第53話「アレクロウド王国のアルレース⑦ 殊勲授与式典」

王城内の大ホールで殊勲授与式典が行われることになった。

会場は広く天井が高いから、人々が小さいと錯覚しそうな景観だ。

大ホールの両脇に大臣達と貴族、その夫人達が一堂に集まっている。


今回表象を受ける者達は、中央に敷かれている赤い絨毯に集合していた。

一人ずつ名を呼ばれ、上座の壇上の玉座に座る国王と謁見する栄誉を賜れる。

その後、国王の両隣に立つ大臣から褒章の目録を受賞者は与えられる手順で式典は進む。


大ホール内には楽師たちの演奏が厳かに流される。

受賞者達は全員が騎士なので、式典用の正装騎士服姿で揃えられていた。

報奨は低い方から順番に呼ばれ、目録を受け取ると、大勢の参列者達から拍手が沸き起こる。




最後に報奨を受けるのはアルレースだった。



「此度汝の戦働き、誠に目を見張る活躍であった。

 我が王国軍を勝利に導いた第一等殊勲者アルレースには親と同等の伯爵位が授与される。

 更に報奨金に金貨一万枚、アリエット王女殿下付き女性親衛隊隊長に就任する」


「謹んでお受け致します」



会場内からは盛大な拍手が沸き起こり、アルレースを祝福した。



「アルレースは今暫く留まれよ、国王陛下よりお言葉が掛けられる」



アルレースは最拝礼の姿勢で国王陛下のお言葉を待つ。



「アルレース、此度の戦働き、実に見事であった。

 今回の褒章は十分働きに見合ったものを用意したのである。

 今後とも王国のため、国民の規範として汝は更なる精進で応えるであろう。

 その様な英雄アルレースは、アレクロウド王国の宝であると確信した。

 アレクロウド王国は汝の活躍に期待し賛辞を贈るものなり」


ディナダム国王は儀仗用の剣で、アルレースの肩を二回軽く叩く。


「これよりアルレースにはアレクロウド王国伯爵位を認定する。

 爵位に相応しく国家に、王家に忠誠を尽くす事を宣言せよ」


「私事アルレース・フォン・ドルフレッドは栄誉に見合う忠誠を尽くす義を宣言致します」


「今ここに集いし臣民にディナダムは国王として宣言する。

 アレクロウド王国に新たな伯爵、アルレース・フォン・ドルフレッド伯爵が誕生したのである」



会場内からは盛大な拍手が沸き起こり、更にアルレース伯爵を祝福した。





殊勲式典が終了すると、別ホールで立食形式パーティーの祝賀会が開かれる。

列席していた大臣や貴族達夫妻の顔繫ぎや挨拶が行われる事になる。

そのパーティーには、ディナダム国王夫妻とアリエット王女も参加をしている。



「アルレース、良かったですね。

 護衛騎士であった貴女の活躍を私は嬉しく思います。

 これからも側近として私に仕えてもらえれば幸せに感じますよ」


「アリエット王女殿下、ありがとうございます」


「アルレース、戦場では黄金の鎧兜姿で活躍をしたと聞いておるぞ。

 どの様な姿であったか、余も是非見たいと望んでいる。

 今この場で見せてはもらえぬだろうか?」



「ディナダム国王様、これで御座います」


「アルレースが戦場で身に着けていたと聞いたが、やけに小さいな」



いつの間にか周囲に貴族や騎士達が集まってアルレースを注視し始めている。



「本当にこれをアルレースは身に着けたのであるか?」


「左様で御座います、ディナダム国王様」


「この場で装着する事は可能であるか?」



ディナダム国王は不思議に思いながらも、アルレースに装着を促した。

途端にアリエット王女が割って入る。



「お兄様、レディーにこの場で着替えをさせるのはお止め下さい」


「アリエット王女殿下、大丈夫です」



アルレースは両手にミニチュアの鎧兜を頂き、鍛冶の神ヘパイストスに祈りを捧げ始めた。

やがて祈りが通じた鎧兜は大きさや形を変えながら、アルレースの体に纏わり付き始める。



「おお、鎧兜が!」

「まあ、薄っすらと光を発しておりますわ」

「あんなに小さな鎧兜だったのに、どうなっているのだ」

「何なんだ、あの鎧兜は」



一同が驚嘆しているにアルレースの体に黄金に輝く鎧兜は装着が終了した。



「ディナダム国王陛下、如何でしょう」


「むう、何とも神秘的な。

 見事である、実に見事、アルレース、その神秘の鎧兜、国の宝として譲ってもらえぬだろうか」


「申し上げ難いのですが、

 この鎧兜は鍛冶の神ヘパイストス様の手により、私専用の物となっております」



アルレースは鎧兜を元の姿に戻した。



「何と、神の造り給うた神器であったのか」

「神器故に武具が持ち主を選ぶか、故にアルレース専用の武具なのか」



ディナダム国王を始め、アリエット王女や大臣貴族達がアルレースの鎧兜を手に取ろうとした。

しかし不思議な事に、誰の手にも触れる事が出来なかった。



「むぅ、どういう訳だ、手に触れる事が出来ぬ」

「本当ですわ、実に不思議と申しますか」

「アルレース、国の宝には出来ぬのか」

「何とも惜しい事である」


「申し訳ありません、私専用の神器という事で諦めて頂くしか」


「アルレースはどの様にして神器を手に入れたのだ?」


「信じて頂けるかどうか判りませんが、お話しさせて頂きます。

 夢の中の話になりますが……」


「夢の話はいい、早く話せ」

「まだ話の途中ではありませんか、皆様、最後まで聞きましょう」

「う、うむ、そうだな、すまぬ」


「私は長い事、意識不明で臥せっておりました。

 その時に見ていた夢の中で、女神ヒルト様と共に旅をしていたのです」


「ヒルトだと! あの性悪の食わせ者と旅をしたと言うのか」

「アルレースはヒルトと関りがあったのか、そうであるなら同罪であるぞ」



ヒルトの名が出た途端、周囲の空気が一気に険悪になった。

以前召喚された下民で女給の名がヒルトだった筈。

戦勝パレードの最中に失踪し、その事件で国が乱れ、国王が交代する事態にまでなった。

ヒルトはアレクロウド王国の災厄として忌避される事になった元凶だ。

誰もが不快感をあらわにする。


そんな時、国王側近の文官、クラレッグ大臣から助け船が出た。



「まあまあ、皆様、落ち着き下され。

 我が国の英雄アルレースは、夢の話をしているだけでは御座いませんか。

 一々夢の話如きで糾弾されていては、国内から人はいなくなりますぞ?

 それよりも此度の英雄であるアルレースを、大事にする事の方が国益に叶っていると思いますが?

 夢の話如きで断罪され、英雄を失う方が大きな損失でありましょうぞ」


「う、ま、まぁ、その通りですな」

「つい感情的になった、許されよ」

「私は先のお話を聞きとう御座いますわ」

「確かにアルレースは戦後、意識不明で臥せっておった」

「そうであるな、そんな状態で何時接する事が出来たというのじゃ」


「ありがとう存じますクラレッグ様。

 それでもヒルト様は本当に女神様であられたのです。

 アース神族の一柱で、旅の途中でアレクロウド王国に召喚されてしまったのです。


 私は何時の間にか、妖精フェアリーでありました。

 旅の途中でヒルト様はドワーフの名工、ヴィンダーヴル氏に私へ鎧兜をあつらえて下さいました。

 その後は妖精女王様と謁見し、妖精鎧を賜り、飛び方を教えて頂いたのです。

 オリンポス神界に旅をした時に、鍛冶の神ヘパイストス様より鎧兜をあつらえて頂けました」


「それが鎧兜を入手した経緯だと言うのだな?」

「夢の話で何とも掴み所がありませぬな」

「どの様に聞いても、現実の事とは思えぬ話です」

「しかし現実的に神器である黄金の鎧兜が存在するではないか」

「その神器の入手はどの様に考えたら良いものか」


「私が長い眠りから目覚める頃、ヒルト様が届けて下さったと伺いました」


「あのヒルトがまたやって来たのか」

「夢としては筋が通っている気はしますが、ヒルトは何処からそれを手に入れたのでしょうね」

「ヒルトは今どこに逃げているのであろう」


「女神ヒルト様は、別の神界の女神様方と引き続き旅をしておでです」


「もう夢の話は結構だ」



様々な事象が不明瞭で不可解ではあるが、それ以上誰にも詮索が出来なかった。

事は全て有耶無耶にされ、祝賀会は終了した。


翌日行われた凱旋パレードは、街門から城門まで軍勢の行進が行われた。

住人達から声援と共に花びらが散らされ撒かれ、この日は賑やかに華やいだ。

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