第50話「アレクロウド王国のアルレース④ アルレース小隊」
やがてラウゴット辺境伯の反乱は表面化した。
領境線は小競り合いから本格的戦闘へと拡大する一方だ。
ディナダム国王はラウゴット辺境伯を謀反人と断定し、討伐軍が送り出される事になった。
行軍中、アルレース小隊が皆不敵に笑っている
「おい、何だかアルレース小隊が変だぞ」
「まだ戦場未経験の小娘揃いの小隊だったよな」
「何だか戦争に行くのが嬉しそうだな」
「何たって隊長があの『命知らずのアルレース』だぞ」
「あの姫騎士達がどんな活躍をしてくれるのやら」
「所詮は戦場未経験の姫騎士小隊だ、当てにするな」
やがて討伐軍は最前線に到着した。
作戦会議の後、休憩の後に戦闘が開始される事になる。
アルレース小隊は左翼の中衛を護る事になった。
乱戦になって陣形が崩れた時に、中衛が攻防の要になるポジションだ。
騎士は皆騎乗して戦いに臨む事になる。
当然女性騎士であるアルレース小隊も騎乗し、機動力を駆使して戦場を駆け回る役目だ。
騎乗戦では長物の武器が有利になる。
武器を失ったり落馬した時には、腰に佩く剣で応戦しなければならない。
アルレース小隊の皆も、槍やハルバートを装備している。
時には分銅の付いた縄を投げて、敵の動きを封じ、味方を援護する。
やがて合戦の合図が鳴り響き、本格的な戦闘が始まった。
「皆さん、良いですか、常に笑顔を忘れないで。
馬から引き落とされないように気を付けるのです」
「「「「はいっ」」」」
「では攪乱に走ります。私に続け――――――――――――」
「「「「おうっっっ、ギャハハハハ―――――――」」」」
先頭を走るアルレースの闘いっぷりは凄まじいの一言だった。
並みいる敵軍を蹴散らし、左右に奮うハルバートは敵軍を叩き付け、刺し、穂先の斧で叩き切る。
斧は敵軍を引っ掛け馬から引き摺り落とし、一撃を入れる。
続くエルネットは小隊旗を掲げ、更に続く隊員達も笑いながら槍で奮闘する。
アルレース小隊は戦場で笑い声を上げながら、敵軍を蹴散らし駆け回る。
先頭を走るアルレースの防具の損耗が一番激しかった。
一番手は後ろに続く者達の盾も兼ねている。
正面からは矢が飛来し、魔法弾も多く被弾する。
アルレース小隊で一番怪我を負っているのがアルレース隊長だ。
戦闘中に外れた防具に敵の刃が切りつける。
しかしアルレースは一向に怯む様子は無く戦場で蛮勇を奮う。
合戦が始まり二時間ほどだろうか、退却の合図が戦場に鳴り響いた。
本日の戦闘は終了した。
陣地のテントの中でアルレース小隊は休んでいた。
怪我を負った者は、手持ちの傷薬で応急処置をする。
幸い戦闘不能なほど傷を受けた者はいない様だ。
「アルレース隊長、手拭いです。血を
「ああ、すまぬ」
「それにしてもアルレース隊長が一番ひどく怪我を負っていますね」
「ふ、これしき怪我の内には入りません。
それより皆さんの方は大丈夫ですか?」
隊長であるアルレースが瘦せ我慢をするから、部下は泣き言を言うに言えない。
アルレースの内心では、例え腕が切り落とされても治せる秘薬が有るのだ。
「大丈夫です」
「それにしてもアルレース隊長は凄いです」
「私達は隊長の部隊で良かったと思っています」
「さすが『命知らずのアルレース』でしたね」
「その意気や良し!
明日は首級を取りに行きますよ」
テントの中では皆、防具や武器の手入れを始める。
支給された鎧兜は
穴こそ開いていないが、凹みや刀傷が無数に付いている。
「もう、この鎧兜じゃ心許無いですね」
「私がアルレース隊長に鎧兜の予備をもらって来ます」
「頼みます」
フロラリーはテントを出て行った。
しかし予備を受け取る事が出来ずに戻って来る。
「すみません、小隊で初回参戦の私達には渡せないと断られました」
「そうですか」
王国軍は彼女達を消耗品程度にしか考えていなかったのだろう。
少なくともアルレースは第三王女付きの護衛騎士なのに。
「私達に戦死しろとでも言うのでしょうか」
「悔しいですわ」
「皆さん、そんなに気落ちしなくても大丈夫ですよ」
私一人が戦死するのは構わない。
しかし命を預かる部下のため、王女殿下の厳命もある。
今回の戦争で、まだまだ死ぬ事は許されない。
アルレースは取って置きを使う事にした。
箱の中に入っているミニチュアだが、身に着ける事は出来るはず。
鍛冶の神ヘパイストスが造りし神器、オリハルコンの鎧兜と剣がある。
箱の中から取り出し、着られるように祈りを捧げる。
「アルレース隊長、それは何ですか?」
「金色で綺麗です」
「小さな鎧兜ですね」
「なんだか光を発しているように見えますが」
願いの通じた神器は大きさや形を変え、アルレースを包み込んで行く。
「どうでしょう?」
「アルレース隊長、そのお姿はまるで黄金騎士です」
「何と神秘的な」
「どうして、そのような物をお持ちだったのです?」
「頼もしいですアルレース隊長!」
アルレースの黄金騎士姿は、部下の四人に得も言われぬ安心感を与えた。
明日の戦いでも私達は絶対に死ぬ事は無い。
黄金騎士アルレース隊長に付いて行けば、絶対に勝利を得る事が出来る。
何と言ってもアルレース隊長は、最強の女性騎士なのだ。
アルレース隊長の部下である自分達も、無敵の騎士になれる気がする。
アルレース小隊は奇妙な安心感と共に一夜を明かした。
そして翌朝、再び戦闘が始まった。
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