第70話「九州観光②」

幣立神宮を訪れた。

https://www.travel.co.jp/guide/article/13325/


うん、ここには神様が沢山いるよ。


幣立神宮は歴史が15000年位あるらしい日の国最古の神社との事だ。

高千穂の山頂から降りて来て、本格的活動を始めたのがこの地になるらしい。

御主祭神は神漏岐命かむろぎのみこと様と神漏美命かむろみのみこと様。

神武天皇の孫である健盤竜命たけいわたつのみこと様が宮崎から阿蘇に向かう途中、一羽の白鳥の案内で幣立神宮に立ち寄り、幣帛を立て天神地祇を祀ったとされているとガイドに記してあった。


今ではパワースポットの一つとして有名になっているらしい。

龍神の子が東御手洗池に住んでいて、有力な神様が多くいるならパワースポットにもなるよね。



「我等が訪れても大丈夫なのかや?

 我は偉大なるアッラー様のしもべ、ここでは異教徒になると思うのじゃが」


「天神地祇、それは天津神と国津神、要するに全ての神々を祀っているんだから大丈夫でしょ」


「天神地祇って何じゃ?」


「天神は高天原たかまがはらに生まれた神、もしくは葦原の中津国に天降った天津神で、地祇はこの国土の土着の神とされる国津神の方々の事ですよ」


「ずいぶん言葉を縮められるのじゃな」


「それではご挨拶に行きましょう」



参拝作法として真ん中は神の通り道だから、人は鳥居の端を通らなくてはならない。

私達は神族だから石鳥居の真ん中を通り拝殿に向かう。


拝殿で人は鈴を鳴らした後、柏手を打ち、二拍一礼してから祈りを捧げる。

厳密には川か海で全身を禊いでからの参拝になる。

現在は手水場で手と口を漱ぐだけで簡易的に認められている。


神族の私達は呼び鈴代わりに鈴を鳴らし本殿に向け、おもむろに声を掛ける。



「ごめんくださーい」



本殿の奥に子供の姿がチラと見えた。

私達の姿を見るや、神宮の主を呼びに行った様子。

しばらくすると優しそうなお爺さんがやって来た。

このお爺さんが神漏岐命かむろぎのみこと様かな。



「どなた方がお出でになったのかの」


「私はヒルト、こちらの方はチャンディードゥルガー様と何仙姑かせんこさんとジブリール。

 この国に観光の旅に来たんだけど、ご挨拶に伺ったんです」


「あ? なんだって?」



うぅ、耳が遠いんか、このお爺ちゃんは。



「ご挨拶に伺ったんです」


「あぁ、あぁ、それはご丁寧に。

 で、どなたじゃったかな?」



何だか話が一向に通じない。


イライラしながらこんなやり取りをしていると、奥から子供がお茶を用意して駆け寄って来た。

少年の名は『日向夏ひなか童子』

東御手洗池に住んでいる龍神の子で神様方のお世話をしているとか。


ここで童子といっても、子供という意味じゃない。

仏教用語で眷属であり、近しい所で雑役に従事する者を指す。


侍従長みたいな者かな。

日向夏ひなかは老人介護職員という雰囲気もするけど。



「すみません、神漏岐命かむろぎのみこと様はお耳が遠くなられまして」


日向夏ひなかや、お昼ご飯はまだかいのぅ」


神漏岐命かむろぎのみこと様、お昼ご飯はもう済みましたよ」


「お前はいつもそんな事を言って、儂に何も食わせんじゃないか」



「あ~、こりゃダメだ」



世の中、良い人に限ってボケたり、認知症になり易い。

『憎まれっ子世にはばかる』って諺がある通り、悪党に限っていつまでも元気なんだよね。

ボケた神漏岐命かむろぎのみこと様はそれだけ良いお方という証拠だ。

本当は神族としては食べる必要は無いんだけど。


私達? 食べたいから食べてるだけだよ。



日向夏ひなかや、お客様かえ?」



奥から神漏美命かむろみのみこと様と思しき老婆がヨロヨロとやって来る。

とにかく年寄りの動作はのろい。



「外国の方々がおでになられたようで、遠い所、大変で御座いましたなぁ」



神漏美命かむろみのみこと様の方がまだしっかりしている様だ。



「私達はこの国の神様にご挨拶に伺っただけですので」



私は崑崙仙界移転ステーションで買った月餅と桃園で採って来た果物をお供えする。



「おやまあ、これは有難い事で、日向夏ひなかやお供え物を下げておくれ」


「はい、神漏美命かむろみのみこと様」


「皆さんは旅を続けますのか?

 道中の安寧を祈らせてもらいますよ」



神漏美命かむろみのみこと様は私達に御朱印を下賜してくれた。

神界間で入国ビザの代わりになるのかな。



「ありがとうございます、神漏美命かむろみのみこと様」



東御手洗池で龍神の子に会えるかと期待したけど、ここで出会ってしまった。

なら今更東御手洗池を観に行く必要も無いか。



「次の阿蘇中岳火口観光に行きましょう」




--------------




私達は阿蘇のカルデラに移動した。

周りは全部火山灰なのか、草木が全く生えていない。

ゴツゴツとした溶岩の岩肌が広がる地面を歩き、煙を吐き出す火口を覗く。



「うーん、これぞ大地の息吹と言うか」


「地獄とは、このような場所かも知れぬのじゃ」


「溶岩は地殻による圧力でこのように化学変化するのですよ」


「そうなんですか?」



今まで何故溶岩なのかなんて考えた事無かった。

まぁ、私が知った所で無駄な知識が増えるだけの事だし。



一通り観て回った後、売店に寄る。


火山の近くだと硫黄で黒くなった温泉卵を売ってるんだよね。

地熱で茹でたのかどうか知らないけど、美味しく頂いた。

売店の一角ではやきいもと銘打って焼いた芋を売っている。

見た事が無い種類の芋なのが興味を惹く。



「こんな紫色のお芋って有るんですね」


「芋かぁ、カルフェジャガイモには食傷気味なんだよね」


「でも中がこんなに黄色のお芋は初めて見ました」



何仙姑かせんこもこんな芋は知らないと言う。

私達は試しに一つ買ってみる。



「おお! なんという甘さじゃ」


「意外と美味しいですね」


「芋がこんなに甘いなんて知りませんでした」


「ホクホクで美味しい」



皆は甘さにカルチャーショックを受けた。

私はお土産に買えるだけ買い込んだ。

道中のおやつにも手頃だし。

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