第65話「饕餮(とうてつ)討伐戦」

饕餮とうてつは地面ごと果樹の根まで貪りつつ迫り始めて来る。



「おのれ! 意地汚い奴めが」


ゴアアアアアァァァァァァァ



ジブリールは剣を構え突っ込んでいく。

駆け込みながら奮う剣が饕餮とうてつを切り裂いた。

鉄猿妖ほど固くは無いから斬撃に苦労は少なそうに見える。


剣で切り裂いた傷から飛び散った血は直に流れを止める。

パックリ開いた傷口の奥には歯が生え始め、新たな口になり、触れた物を貪り始めた。

ダメージを負っても、食べる事で体力は回復してしまうようだ。



「何だと! 口が増えた?」



ジブリールと何仙姑かせんこは回復の時間を与えてなるものかと斬撃を繰り返す。


しかし斬撃を受けた傷口は次々と歯が生え口になって行く。

口の中の歯は不揃いで汚く、腐敗臭のする息を吐き出している。

切り傷が増える程、物を喰らう口が増えて行くのだ。


饕餮とうてつだって大人しく斬られている訳じゃない。

機敏に動き回り、超手の鋭い爪を振り回しジブリールと何仙姑かせんこを襲う。

下手に接近戦になれば喰らおうと口が襲って来る始末。



「一撃離脱戦で痛めるのじゃ」



二人は距離を置きながら隙を伺い、駆け込み、一撃を加え走り去る。

私もチャンディードゥルガー様も加わり、多方面から斬撃を加え始めた。



「ああ! 我の剣が齧られてる!」


「拙いですね、私の剣もです」



二柱ふたりの剣は既に彼方此方あちこち齧り取られ、刃毀れが酷い。

剣が口に当たった瞬間、饕餮とうてつの歯は剣を齧り取る。

剣で傷を作る度に口が出来て行く。

口が増えれば、攻撃武器のどれかが口に当たり齧られてしまう。


私の剣も齧り取られているが、自動修復機能で元に戻る。

しかし、このままでは中々終わりが見えてこない。



饕餮とうてつってこんな怪物だったのか」


「斬撃を繰り返すのは悪手ですね」



チャンディードゥルガー様はドゥンと共に鉄猿妖の掃討戦に切り替えた。

衝撃波や火炎を放つ武器は持っているけど、広範囲攻撃をすれば果樹にダメージを与えてしまう。

ましてや共闘する仲間を巻き込んでしまう様な戦い方は控えた方が良い。


私は神聖ルーンを構築する。

「Lys for å skyte og ødelegge fienden min, mørkets monster (我が敵、闇の魔物を撃ち滅ぼすべく光を)」


上空に魔法陣のような光のスターヴが展開する。

体の中に神力が満ち始め、熱を持ち始める。

早い所放出しなけりゃ私自身が危なくなりそうだ。

周りの果樹は喰い荒らされ開けているから、多少の熱攻撃大丈夫だよね?



「ジブリール、何仙姑かせんこ退避して!」


「何じゃ?」

「ヒルトさんの攻撃魔法が来ます、逃げますよ」



ジブリールと何仙姑かせんこは咄嗟に左右に飛び避ける。


私は片足立ちの腰を落とし、上体を安定させる。

右の腕を上方に曲げ、左の手を右の肘に当てる。

光線照準、饕餮とうてつに視線を定め、トリガーを引くイメージを送る。



「デュワ!」


ZVew―――――――――――――――――――



右の腕から放出する光の粒が断続的に饕餮とうてつを焼き削って行く。

聖なる光を凝縮させた強大なエネルギー放出は膨大な熱エネルギーを持つ破壊光と化している。

破邪の光ビームは饕餮とうてつの体を焼き、削り取って行く。

しかしすべてを焼き切る前にエネルギーは尽きてしまった。


焼け焦げた饕餮とうてつは体の彼方此方あちこちで小爆発を起こす。

動きが止り煙を上げながら後ろに倒れる。



「ジブリールさん、止めを刺しに行きますよ」


「お、応!」


「私も剣に神力を込めて焼き切りますよ」



ジブリール、何仙姑かせんこチャンディードゥルガー様が止めを刺しに掛かる。


饕餮とうてつは全員から攻撃を受けながらも、地面を喰らい回復を始めている。

最後の足掻きのようで動きは鈍い。

しかし放っておくのは拙いことは誰もが理解していた。



「回復なんてさせるかぁ!」



皆は剣に炎を纏わせ、焼き斬る方針に変えた。

果樹に火が燃え移ったら消せば良い。

少々の被害だったら今更だ。



ゴアアアアアァァァァァァァ



饕餮とうてつの叫び声で残りの鉄猿妖が三匹、護りに駆けつけて来た。

数は少ないけど、饕餮とうてつ一匹に集中攻撃を続ける事が難しくなった。



「ちぃ、邪魔な」


「これでは饕餮とうてつに回復の時間を与えてしまいますね」


「倒せずとも捕縛出来れば、障害物排除が出来るのに残念ですね」


「私が捕縛用の神聖ルーンを使います、時間を稼いで下さい

 Fange, slutte å bevege deg, fange (捕らえよ動きを止めよ捕縛せよ)」



饕餮とうてつと鉄猿妖達の上空に光のスターヴが展開し、光の網が投げ打たれた。

鉄猿妖達は網に捕らわれ絡まる一方だけど、饕餮とうてつは光の網を喰い破り始める。



「させるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl」

「止めを受けよ―――――――――」

「これで最後です!」



三柱さんにんは剣を饕餮とうてつの体深くに突き刺し、炎で体内を焼いた。



ゴギャアアアアアァァァァァァァ



饕餮とうてつは断末魔の叫びを上げ崩れ落ちる。



勝った。



後は網に絡め取られた鉄猿妖達を屠るだけだ。

三柱さんにんは確実に仕留めて行く。



「終わったのじゃ」


「皆さん、ありがとうございます」


「私が一番戦闘力が高いのに、あまりお役に立てませんでしたね」



チャンディードゥルガー様は申し訳なさそうな顔で謝罪した。

それは無理もないと思う。

大艦巨砲の戦艦でゲリラ掃討戦に挑めと言っているようなものだろう。

辺り一面を広範囲で殲滅しても良いならチャンディードゥルガー様の出番だと思う。

果樹園が焼失しない様に抑えた結果だ。



「では、討伐成功を果樹園の管理者に知らせますね」



何仙姑かせんこは討伐成功の狼煙を上げる。


やがて狼煙を見たフルーツパーク係員達がカートに乗ってやって来た。



「皆さん、本当に饕餮とうてつを倒されたのですか」

「何だ、この小型の魔物は」

「それは鉄猿妖じゃないでしょうか」



私達は饕餮とうてつが鉄猿妖を手下に使い、防御力を上げていた事を話した。



「なるほど、それで先の討伐が梃子摺てこずって失敗したんですね」


「それだけじゃないと思いますよ」



ジブリールと何仙姑かせんこ饕餮とうてつに齧られた剣を取り出した。

パックリ開いた傷は次々に歯の生えた口になって行く。

体中どこにもある口が触れた物を何でも齧り取るのだと説明をした。

そこまでの情報が無かったのか、フルーツパークの係員たちは驚いている。



饕餮とうてつというのは、そういう怪物だったのですか」

「なんと恐ろしい奴なんでしょう」

「でも、退治されて良かった、これで安心して開園出来るってもんです」

「皆さん、本当にありがとうございました」



私達は係員達のカートに乗って入り口まで戻る事にした。

魔物の死骸は後で別の係員が始末に向かうらしい。

フルーツパークからは討伐のお礼としてレストランでの食事を勧められた。


もちろん二つ返事でOKよ。


やっとジンギスカン鍋を囲む事が出来る。

もちろん食事の後はフルーツ狩りを楽しませてもらう。

食べきれない分は亜空間収納でお持ち帰りさせてもらうけど。

だって、食事の後のフルーツ狩りじゃあ、沢山食べられないじゃん。

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