第52話「アレクロウド王国のアルレース⑥ 殊勲式典会議」

討伐軍がアレクロウド王国王都に凱旋した。

暫くは戦後処理の関係上、皆に休暇が与えられた。

休暇中に怪我人達には治療が施され、心身共に回復するため休養を取らされる。

報奨式典会議で様々な事案が決定した後、王都で凱旋パレードが催される事が決まっている。


女性騎士宿舎では、アルレース小隊の話題で持ちきりだった。

今回新たな英雄達が誕生したのだから無理もない。

その英雄こそ、隊長のアルレース、エルネット、フロラリー、デライネス、アンジットの五人。

女性騎士の皆は『狂戦士バーサーカー小隊』または『鬼姫騎士小隊』の偉業に賞賛を贈る。



「貴女達は本当に凄いですわね」

「私は貴女達の同期だというのに、どこで差が付いてしまったのでしょう」

「私なんか戦場で恐ろしくて動けませんでしたもの」

「私は怯えてばかりで、男性騎士に助けて頂きましたよ」


「私達が栄誉を受けられるのは、全て隊長のお陰ですわ」


「貴女達の隊長といえば、『命知らずのアルレース』でしたわね」

「私、あの方の訓練を見た事が有りましてよ」

「私も見ました、凄まじい訓練で有名な方ですよ」

「貴女方はよくアルレースに付いて行けましたね」

「貴女達も大した怪我も無く、無事というのも凄い事ですわよ」

「そうですよ、しかも誰一人戦死なんかしていませんもの」

「それにしては変な二つ名ですわね」



四人はアルレースほどの特訓をした事が無い。

それでもアルレースの指示の元、戦場で怯える事無く戦って来れた。

今にして考えれば、どうして勝てたのか解らない。

だから、それだけアルレース隊長が凄いのだと思うしかなかった。



「それで、肝心のアルレースは何処にいるのかしら」

「アルレースなら練兵場で、男性騎士達と猛訓練しているらしいですわ」

「貴女達は訓練に参加をしないのですか? 隊長はしてるのでしょう?」


「隊長は私達に休めと言うものですから」


「まあ、付いて行けなくて当然ですわね」

「私だって戦争から帰って、すぐの訓練なんて嫌ですわ」

「一体何でしょうね、あの超人アルレースは」



集まっている一同はウンウンとうなづくばかりだった。

女性騎士宿舎全員が集まり賑やかな会話はいつまでも続いていく。



---------------




王城会議室では報奨会議が行われている。

文官は集まった報告書を元に、誰がどんな戦働きをしたか記録している。

その功績の大小と与える報奨をどうするかの会議である。


上座に座るディナダム国王は、テーブルに並ぶ大臣達の議論を聞いていた。

最終提案の是非を決めるのは、国王の仕事になる。



「今回の最高殊勲者はアルレースしか居りますまい」

「女性騎士でありながら、敵軍の首級を全て上げたと聞きましたぞ」

「本来なら陞爵しょうしゃくに相応しいと存じます」

「しかし親御さんのドルフレッド伯爵には目立った活躍は聞きませぬ」

「親の爵位関係無しに、功績だけで爵位を与える訳には行きませんかな」

「それと女性騎士団の団長に就任させては」

「それは悪くない方針ですね」


「アルレースが昇進してしまったら、私の護衛騎士の立場はどうなるのでしょう?」



アリエット王女は心配そうに質問をした。



「昇進したなら、それに相応しい地位と職責に就かせませんと」


「私は今後ともアルレースに護衛をして頂きたいのですが」


「確かに王女殿下の護衛にアルレースほど相応しい者はおりますまい」

「僭越ですが、王女殿下は第三王女であられる」

「これほどの功労者なれば、もっと上位の方にお付けするべきかと」


「私は嫌です。アルレースが良いのです。私からアルレースを奪わないで下さいませ」



アリエット王女の言葉に一同は困惑した。

会議の結果、アルレースには親と同等の伯爵位が授与され、報奨金に金貨一万枚、

アリエット王女殿下付き女性親衛隊長に就任する事でまとまった。

男性親衛隊もあるのだが、そちらは男性王族付きとなる。


アルレースは女性親衛隊長として、日頃はアリエット王女専用護衛として付き従う事に決定した。

女性親衛隊長としては、女性騎士親衛隊の指導も任される。



会議は引き続き、順次報奨者選定と褒美の採択を進める事になる。


エルネットとフロラリー、デライネスとアンジットは親衛隊に配置が決まった。

王女護衛騎士はアルレースを含め、三交代でローテーションを組む事になる。

現護衛騎士オルギーナは王妃付きに再配置され、残り二人はアルレースの部下の二人から選ばれる。





会議も一通り終えた時、ディナダム国王はアルレースの黄金の鎧兜の件を思い出した。

側にいた文官のシルヴィス大臣に聞いてみる事にする。



「アルレースの持つ黄金の鎧兜とは、如何なる物であったのであろうな。

 おそらく戦場では、かなり目立っていたのではないか?」


「は、何でも彼女の私物との事でした。

 今では『黄金騎士アルレース』と二つ名が囁かれるそうで」


「ドルフレッド伯爵家にそのような物があるとは聞いた事が無いのだが。

 まあ、それはいい、正式に『黄金騎士』の称号を贈るのも悪くないと思える」


「一女性騎士には過分と存じますが、一度拝見したいものでございます」



貴族社会では渾名あだながいつの間にか称号と同じような扱いになる事が有る。

国王より与えられるなら名誉な事だが、世間の渾名あだななら過分でも不平を言う騎士はいないだろう。


王国には現在騎士団のいくつかに色の名を名乗る騎士団がある。

その中に黄金は今の所存在しない。

女性騎士親衛隊に黄金騎士団を名乗らせたら、他の騎士団から文句が出るに違いない。

それなら敢えてそんな称号を贈らない方が良さそうだ。



「そうよな。

 報奨式典の際、持参するよう通達しておいてくれ」


「畏まりました」

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