第55話「アレクロウド王国のアルレース⑨ 姫騎士軍団」
「お兄様、私、相談がありますの」
「ん? どうしたアリエット」
「王国には女性騎士がいますよね? 私は女性騎士軍団を創設したいと考えたのです」
「はあ?」
アレクロウド王国には女性王族の護衛として、女性騎士が付けられるようになっている。
女性王族にとって身近にいて護衛を務める騎士は、男性騎士より女性騎士の方がより安心出来る。
女性騎士は殆どが貴族の令嬢で占められる。
彼女達の立場は男性騎士達に比べ、別枠と考えられていた。
咄嗟の場合、身を挺して王族を護る。
戦力はともかく、それが本来の女性騎士の役目。
女性騎士でも正騎士、準騎士、騎士見習いがいて、王族付きになれない者も結構存在する。
王族の人数が限られている以上、王族付きの役目は門戸が狭いのだ。
男性騎士なら国王直属軍団として機能出来る。
何時如何(いついか)なる時にも出陣可能な上級国軍戦力という立場だ。
女性騎士は時と場合によって、男性騎士軍団の補助や準戦力要員として扱われる。
女性は男性に比べて力が弱いから、自然とそういう立場になってしまう。
「私は女性騎士達の現状を調べました。
私には、それがあまり良い状態だとは思えないのです」
「それは仕方が無いと思うぞ?」
「仕方が無いの一言で、貴重な戦力に無駄があるのは勿体無くないですか?
アルレースのような優秀な女性騎士だっているのです。
訓練次第では、第二、第三のアルレースだって作る事は不可能ではないと思います」
「うん、アリエットの考えは一理あるな。 それで?」
「私が最高責任者になり、女性騎士達を一堂に集め、管理する女性軍団設立をしてみてはどうでしょう?」
「ふむ」
「女性騎士達を教育するにも『黄金騎士アルレース』は打って付けでは御座いませんか?」
「そうだな、しかしアリエットにも王族としての務めもあるだろう」
「私は政略結婚の駒として生きて行くより、私の軍団の長の方が魅力的に思えます。
王国としてもメリットは大きいと判断出来ます」
「政略結婚の駒とは辛辣だな、それでもそうあって欲しいと思う。
騎士は戦う者達であるから、常に命の危険が付きまとうだろう」
「良いではありませんか、私がその様な人生を選択したという事ですから」
「アリエット、お前なぁ、そんな事してると親兄弟として心配になるだろうが」
「私は王族の一員ですよ? 王国の利益に叶えられるのが一番ではないですか」
「お前、何だかアルレースに毒されてないか?」
「アルレースの生き方に憧れる女性も多いのですよ? 私だって」
「おいっ!」
この日はディナダム国王とアリエット王女の喧々諤々(けんけんがくがく)の論争が続いた。
夜が明ける頃、アリエット王女のプレゼンテーションが通る事になった。
暫くした後、ある通達が発布された。
『アレクロウド王国の内の女性正騎士、女性準騎士、女性騎士見習い達に告ぐ。
女性騎士は皆、アリエット王女殿下の元に集うべし。
女性騎士軍団設立に付き、面談を行なわれる事となりしもの也。
役職付き女性騎士の軍団加入は、面接判断により免除の余地あり』
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「アリエット王女様、これは一体何で御座いましょう?」
アリエット王女の私室で護衛騎士達は困惑を隠せなかった。
「先日アルレース達とお話ししましたでしょう?
私はアルレースの力になるために、アルレースに軍を創って差し上げようと考えました。
アルレースは一人だけで戦に臨まなくても良いのです。
アルレースの下に軍団があれば、独りの奮闘より戦力は上がるというもの」
「えええええ? 私はアリエット王女様の護衛騎士で、親衛隊隊長なのですよ?
これ以上私に仕事を増やされるのですか?」
「親衛隊だって女性騎士の親衛隊ですよね? 大した差は御座いません」
「私が軍団の責任者になってしまってはアリエット王女様が」
「軍団には私も入隊します。一(いち)女性騎士として鍛えて下さいませ」
「「「えええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」」」
「武勇に聞こえし戦える王女なんて、素敵じゃ御座いません事?」
「「「えええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」」」
先日のアルレースの苦悩は、アリエット王女に変な考えを持たれてしまったようだ。
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現在役職付きの女性騎士は、面談で軍団加入を免除された。
女性騎士の正騎士、準騎士、騎士見習い、総勢367名の軍団が新たに設立された。
アルレースを頂点とする新たな軍団は、表向きにはアレクロウド王国戦力と公表されている。
しかし、創設者アリエット王女の腹の中では、アルレースのための軍団なのだ。
集まった女性騎士達の前でアリエット王女は熱弁を奮う。
「皆さん、女性騎士は今まで男性騎士と同等ではありませんでした。
私はそれを好ましく思えませんでした。
『黄金騎士アルレース』を御覧なさい、女性だって十分戦えるのです。
私達の力を見せてやろうじゃありませんか。
戦いを恐れる女性騎士がいるとは思いませんが、死など恐くはありません。
勇猛に戦った末に死しても、
皆さん、全員で目指しませんか? 私達は
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
アリエット王女の演説は全員から賛同を得た。
「ふふふ、アルレースだけが
だから私も含め
女性騎士軍団設立と同時期に変な宗教観が蔓延(はびこ)り出し、神官達は困惑した。
以前は敬虔な信徒だった筈のアリエット王女の神官を見る目は冷たくなっている。
諫めようにも、アリエット王女の暴走は止まる事を知らず、加速するばかり。
取り敢えず政治的に影響を与えられない限り容認するしかなさそうだ。
☆
後のアレクロウド王国に、二人の英傑ありと噂されるようになった。
一人は『黄金騎士アルレース』もう一人は『蛮勇王女アリエット』
彼女達の率いる軍団は通称『狂戦士(バーサーカー) 鬼姫騎士軍団』
アレクロウド王国内での正式名称は『黄金騎士団』とも言う。
近隣諸国から、その軍団は恐れられる存在となったのだった。
一度戦いになれば『狂戦士(バーサーカー) 鬼姫騎士軍団』が全員笑いながら突入して来るのだ。
誰一人一歩も引かないその軍団は、全員の実力が高く、必勝無敗を誇る死神軍団と噂される。
徴用農民兵に至っては、女の笑い声が聞こえただけで震え逃げ惑ってしまうようになった。
そんな『黄金騎士団』に憧れる貴族の子女や平民の子女も増え始め、軍団の規模は拡大していった。
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