第51話「アレクロウド王国のアルレース⑤ 戦勝」

翌日、歩兵戦列を整えている場で、場違いな騎士が目立った。

アルレース小隊の中に、黄金の鎧兜に身を包んだアルレースが、馬上で誇らしげに待機している姿がある。



「誰だあの黄金騎士は」


「部隊旗を見ろ、アルレース小隊じゃねぇか」


「どこからあんな鎧兜を」


「まるで全軍指揮官のように見えるじゃないか」


「姫騎士装備にゃ何だか、もったいねぇな」



上官が何を言おうにも手遅れだった。

アルレース小隊は既に隊列で待機状態だ。

合戦開始まで時間はもう無い。




戦場に合戦の合図が鳴り響いた。

戦場内で目立つアルレースに、敵軍の攻撃は集中する。

昨日の比ではない攻撃だったが、黄金の鎧兜には傷一つ付けられる事が無かった。

柄の伸びた剣は、敵兵を布切れの様に切り裂き、蹴散らし続けた。


アルレースに続く部下達は笑い声をあげながら戦い続け、どんどん精神状態がハイになって行く。

自分が何をやっているのか判らないが、迫り来る敵軍を薙ぎ倒す事に集中した。

敵軍から受ける痛みも恐怖も、ハイな精神状態で判らなくなっている。



キャハハハハハハハ    ギャハハハハハハハハハ

    ヒャッハハハハハハハハハハハハ   アハハハハハハハハハハ

   キャハハハハハハハ   ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ



敵軍を蹂躙する黄金騎士に続く部下達の笑い声は、戦場に広がって行く。

まるでラウゴット辺境伯軍など、相手にならぬと笑っている様だ。

戦場で獅子奮迅、鬼人のような働きを見せるアルレース小隊。


敵軍には次第に恐怖が広がり始め、戦意がどんどん下がって行く。

アルレース部隊の突き進む先、敵の陣形は瞬く間に瓦解していった。

彼女達の耳障りな笑い声が、まるで死神の愉悦の笑いにも聞こえて来る。



狂戦士バーサーカーだー、王国軍には狂戦士バーサーカーがいるぞー」


「もう嫌だ、あの笑い声を聞きたくない―――――」


「もうだめだ、我等じゃ、あの黄金騎士に勝てないー」


「誰か、誰かあの黄金騎士から助けてくれ――――――――」


「ラウゴット辺境伯様が反乱なんか起こすから悪いんだ―――――」



敵陣を斬り崩しながら、アルレース小隊は敵軍本陣に迫って行く。

中盤までは戦闘が続いていたが、今は人波が割れて本陣までの一本道が出来ている。


敵軍首脳も迫り来る黄金騎士に恐れをなし、命令系統は機能を失っていた。

アルレース小隊の進軍速度が思ったより早い。

混乱を極める本陣の中で、敵将達は逃げ道を見失っていた。



「何だあれは」


「あんな騎士が王国軍にいたのか」


「兵士ども、何をしている、騎士達はあいつを倒せ! 捕らえろ!」


「兵士ども、まだ退却命令は出していないぞ!」


「あいつを止めろ! 止めた者には報奨金をはずむ!」



敵軍の発破も虚しく、戦意をへし折られた兵士達は逃げ惑う。

そんな敵軍本陣にアルレース小隊は突入した。

呆然とする敵軍首脳部の面々を小隊の五人は、笑いながら片っ端から斬り伏せて行く。

戦いが終わるまで、もうそれほど時は残っていない。



「敵軍の首級、取ったぞ―――――」



やがて戦場アルレースの大声が響く。

ラウゴット辺境伯軍敗北の決定だった。



「王国軍は敗残兵掃討にかかれ―――――」



今日、この日アレクロウド王国軍は勝利を収め、勝敗を決した。

王国軍勝利の一報は伝令の早馬で国王の元に届けられた。



「アルレース隊長、私達が勝ちました」

「本当に私達の誰一人欠ける事無く、夢のような偉業です」

「アルレース隊長、凄過ぎます」

「私達の上司がアルレース隊長で本当に良かった」



この日、アルレースに二つ名が増えた。

『黄金騎士アルレース』

『鬼人アルレース』


そして小隊にも別名が付けられた。

狂戦士バーサーカー小隊』

『鬼姫騎士小隊』



作戦首脳部に出頭したアルレース達は今回の殊勲を歓迎された。

一体どこから黄金鎧を持って来たのか謎だが、戦勝の第一功労者である。



「ご苦労だった、アルレース」


「実に素晴らしい戦いっぷりであった」


其方そなたの戦働きで我が軍は勝利を収めた」


「その黄金の鎧は何処から持って来たのじゃ?」



「僭越ながら、私の私物でございます」



「後に国王様より表彰がある。

 その時まで休むが良いアルレース」


「ありがとう存じます」



やがて掃討戦の終わった王国軍は、帰還の準備に入ったのだった。

アルレースは黄金鎧を元に戻し、壊れた鎧兜で騎乗し、帰りの行軍に紛れて行く。






一方、城内では



「まあ、アルレースが王国に勝利をもたらせてくれたのですね」



戦勝の一報を聞いたアリエット王女は歓喜した。

何よりアルレースの活躍に心が躍る思いだ。



「私の護衛騎士が勝って帰って来てくれるのです。

 ああ、どの様にお祝いをして差し上げたら良いのか」


「そうですね。

 アルレースは無謀な命知らずではなかったのです。

 私も同じ女性騎士として鼻が高いです」


「アルレースがここに帰って来るのが、本当に待ち遠しいですわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る