第73話「下関」
私達は
「長い吊り橋だねぇ」
川に掛ける吊り橋は知ってるけど、海を跨ぐ吊り橋を見るのは初めてだった。
コバルトブルーの海も見事だ。
「向う岸が下関になりますよ。
下関と言えば、フグが有名なんですよ」
「フグって?」
「魚の一種で毒があるから、調理に免許が要るらしいんです。
薄切りの刺身でお皿の絵柄が透けて見えるそうですよ」
「毒魚どころか生食かいっ、よく食べる気になるね」
「これだけ有名なんですから、きっと美味しいんじゃないですかね」
「まぁ、毒には当たらないと思いますから、一度くらいは味わってみるのも良いですね」
「はぁ? みんな毒魚なんか食べるのかや?」
「フグは戒律で禁止されていないでしょ」
「う、それはそうかも知れないのじゃが、ハラールでもないと思うのじゃ」
私達はフグが食べられる店を探す事にした。
どうやらフグは屋台で食べる物じゃない様だ。
わりと格式がありそうな店に決めた。
その方が安全そうだし。
私達は座敷部屋に案内された。
「こういう部屋はどう座って良いのか判らないのじゃ」
「そうですね、私にも少々敷居が高いというか」
「私も椅子の方が良かったな」
「アイヤー、皆さん畳は苦手でしたか」
運ばれてきた料理は豪勢だった。
https://www.shunpanro.com/fugu/img/img_kind_01.jpg
白身魚のフグは基本的に味が淡白だけど、ディップするソースがまた美味しい。
「凄いですねぇ、芸術的というか」
「魚でこんな料理が出来るとは初めて見たのじゃ」
「こういう高級料理は会話を楽しみながら摘まむのが良いんですよ」
「ふーむ、確かに上品に食べないと料理に失礼になりそうですね」
この国の料理って、味も調理法も盛り付けも繊細と言うしかないと思う。
料理の起源が神様に捧げる「神饌」から発展してきたというのが解る気がした。
神様に捧げるお供え料理だから、余計に心と技術を研鑽して精魂込められている。
私達の国のお供え物や料理と比べると完敗だね。
なんでこの国の人達って料理まで芸術の域にまで高めちゃうのかな。
人心地つけた私は次の観光地を決めようと旅行ガイドブックと地図を広げる。
「さて、次の観光地は」
「次は広島が良いですよ?
なんたって『お好み焼き』が有名なんですよ」
「
「アイヤー、私はグルメ旅行をしているつもりなんですけど」
「広島なら厳島神社がありますね、良い観光地ですよ」
「我は早くアッラー様に会いたいのじゃ」
「伊勢まではまだまだ掛かりますから、広島から出雲大社を回って京都に行きましょう」
「ひゃほう! 『お好み焼きー』」
南下して岡山の倉敷から南下すれば四国にも寄れるし、京都から熊野古道を通り伊勢神宮に向かう事が出来る。
「せっかくの観光旅行だから、この街も楽しんで行こうよ」
「そうですね」
広島まで直行するより、
私達は旅行ガイドブックを見ながら街中に繰り出す事にした。
https://www.ikyu.com/kankou/arealist8411/
「何じゃあれは、バベルの塔がこんな所に⁉」
「あれは『海峡ゆめタワー』というらしいですね」
「バビロンの塔を言うならドバイの街で言い放った方が合っているような」
西日本でも有数の153mのタワーだそうだ。
30階の展望室は360度見渡せるパノラマ構造になっていて、関門海峡や北九州、下関の街を眺める事が出来る。
私達は早速展望室に上がり市中を眺める事にした。
「これほどの高さになると建物がこんなに小さく見えるんだ」
「それにしても緑が少ないですね」
「街がこんなに大きかったのは驚きなのじゃ」
一通り景色を堪能した後は、門司港レトロ海峡プラザに買い物に行く。
ここは北九州の海産物、菓子、工芸品などのみやげがそろう観光の拠点なんだそうだ。
門司港が「バナナの叩き売り発祥の地」にちなんで、バナナをモチーフにした土産が多い。
「バナナは桃園には無かったですね、と言うより珍しい果物と言うか」
「あの丸い魚の吊るし物は何でしょうね」
「ふぐ提灯というランタンのような物みたいです」
「へぇ-、フグってこんな魚だったのかぁ、魚の皮でこんな物が作れるんだ」
置物としておもしろそうだと思った私は、お土産を含めてふぐ提灯を三つ買った。
スタンドには足りないけど、ルームランプにしたらお洒落かもしれない。
もちろんバナナやお菓子もいくつか買い込んだ。
買い物が終わった後は、明治・大正時代に海外交易の要衝として賑わった門司港の面影を残す洋館を集め、レトロ地区として整備された門司港レトロに行って建物を鑑賞する。
昭和初期まで税関庁舎として使われていた洋館の旧門司税関。
焼失後に再建されたものらしい。
1階は吹き抜けの天井で、休憩所と税関のPRコーナー、2階は展望室があるそうだ。
三井物産がVIPを接待する社交クラブとして使っていた建物が旧門司三井倶楽部。
1階のレストランはパスして、2階のメモリアルルームを観に行った。
林芙美子記念室とアインシュタイン夫妻の宿泊を記念したとなっていた。
大正3年に建てられた門司港駅舎。
現在、仮駅舎で営業しながら建物の大規模な保存修理工事中で観る事は出来なかった。
それでも駅前に設けられた見学デッキから改修の様子を見ることが出来る。
建築に携わる者じゃない私達には、ふーん、それで? といった思いしかなかった。
だいぶ特異なデザインの赤間神宮にも観に行った。
源氏に敗れ、入水して亡くなった安徳天皇が祀られているらしい。
平家の武将達が怨霊となって現れる怪談『耳なし芳一』の舞台でもあり、七盛塚があるのだとか。
「安徳天皇って誰じゃ?」
「まだ子供で就任させられたようですね。
ちなみに天皇と言うのはスメル一族血脈の末裔ですよ」
「権力が絡むと色々たん変なんですね」
「武将の怨霊に出くわさなくて良かったよ」
「この国の
「浄化しきれていないんですか?」
「怨霊なんて、後から後から湧いてきますからね」
何でも魔王となった崇徳上皇という怨霊もいまだに健在らしい。
天皇家にまつわる国難には、崇徳上皇の呪いが関わっているのだとか。
殆ど一般人に直接関わらないから、ある程度大目に見られているそうだ。
「魔王がこの国におるのかや?」
「魔王は
「神の国には魔王も混在しているんですか」
「祀り棄てられ妖怪に堕ちた神々や、生粋の妖怪も多いですね」
「それでよくこの国は発展出来て来ましたね」
「悪神とて神の内、善神にも
「人に迷惑が掛かっても、神の都合だから我慢しろですか。
ううう、身に覚えが有り過ぎです」
私にはアレスとの一件がそうだ。
藤の花をアーチ状にはわせた、2種類の藤の花トンネルが大人気の河内藤園。
青紫やピンク色などの鮮やかに色づいた藤がしなやかに垂れながらその姿を見せつける。
トンネルの先には圧巻の大藤棚がある。
「うわ、これは見事です」
「まるで天国の門のような景色じゃな」
「花ってこんなに良く作れるんだぁ、これは良いよ、素晴らしい」
「それにしても優しい色合いですね」
一通り堪能した私達は広島に向かう事にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます