第76話「剣山」

「それでは私共はおいとまして、次の観光地を目指そうかと」


「そうであるか、道中の安全を祈らせてもらう」


「そこな天使は伊勢神宮に行きたいのであったな」


「はい」


「紹介状を一筆書いて進ぜようぞ。

 ついでだ、縁結びと道中安全の祈祷を受けて行かれよ」


「ありがとうございます」



どうせ行くなら祈祷を受けておいた方が何かと有利に違いない。

ここでも御朱印をお土産にもらう。



素鵞鳴尊すさのおのみこと様の兄上が天照大神で伊勢神宮に祀られている。

一般では天照大神は女神だと知られている。

けど血族継続の伝統は男子と決まっている。

だから本当は天照大神も男性神で合っている事になる。

多分だけど男のなのか、女性っぽいのかも。



「次は倉敷に行って香川に渡りますよ」


「間に海があるのかぁ」



一旦四国に渡るのは無駄なルートに見えるかもしれない。

けど香川は『うどん』の聖地だと何仙姑かせんこは主張する。

そしてもう一つ、剣山には伝説のアーク契約の聖櫃が埋められていると囁かれているのだ。


モーゼの一行はスエズ運河のある紅海を超えて『カナンの地』に至った所で物語は終わる。

その後アーク契約の聖櫃の話が一切出て来ないし、現物も残っていない。

エチオピアに渡ったという噂もあるけど定かじゃない。

ユダヤびとを守護したアーク契約の聖櫃は一番大事な神宝であるはずなのにだ。

だから今でも探されているけど、行方不明の聖遺物とされている。


アベルの子孫ユダヤびとが辿り着いた『カナンの地』にイスラエル王国として建国された。

けど『カナンの地』はもう一つあるんだよね。


それは中華の河南。


イスラエル王国が建国された時から既に中華の河南へ移住が始まっていた。

移住先があるからこそ、北イスラエル王国滅亡後に、迷わず東=中華に向かうことが出来た。

でも、ここにもアーク契約の聖櫃は無い。


アインシュタインが日本を訪れた時にユダヤの風習に酷似したものがいくつもある事に驚愕したそうだ。

神社の形態、赤く塗られた鳥居、神輿、山伏の頭巾ときん等々。

そして少数のユダヤの司祭ラビはこの国の社会形態がユダヤの望んでいた社会形態そのものだった事を知り、ユダヤがこの国の社会形態を破壊しようとしている事に今後悔しているという。

この国は遥か昔から神々と共に共存してきたのだから。









「倉敷って、ここも観光地がいっぱいありますねぇ」


「全部は回れないから、倉敷美観地区で舟に乗りましょうよ」


「それも悪くないですね」



倉敷美観地区は倉敷川河畔を中心とした白壁の屋敷が立ち並ぶ一帯と、鶴形山南側の山裾に延びる往来は重要伝統的建造物群保存地区だそうだ。

https://www.okayama-kanko.jp/spot/10226



「柳がそよ風で揺れる風景って癒されますね」


「広がってる町並み、良い風情があふれてますねぇ」


「竹竿で川底を突いて進むなんて珍しいというか」



穏やかな運河を舟でゆっくり進むのは気持ちが良い。

舟によっては櫂を漕いで進む舟も有るようだけど、なぜあんな櫂で進めるのか不思議だ。

私の知るヴァイキング船って帆はあるけど、ガレー船で一人一本のオールを任されるんだよね。


一通り景色を堪能したら、次はフェリーで香川へ渡る。

こんなに大きな鉄製で動力船に乗るのも初めてだ。

剣と魔法の世界に持ち込んだら無双できそうだね。









やってきました香川県。


ここは何仙姑かせんこ一押しの『讃岐うどん』の聖地だそうだ。


つうは麺と出汁、少々の薬味のネギだけで堪能出来るらしい。

元々製麺所が出来たてのうどんをその場で食べられる形態から発展した店が多いという。

特につうはそういう店を好むらしい。



「つまりですね、それだけ素材の味で勝負が出来るという事なんですよ」



麺に生醤油をかけただけでも美味しく食べられると言う。



「おお、『うどん』って油っ気が無いのじゃな。

 豚も使われてないから、我はこっちの方が好みじゃ」


「油っ気を補うために天麩羅を入れると、美味しさが格段に上がるんですよ」


「ホントだ、これは美味しい」



店をハシゴする度に何仙姑かせんこは『ぶっかけ』『出汁あり具無し』『出汁あり具選び』と片っ端から試して行く。



「ああ――――、粉物が美味しいです」



確かに『すすり』という技を覚えたら、うどんを喉越しでも味わえるようになった。

シンプルに出汁と麺だけの料理がこれほど奥が深かったとは。

素材の味を引き出すなんて西欧にも北欧にも無かったよ。


そしてこの国で最も特徴的なのが『箸』というチョップスティック。

最初はよく二本の棒を扱えるもんだと思ってた。

扱えるようになると麺料理が凄く食べ易い。

そしてこの国の料理は全部『箸』が基本なんだよね。


流石にチャンディードゥルガー様でも、熱いラーメンを手掴みという訳には行かないだろう。

と言うより、半帰化してたんだっけ、上手なんだよチャンディードゥルガー様は箸を使うの。



「それにしても、こんなに大食いして何仙姑かせんこさんはよく太らないねぇ」


「私は大丈夫ですよ。

 食べた物は体の中で『気』に還元しますので」


「全部エネルギーに変換しちゃうって、私達神族と同じなんだ」



仙人は原理的に神族と同じような体の構造をしてるのかな。

普通の人間とは何かが根本的に違うんだ。

たぶん見た目と実年齢も違うはず。









私達は徳島県に移動し剣山を目指す事にした。

剣山には「失われた聖櫃アーク伝説」や「ソロモンの秘宝」の噂がある。

https://shikoku-tourism.com/spot/10037

http://turugisan.tv/pg127.html

第二次世界大戦終戦後に、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーは剣山の捜査をしている事実がある。


箱の中には「マナを納めた金の壺」「アロンの杖」「十戒を記した石板」が収められていると言われている。

但し、誰一人聖櫃アークを開ける事は禁じられていて触れる事も許されない。

だれも中身を確認できた人はいないんだよね。


箱の上には二柱ふたりの天使ケルビムが向かい合わせに飾られている。

金が張られた箱で左右両側に担ぎ棒を通し四人で担ぎ上げる。

この聖櫃アークの姿が神輿みこしに類似していると言われてるんだよね。

だから噂が尚更実在性を匂わせる事になっている。

そもそもユダヤの失われた十支族の一つ、ガド族がこの国に帰って来たんだから文化も伝わるよね。



「風化化しちゃってる岩があるだけだねぇ」


「ガイドブックによれば、あれが鶴岩と亀岩らしいですね」



発掘の先駆者高根正教氏が「言霊学」により剣山・ソロモンの秘宝伝説を説いたとされる。

解読の鍵とされる場所が、鶴岩と亀岩と言われているそうだ。

今でも、鶴岩と亀岩の麓には発掘跡とされる石が並べられているという。



「あの岩に何か書かれておるのかや?」


「この国の童謡に「かごめかごめ」と言うのがあって、かごめ→籠の目→ダビデ王の紋章六芒星形を示し、夜明けの晩→夜が明ける→よはね→ヨハネと繋がるのではないかとの説を考えたようですね。

 かつて剣山が「鶴亀山つるぎさん」と書いた事から、ソロモンの秘宝がある事を示す暗号だったとも連想したのでしょうね」


「はあぁ? 物証が何も無いんですか?」


「そんな妄想だけで、よく証拠や噂になったのじゃ」



剣山だけでも何故か神社が多いと言うので、私達は神社回りをする事にした。

リフトを利用せず徒歩で頂上まで登る場合は、ここが、剣山への登山口になるという。






標高1400mにある劔神社は、複数の神社で構成される剣山の本宮として位置している様だ。

御神体は3つの岩石の破片で、高根氏らが発掘した際、残された「聖なる鏡石」と言ったらしい。

石の表面は人工的に磨かれた様な光沢があって、神秘的な輝きからただの石では無いと思われている様だ。



「うーん、何と言ったら良いか」


「なんとも、素直に聞く気になれない学説ですね」


「学説とも思えないのじゃ」



130の石段を登った丘の上に、石積みで囲われた磐境神明神社があった。

長方形状の積み石の祭祀遺跡は南側を正面とし、5ヶ所の祈壇と3ヶ所の入り口がある事から「五社三門」と呼ばれているそうだ。

約1000年前建てられたこの神社はユダヤの礼拝所と酷似した造りなので、近辺にアークがあるのではないかと囁かれている。



「これでも神社なのかぁ」


「屋根も何も無いですね、ユダヤの礼拝所と似てるんですかね」






鳥居の無い不思議な栗枝渡神社は栗須渡クリシド、つまりキリストを隠すために、類似する名称にしたという伝説があるよいう。

昔、失われた聖櫃アークの行方を追って、日本に渡来した古代イスラエル人か、その末裔ともされる秦氏が、剣山を守護する拠点として建てたのが、この栗枝渡神社なのではないかとの云われもあるそうだ。



「う~ん、こういう神社って田舎の彼方此方あちこちに有るような気がするけど」


「もしかして観光局の宣伝かマーケティングですかね」






倭大國魂神社は、その神紋が7本のロウソクを立てる燭台「メノラー」のようにも見えまると言われている。

イスラエル大使が、わざわざこの地を訪れるほど価値のある謎多き場所で、大使も神紋が燭台のようだと語ったそうだ。境内には、多くの古墳も残されているそうだ。



「『丸に三つ柏紋』ですね、葉脈がメノラーっぽく見えないでもない」


「何だか今までの痕跡って、全部こじつけだったような」


「物証っぽいのは磐境神明神社だけなのじゃ」



それでも彼方此方あちこちにある神社が結界になっていて真実は隠されているような気もするよ。

今までどの神社にも御祭神は在宅じゃ無かったし。

ただ神界の窓口がそこにあったと言うだけの感想しか出て来ない。

この国でユダヤびとの末裔という事を隠さなければならない意味も解らない。

彼等が血脈に拘るなら、何処にいても誇っていれば良いと思うんだけど。



「四国って見物はこんな所かな」


「とんでもない、そんな事ありませんよ。

 土佐に行けば鰹のタタキが美味しいんです」


「鰹のタタキ?」


「ちょっと血の味が強いけど、美味しい魚だと言う話ですよ。

 外側だけ炎で炙った料理で」


「魚料理なんだ」


「私は魚の血はまだ飲んだ事が無かったですね」


「みんな、血なんか好むのは止すのじゃ」


「せっかくここまで来たんだから、土佐に行ってたたきを味わってみよう」


「何時になったら伊勢に行くのじゃぁ」



私達は急遽土佐に向かう事にした。

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