第57話「カラチ、モヘンジョダロ」
次なる地はカラチだ。
アラビア海に面した港町で、元々現インドのカッチ地方の漁師達が造った漁村だったらしい。
その後交易の中心地として栄え、パキスタン独立後から、現在の首都イスラマバードが建設されたらしい。
ここには海があって久しぶりに魚料理が食べられるよ。
私が魚料理に思いを馳せ、ウキウキしてるとチャンディー《ドゥルガー》様は目を細め語り掛けてくる。
「ヒルトは魚料理が好きなのですね」
「好きですよ。
私の神界は北欧圏ですから。
ヴァイキング達も結構魚を捕っていましたし」
今までは内陸部にばかりいたから、魚料理を望むのは難しかった。
北欧諸国は海に面しているから魚貝も豊富で、中でもサーモンがよく使われる。
肉料理はベーコンなど豚肉が多めだし。
湖や森など自然も豊かだから木の実やきのこ類、他じゃがいもを使った料理が多い。
焼き物や煮込み物などの調理が多く、家庭的な物が中心となっていたかも。
「北欧と言えば、あの臭い缶詰が有名ですよね」
「シュールストレミングですか?」
シュールストレミングは、ニシンの塩漬けを缶に入れて発酵させた缶詰だ。
水の中で缶を開けないと大変な事になる。
日本でもクサヤという物があるから、食べるにも慣れが必要になる。
どちらにしろ鼻をつまんでも、口に入れるだけで臭いのだ。
「魚を発行させた缶詰ねぇ。
どれほど香辛料を利かせれば、私にも食べられるのでしょうね」
目に止まったレストランに入りいくつか料理を注文した。
異国の料理を堪能出来るのも旅行者ならではと思うの。
『ティッカ ボッティ バーベキュー』
食べやすいサイズにカットした肉を、ターメリックやコリアンダーなど数種類のスパイスに漬け込んで焼いた料理。
『シンディ・ビリヤニ』
スパイスたっぷりの肉や野菜のカレーの上に、層になるように米を投入して炊き上げた米料理。
『ラホーリ・フィッシュ』
スパイスを付けてサクサクに揚げた魚のフライ。
どれもこれもが美味しそう。
思わずお酒も欲しくなる。
思い出してみれば、神酒ネクタルは量が少なくなった。
私の故郷の地酒『アクアビット』は、またどこかの移転ステーションで買えるかもしれない。
ここはひとつお世話になっている
「よろしければ」
「ほう、一つはネクタルですね、もう一つもどこかの地酒?」
「はい、私の故郷の地酒『アクアビット』です」
「美味しそうですね。
なら、私からもお酒を提供しましょうかね、神酒ソーマですよ」
何と、インド神界にも神酒ソーマってのがあったんだ。
割と度数は低めの様だけど、ありがたそうな効能が在るらしい。
人間が飲むと神と繋がる効能なあるなんて、アルレースが欲しがるだろうなぁ。
何処かの地域ではアワヤスカという薬を飲む事で、神秘体験が出来ると言うのがあるらしい。
知らないけど、神酒ソーマってそれに近いものがあるのかな。
滋養強壮に効くらしいから、薬酒の一種なのかも。
神族にとっては神秘体験なんて日常の事だから、今更どうこう言うほどの物じゃない。
神酒ソーマって飲むと乳酸飲料っぽい味がした。
神酒ネクタルも飲むと桃っぽい味わいがあるね。
どちらにしても香辛料の効いた料理に合わない訳じゃない。
食前酒としても丁度良い。
私達の腹ごしらえも終わり、ほろ酔い気味になって次の観光に向かう。
私はクリフトン・ビーチで、潮の香りを嗅いで安らぎを感じた。
やっぱり内陸部より湾岸部の方が好きかな。
この国の観光でジンナー廟を観た。
この廟はパキスタン建国の父、ムハンマド・アリー・ジンナーの廟。
大理石で造られた高さ30mの大建築物で、周辺は広大な公園になっている。
中々綺麗な場所だ。
「そういえば、
「人に見えない様にしていますからね」
と、言う事は見えない
現地の他の人に変人だと思われてる?
そういえば神獣ドゥンもずっと大人しく、一声も上げていない。
街中にドデカいライオンがいればパニックが起きても不思議じゃないよね。
「いやだなぁ、
「私はヒルトが既に気付いているものと思っていましたが」
ゴホン、ゴホン。
なにはともあれ、旅の恥はかき捨てという事で次に行く。
国立博物館ではモヘンジョダロ・ルームがあって遺物の閲覧が出来る。
有名なインダス文明の史跡や遺物なんだよね。
モヘンジョダロは大昔の廃墟。
次なるハラッパーも大昔の廃墟で石の建物の残骸ばかりが残されている。
「往時を偲ぶと感慨深いものがありますね。
ハラッパーというと、ハリ・ハラ」
「また古い事を覚えていますね」
「開明獣」
古代中国の地理書『山海経』の「海内西経」に記述のある神獣。
天帝の下界の都である崑崙の丘にある九つの門を守っている。
そんなキャラまで思い出してしまった。
「開明獣ですか、いるにはいるんですが。
最近では亜種の明解獣というのもいるようですね」
亜種の明解獣は何でも明解に答えるそうだ。
まあ、そんなのどうでも良いか。
そういえば滅んだ都市の遺跡としてカッパドキアというのもあった。
古代に核兵器で滅んだなんてオカルトめいた噂があるらしい。
実際には人知を超えた所で、神々の戦争に巻き込まれたところも多かっただろうね。
大概そんな所の住民は、地下に避難した場合も多いし、そんな遺跡だって残っている。
人類が地下に都市を建造出来なかったのは換気の問題もある。
何より光が無ければ人類は地下で生活するのは難しい。
地底都市シャンバラやアガルタってのがあるけど。
ありゃあ神仙の都市だから、一概に生粋の地底人ではない。
でも長い事孤立状態だったから言語や風習、風貌も地上人とはだいぶ変わっている。
そちたも観光しようにも、近くに入り口は無いから無理そうだね。
「そういえば地底都市シャンバラって」
「ああ、それはチベットに入り口がありますね。
観たいなら逆戻りになりますよ?
どうせなら進行方向にいずれ崑崙があるから、そこに寄りましょう」
「崑崙ですか」
崑崙と言えば『封神演義』の舞台だったような記憶がある。
そこも神仙の世界だ。
「良いですねぇ、崑崙、私も一度は観たい所です」
「崑崙ならシャンバラやアガルタに続く地底回廊があったはずですよ」
どの都市も入り口が地底に向かっているから地底都市と思われがちだけど実態は違う。
地底に空洞は無いし、太陽も地底には無い。
一種の異空間にそれらの都市があって、多くの神仙がそこで暮らしている。
実態は神界が空の上に無いと言うのと同じ事なんだけどね。
どんなに上空に上がっても成層圏があるだけだ。
まあ、私としては崑崙だけでも観れれば十分かな。
私の頭の中ではシャンバラで連想した音楽が鳴っていた。
https://www.youtube.com/watch?v=ajVDL2X28HM
Hank Williams, Sr JAMBALAYA
「ヒルトの連想は音楽ですか、私は料理が連想されましたね」
「それも、ジャンバラヤやで」
「シャンバラや、ああシャンバラや シャンバラや」
「もう、ええっちゅぅねん!」
ありやたんしたー。
「ガウガウガウ」
「ドゥンだけにしか受けないなんて悲しいですね」
神は全てを創り給うた。
全ての中にはジョークも漫才も。
故に神がそれを口にしても構わないのだ。
私達は次の観光地を目指す。
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