第77話「土佐の鰹のタタキ」

私達は土佐の桂浜を望む料亭で鰹のタタキを食べる事にした。


鰹は回遊魚で、旬は春と秋の年に2度あるらしい。

春から初夏にかけ、黒潮に乗って太平洋岸を北上するかつおが「初鰹」といい、

Uターン後に南下している間(9月から10月頃)に水揚げされたものを「戻り鰹」と分けられているそうだ。



「鰹料理ってたたきだけじゃないんだ」


「昔は和辛子で食べられていたらしいですよ」



食の探求に止まないこの国では、

『マヨネーズ+ポン酢+七味』

『塩こんぶ+粉チーズ』

『マスタード+アボカド』

等々色々と考え出されている様だ。



「料理どころか鰹は鰹節という重要な調味料になるらしいですよ」


「魚が調味料になるんですかぁ」


「知る人ぞ知る『旨味爆弾』と認知されているそうですよ」


「『旨味爆弾』ですか、物騒ですねぇ」


「別に物理的に爆発なんかしませんよ?

 舌の上で美味しさと言う味覚が爆発するんです

 お好み焼きにもかかっていましたよ」


「湯気で動いてた、あの薄い物かなぁ」


「そう、それですよ、出汁を取るにも一番重要なんです」


「何だか知らなかったけど、鰹だったんだ。

 『旨味爆弾』の鰹節も色々買い込んでおいた方が良いよね」



鰹節でとられた出汁は『黄金出汁』と呼ばれるそうだ。

黄金の名を冠するとは、よほど凄い物なのかも。


やがて運ばれてきた料理に全員目を見張った。

まるでルビーのような鰹の身は美しさを感じる。

一切れ一切れは一口大で肉料理に比べて少々物足りないかも。



「すごい量の薬味……」



鰹の上にたっぷりと刻まれたネギ・ニンニク・ショウガが乗っている。

それらを丸ごと醤油に付けて口に運んでみる。



「これは美味しい! 香りも良いというか」


「そうでしょう、これを見逃したら絶対に後悔しますって」


「ビールが欲しくなる味ですね」


「この国の魚料理は凄いのじゃ」



私達は更に五人前を追加注文してしまった。

分けておかないと困る事になる。

ビールと一緒にチビチビやってると、ジブリールに食べられてしまうからだ。


何仙姑かせんこが言うに、ウナギの料理も最高なのだとか。









私達は港に近い観光客用の売店に足を運ぶ。

ここで鰹節をいくつか買い込んで行かないと。


いざ売店を見ると木片のような鰹節と既に削られた物がある。

木片のような鰹節は箱状の専用の削り器が必要らしい。



「この箱の蓋を開けて刃の上で擦るのかぁ、面白ーい」



私は数本の鰹節と削り器、削り節を大人買いした。


削り節の刃部分は大工道具のかんなに似ているそうだ。

熟練の大工の手に掛かれば、木材は2~3ミクロンの厚みを削る事が出来ると言う。

木材をかんなで削る事で、撥水性が格段に上がるらしい。

この国の職人って神の域に達してるんじゃ?



「神社やお寺を建てる大工は釘を使わないで建物を建てると言われていますね」


「どうやって建てるんですか?」


「組み木の技がいくつかあるのですよ」


「へぇー」



神社やお寺を建てる専門の大工は宮大工と呼ばれているそうだ。

木材の性質を育った環境から熟知して性質を生かし切るらしい。

そんな木材を釘も使わずに建物を建ててしまう職人中の職人がこの国にいると言う。


考えてみれば、北欧にも釘を使わないで建てられている木造の教会がいくつかあるっけ。

流石に接ぎ木や接合の技は無いのかどうか知らないけど。


いや、ホント、それ人じゃなくて神なんじゃ?

つか、何で鰹節の話から大工の話題になってるんだ?


鰹節で出汁を取る時、沸騰させてはいけないらしい。

後はもう一味昆布を入れる事で出汁のグレードが一段上がるのだとか。

うーん、今まで料理に出汁なんて考えた事なんて無かったな。





一通り買い物が終わった後、フードコーナーでソフトクリームを食べながら一休みする事にした。

窓の外を眺めれば港が見える。

基本的に漁港だから、停泊しているのは漁師の舟ばかり。



「この港には随分舟が多いんだねぇ」


「港から出られないような雰囲気と言うか」


「嵐が来ている訳でもなさそうですね」



外に出て漁師っぽい人に聞いてみた。

今日は怪異があって海に出るのは具合が悪いらしい。

海での怪異は幽霊船とか海坊主とかが有名だけど。



「怪異?」


「舟幽霊が出て海水を注いで舟を沈めるんだよ」


「何ですかそれ」



水難事故による亡者が悪霊と化した者が出ると言う。

柄杓を欲しがり、そのまま与えると、その柄杓で海水をくみ上げて船を沈めてしまう。

昔は底の抜けた柄杓を渡す事で難を逃れたと言うけど、今の時代柄杓なんか用意していない。

だから舟幽霊も方針を変えて柄杓を欲しがらず、舟を沈める方法を思い付いたらしい。



「何だか知らないけど迷惑な奴がいるんだねぇ」


「そんな悪霊など我がアッラー様の名に懸けて退治してやるのじゃ」



まぁ、私達は女神と仙人と天使が揃ってるから何とか出来るだろうけど。

別に正義の味方じゃないから、わざわざ幽霊退治に行かなくても構わないんだよね。


舟幽霊は昔の悪霊だから、漁船を狙う事しかしないけど最新の大型船はどうなんだろうね。

柄杓如きの海水で大型船を沈めるには何回組み入れるのやら、絶対に無理があると思うんだけど。

事だけど海の安寧に海神わだつみや恵比寿、弁財天は仕事しないのかな。



「女神様方も一緒に悪霊をやっつけに行くのじゃ」


「あー、私はいいや」


「何で女神様なのに悪霊を倒さないのじゃ」


「面倒だし、別に正義の味方って訳じゃないし」

「光強くあれば闇も、尚くらくなるって聞いた事ありますね」

「悪霊って所詮人の業です。いくら祓ってもキリがないですよ」

「ガウガウ」


「皆さん酷いのじゃ。

 なら、我だけでも世のため人のために立ち上がって進ぜるのじゃ」



ジブリールは漁師達の下に駆けて行った。


ジブリールは先走るけど、あれでも大天使の一柱ひとりだ。

悪霊やそこそこの悪魔に負けるようなジブリールじゃないだろう。

舟幽霊は一定の場所に出る訳じゃないらしい。

割と広範囲を移動するらしくて、今回の現場までは二~三日ほど時間がかかるらしい。




「ジブリールが戻って来るまで私達は観光意を続けましょうか」


「もし手に余るようなら手伝っても良いでしょうね」


「博物館でも観に行きましょう」


「良いですね、それ」



この地は坂本龍馬とかジョン万次郎の縁の地らしい。


歴史的偉人らしいけど、私はあまり興味無いなぁ。


他にも観光名物としてホエールウォッチングをやる時もあると言う。

街の観光ガイドを開いて見れば、屋形船・ラフティング・カヌーカヤック・スキューバダイビングと色々ある。

余裕があればそれを楽しむのもアリだね。

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