武天皇は、平城京から平安京に遷都をした。


当時、疫病の原因は怨霊、つまり「恨みを抱いて死んだ人の霊」だとする信仰が広まっていたそうだ。

これを御霊ごりょう信仰というらしい。


衛生学や病原菌云々以外にも、陰陽道で言う『陰気』や『陽気』というのもあながち間違いじゃないんだよね。

神道でも『晴れ』『』や『気枯地けがれち』とか『弥盛地いやしろち』があるし。

これらの概念は仙道で扱う『気』と同様のものだ。

長い歴史がある分、京都は魔都と言われるほど忌地が彼方此方あちこちに在る



「陰陽師と言えば、安倍晴明あべのせいめいの子孫は土御門家として戦後天社土御門神道が再興されていますね」



チャンディードゥルガー様によると、道摩法師どうまほうし事、蘆屋道満あしやどうまんの術系統の血脈は今でも市井しせいに存在しているらしい。

余程の縁が無いとそういう術師に教えを乞うのは難しいだろうと言う。


蘆屋道満あしやどうまんは平安時代の陰陽師兼呪術師として知られ、安倍晴明あべのせいめいに勝るとも劣らない力を持ち、両者はライバル関係にあったらしい。

物語でも安倍晴明と術比べする人物として知られる事が多い。









私達一行はチャンディードゥルガー様に案内されて醍醐寺に到着した。

http://junrei3159.jugem.jp/?eid=38

ここでチャンディードゥルガー様とお別れする事になる。

本堂は山の上に在るようだけど、麓にもやたらと施設が多かった。


ついでに仏像も観て行くことにした。



「何だか飾ったワイングラスみたいですね」


「アイヤー、似てないですよ」


「これが仏像なのかや?

 まったく、皆して偶像崇拝なぞしおって」


「象徴であって別に仏像を拝んでいる訳じゃないのですけどね」



流石に当時の人はチャンディードゥルガー様の実態を知らなかったようだ。

きっと知らない所にちゃんとした説明も無く持ち込まれただけなのかも。

インドの本拠地では、最強の戦女神として人気がある御方というのが本来の姿。

でも私達に優しく面倒見が良かったのは観音菩薩面なんだろうね。


仏教も同じ事で、何だか知らないけど有難い物ってな認識だったんだろうね。

だから歴代の僧侶たちが研究に研究を重ねて来た。

開祖のゴータマ・シッダルタさんが何を言ったのかを疎かにして。

結果、神と仏が同列の有難い方だと思われている。


お経はブッダ目覚めし者が自らと同じように目覚めし者となるためのマニュアル。

声を出して唱えれば良いのではなく、理解して実践しなくちゃならないんだよね。

読めるけど解らないという「機能的文盲」じゃしょうがない。

その実践を仏道修行と言う。

このマニュアルが日の目を見るまで、デーヴァ神界の神々が菩薩とか言われて護持して下さっている。


まだ本筋の話には入っていないけど、難しそうな話は一端お終いにする。





後は京都観光をして大阪を目指す事にした。

時々妖怪っぽいのが目に付くけど、大したものじゃないから、そんなのは蹴散らせば良い。

綺麗な街並みと裏腹にそんなのがいるって事は、霊的に綺麗じゃないって事なんだよね。

まぁ、あれは歴史のゴミって所かな。

人の目には見えないだろうけど。






旅行ガイドブックに載っている『京都伏見稲荷』を観に来た。

http://inari.jp/

この神社って日本国内の稲荷神社の総本宮だと紹介されている。

近年「朱色の千本鳥居」が有名なんだよね。


稲荷神社の鳥居は朱塗りと決まっている。

本殿も朱塗りだからここでは華やかだねって感想しか湧かないかも。


ジブリールは聖書の合致性に気が付いている様子。

旧約聖書に『入り口に子羊の血が塗ってある家は、撃つ者が家の中に入る事無く、その災いが通り過ぎた』という件がある。

なるほどねぇ、生贄の血を使ったんだ、って事は聖書の神も生贄や血を好むんだ。

古い神ほどそういう傾向があるようで、チャンディードゥルガー様の事をとやかく言えないよね。


稲荷神は二柱ふたりいる

一柱ひとり宇迦之御魂うかのみたま大神。

もう一柱ひとり荼枳尼天ダキニテン


一般的には「稲成り」から由来され、農業と深い関係にある事が推測できる。


素鵞鳴尊すさのおのみこと様の系譜の方で、奇稲田姫くしなだひめ様の次に娶った神大市比売かむおおいちひめとの間に生まれている。

同母の兄に大年神おおとしのかみがいて、一年の収穫を表す年穀の神だそうだ。


『御鎮座伝記』で内宮について「御倉神みくらのかみの三座は素鵞鳴尊すさのおのみことの子、宇迦之御魂うかのみたま神なり。

また専女とうめとも三狐神みけつかみとも名づく」と記されてる。

三狐神みけつかみだから眷属がキツネなんだ。


これで一柱ひとり目の御祭神の出自は理解出来た。

簡単に言うと素鵞鳴尊すさのおのみこと様の娘さんだったんだ。


そしてもう一柱ひとり荼枳尼天ダキニテン

古代インドでのダーキニーという、人の死期を6ヶ月前から予知し人肉を食べる女夜叉が前身。

女神パールバティの侍女で付き従って尸林を彷徨い、敵を殺し、その血肉を食らうとある。


こういう紹介をされるとアレだね。

神族の私から見れば、凶暴な肉食系女子って所かな。

つか、肉食系女子そのものじゃん。


ダーキニーはキツネの親玉と言うより、野生のジャッカルの習性にも思えるよ。

宇迦之御魂うかのみたま様の神獣との違いは、ダーキニーの方は獣神という所。

両者の成立ちは微妙に違うんだよ。




一通り境内を散策した後、有名な千本鳥居も観に行く。

一種異様な光景にここでも異世界感が漂っている。

そんな光景にジブリールは感嘆の声を上げる。



「わあ、鳥居のトンネルなのじゃ」


「アイヤー、これは凄いですね」



鳥居の一門一門はそれぞれ寄進された物だそうだ。

千本鳥居と言われるほど寄進者が多くて、こうなったと思うと感嘆するしかない。



稲荷伸の眷属は白い野干やかんだ。

キツネに見えるだろうけど、神獣ドゥンと同類でジャッカルの神獣。

眷属の使いである所謂いわゆるキツネは、本物の動物の四霊とも違う元人間の方だろうね。

そうでなければ人間に利益を運ぶ事をしないだろう。


キツネと言えば、冥界で程度の悪い人間は獣霊になってしまう。

野良キツネは大体元人間、それもかなり宜しくない部類。

質が悪い程尻尾の数が多くなる。

だから金毛九尾なんて最悪な悪霊の部類だね。


シルエットだけ視える人がいたら西欧の場合、尖った耳が角に視えたかもしれないね。

小悪魔とか邪妖精とか小鬼ゴブリンとか思われているのは大体こういう存在だ。

人の想念や文化も関わるから、姿形も変わって言い伝えられてしまう。



「さて、一通り観て回ったから次に行こうか」

「そうですね」

「早く伊勢神宮に行くのじゃ」


「皆様、お待ち下さい」



私達が出て行こうとした時、後ろから声が掛かった。

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