第68話「高千穂の峰」

「何じゃ? 何もない岩山じゃな」



私達が移転ステーションから出た一番の感想はそんなものだった。

ここは宮崎県と鹿児島県の県境に位置する霧島連山の名峰『高千穂峰』。

標高が高い山の頂上だと、草木は生え難いのは確かだろう。

その風景は何処となく中東の山を想起させられる。


一つの青銅製のモニュメントが目に入る。



「あれは天之逆鉾ですね」


「うーん、武器っぽく見えないよ」



本物の鉾じゃない事は判るけど。


なぜ古代、神々は山の頂上に降り立って『降臨の地』としたんだろうね。

常識的に考えれば、平地に降り立てば、何かと便は良いはず。

思い起こせばオリンポス神族も、高い山の山頂に神殿を造ってたっけ。



「それはですね、太古の神々は巨大な飛空舟、天之鳥舟に乗って世界各地を移動したからなんですよ」



大きさの問題で? 平地に着陸施設が造れなかったようだ。

先住の山岳民族とも交流が出来、やがて平地に降りて来た。

先住の山岳民族も降臨したスメルの神官の系譜である瓊瓊杵尊ニニギノミコトは同一の祖先をもっていた。

伊邪那岐尊いざなぎのみこと伊弉冉尊いざなみのみことの指揮の下で造った最初の地に里帰りしてきたのが天孫降臨と言われるらしい。

同一祖先を持つ民族が、里帰りした子孫に国譲りをした理由はそこにあるようだ。



「とんでもなく永い歴史がある地なんですね」


「当時は豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)と呼ばれていたようですね」



地球ピラミッドの頂点に最初に造られた陸地が当時、淤能碁呂島おのごろじまと名付けられた。

その後に造られた大陸が大八洲おおやしまだ。

神の目線では、皆が仲良く暮らして欲しいと願うのも当然の心境だろう。

それが八紘一宇はっこういちうの精神だ。



「それにしても何で縄文人は世界に旅立ったんです?」


「人類って放っといても文化交流広めていくでしょ」


「あー、そういう事ですか」



言われてみれば、三万年もあれば地球全土に広がっていくのも無理は無い。

時には部族対立だってあっただろうし、受け入れられて混ざり合い、新たな部族が出来たり。

そんな具合に五色人が出来上がったり、その種類が減ったりと移り変わる。

中には部族勢力が大きくなって文明に発展する。

その一つがメソポタミアのシュメール文明だったりする。


シュメール文明が終焉して一部が豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)に戻って来た。

スメルでも神々に連なる一族だから『天孫』を名乗る事が出来た。

その一族を現す紋が太陽紋であり、菊花紋とも呼ばれている。



「そんなに永い歴史があるなら文献なんか残ってないでしょうね」


「残っていますよ」


「へ?」



皇祖皇太神宮(こうそこうたいじんぐう)の歴代宮司、武内宿禰たけのうちのすくねの元にある竹内文書がそうだと言う。

元々神代文字で記されて伝えられて来た物らしい。



「何で有名じゃないんですかね」


「アカデミズムが認めていないからですね」


「そんなもんなんですか」


「そんなもんですね」



チャンディードゥルガー様の説明は宇宙創世を飛ばし、地球創造の話になる。

少数だけどあらゆる事に合致性が取れ過ぎている不自然さに気付いている人もいる。


地上から見て太陽と月がなぜ同じ大きさに見える位置に月があるのか。

なぜ月は回転せずに常に一面だけを地球に向けているのか。

樹木は何年経てば化石化出来るのか。


他にも数字で見れば奇妙な合致性を見る事が出来る物がある。

なぜそうなっているのか。

奇跡的な確率で出来る物なのか。


答えは簡単だ。

それらは、そうなるように造られているから。


第一段階として、計画された軌道上に珪素植物の種を置き、数億年かけて育てて行く。

それがスターシードと呼ばれ、真空中でも発育する。

長い年月でスターシードは大樹に育つ。

育った大樹の質量に小さな星間物質は引き寄せられ、惑星に成長して行く。



「もしかして、その大樹って」


「ヒルトのお察し通り、世界樹ユグドラシルがそれですね」


「最初の世界樹ユグドラシルは化石じゃなかったんだ。

 てっきり何代目かの世界樹かと思ったけど、違うのかぁ」



珪素植物だから最初から石状の樹木だった。

それが世界を覆い尽すほどの大きさに育つには、どれ程の時間を要したんだろう。

世界樹ユグドラシルはまだ枯れた樹木でもない。

表側に後年現生植物が生えているから、一見巨大な樹木に見えていた。



「当時は地球の周りに星間物質を集めていたんですよ」



それが『天の浮橋』だと言う。

テラフォーミング作業時の拠点や足場として作られた。

ちょうど土星のリングの様に、かつては地球の周りにリング状に星間物質が集められた。

地上が居住可能になる可能性が出来た時点で、星間物質のリングは地上に全部落とし、地殻を割った。



「地球上の水は何処から来たのじゃ?」


天之沼矛あめのぬぼこと命名される水の彗星を地上に衝突させたんですよ」



その時の衝撃で地殻を動かし、大陸を隆起させた。

暫くの間不安定だったけど、やがて安定期に入って行く。

不安定期の最後の情景が世界に残る洪水伝説になった。


星間物質を集めつつも手を入れて地脈を通し、大気を創り居住可能な惑星は造られた。

地球創造の際に龍神たちによって地脈や大気の気脈が整えられている。

その様に手を入れて惑星でありながら、生物的な代謝機能を与える事が出来た。



縄文人は神々の末裔でもあり、龍神とのハイブリットでもある。

他の地域の民族は、その地の神々に創られてもいるようだ。

だから文明毎に人類創造の神話が残っているのではあるが。

但し長年伝えられてき来た神話は大分時代の垢がついて歪曲してしまっている。



「う、嘘じゃ、この世界は偉大なるアッラー様が創られたのじゃ」


「聖書では七日で世界を創ったとありますね」


「そうじゃが」


「実際には七日ではなく、七期かかったのですよ。

 そもそも七日という概念、一日という概念が世界が創られる前に在るのが変だと気付きませんか?」


チャンディードゥルガー様はなぜそんな事を知っておるのじゃ」


「私達神族が集まって創る作業に従事したからに決まっているでしょう。

 『光あれ』『天と地は分かれよ』なんて言っているだけで世界が創造出来たなら楽ですね。

 むしろ、そんな言葉は設計者か、プロジェクト最高責任者の指示というもの」


「なら、その最高責任者が偉大なるアッラー様なのじゃな?」


「違いますね、国之常立神(くにのとこたちのかみ)ですよ」


「じゃあ、アッラー様は……」


「アシュケナジーじゃないユダヤの民の先祖神です」


「そ、そんなぁ、我が聞いて来たのと違うのじゃ」


「ジブリールは伊勢神宮で主神アッラーに合いたいのでしょう?

 その時に聞けばすべてを知る事になるでしょう」



チャンディードゥルガー様に比べれば、ヤーヴェは若いんだ。

私はもっと若い事になるけど。

神話に隠された壮大な世界観には驚くしかない。

世界は神々によってテラフォーミングされた地だった、というのが正解だったようだ。


神話という物も一度親身になって学び直した方が良いのかも。

そんな風に考えていると、何仙姑かせんこが思考をぶった切る。



「皆さん、そんなに難しい事考えてないで行きましょうよ。

 ここ九州には有名なラーメンがあるらしいですよ?

 それに有名な長崎ちゃんぽんか」



福岡県久留米のトンコツラーメン、博多ラーメンの聖地だと何仙姑かせんこは言う。


旅行ガイドを見れば、博多と言えば屋台が有名らしい。

すてきなストリートフードとの出会いが期待出来そう。


そうと決まれば、いつまでも山の天辺でチャンディードゥルガー様の講義を聞いていても仕方ない。

早いとこ人里に降りなくちゃ。



少し下山した所に石で出来た鳥居があった。

どうやら、ここが降り立った場所なのかもしれない。



「あ! 火山があるのじゃ」


「今だに火山灰を振り撒く桜島火山かぁ」


「あちら側が鹿児島なんですね」


「九州の地を北上すれば福岡県がありますね、第一の聖地ですよ、うふふふ」



私は地図を開いて今後のルートを考えた。


北上する途中に高千穂峡がある。

良い観光地だろうな。


次に熊本から福岡に北上して、北九州から本州に渡れそうだ。

関門海峡を渡れば下関に到着する。


よし、このルートで行く事にしよう。

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