第48話「アレクロウド王国のアルレース②」
「復帰したアルレースは凄いな」
「遅れを取り戻そうと言うには、鬼気迫り過ぎだと思うのですが」
「準騎士団の頃は、あんな人間ではなかったと記憶していますが」
「一体何が彼女を変えたのであろうな」
「まさかとは思うが、あの失踪した偽聖女が関わているとか?」
「それは無いだろう、戦後アルレースはずっと臥せっていたらしいからな」
騎士団の中で復帰したアルレースの事が、話題に上がるようになり始めた。
以前のアルレースは正騎士になる前の準騎士団の中で、突出した物が何も無い存在だった。
そんな彼女だったが復帰した途端、以前とは別人のように訓練に励みだした。
剣での訓練では、あたかも命など要らんと言わんばかりの勇猛さを発揮する。
どんな怪我をしようが、お構い無しに訓練に参加してくる始末。
同僚の女性騎士達の誰もが、アルレースと組みたくないと願った。
そんなアルレースは騎士団の中から頭角を現し始める。
それだけでは足りぬとばかりに、魔術師団から魔法を教わろうと必死なのだ。
今ではいくつかも魔法を使えるまでになって来ている。
そんな何処か危なげなアルレースを心配しない騎士はいない。
「あれは己の命すら要らんと言っているような戦い方だな、絶対にいつか命を落とす」
「今では『命知らずのアルレース』という二つ名が付いているそうだ」
騎士団長は宿舎でアルレースを呼び出し、心情を聞きたいと考えた。
「何故アルレースはそんなに変わってしまったのだ?」
「騎士団長殿、それは主君を護るためであります。
たとえ鬼神を相手にしてもです」
「その心掛けは誠に良い。
しかしだ、そんな訓練法をしていると命が無いぞ」
「ふ、それこそ私の望むところです」
何がアルレースをそんなに駆り立てるのか、誰にも理解は出来なかった。
騎士団仲間の心配も他所に、アルレースは更に過酷かつ苛烈極まりない訓練に励む。
女神
ヒルトが女神
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そして遂に第三王女アリエットの護衛騎士に抜擢される事になった。
何か無謀なアルレースではあるが、騎士団の中でも実力は随一と認められている。
それほど優秀な騎士であれば、王族の護衛に望まれるのも無理はない。
「貴女が『命知らずのアルレース』ですか」
「は、恐れ入ります」
14歳になったばかりのアリエット王女殿下は、アルレースの風貌を見て戦慄した。
見るからに痛々しいほど、全身が剣による傷だらけなのだ。
鬼気迫る目力は敵を射殺さんばかりの眼光が光る。
見ただけで判る。
おそらくアルレースは余程強い女性騎士なのだろう。
多分、アルレース以上に強い女性騎士はいないと言っても過言じゃない。
そんな屈強な女性騎士アルレースを、アリエット王女殿下も最初恐いと感じていた。
しかし会話を続けて行く内に、勇猛なだけの騎士ではない事も判って来た。
真面目で誠実、その上意外と物知りだった。
私室でアリエット王女殿下はアルレースに語り掛ける。
「アルレースは誰に仕えたくて、そんなに強くなったのです?」
王族に仕える騎士は強いのが第一条件ではない。
強いに越した事は無い、しかし心から信頼を寄せられる護衛が求められる。
「アリエット王女殿下、それを今言う事は出来ません。
二君に仕えるなど騎士にあるまじき
「アルレースは私に仕える騎士ではないのですか?」
アリエット王女殿下からの問いかけに、アルレースは口を閉ざすだけだった。
仮に不敬罪とされて打ち首になっても、アルレースには構わないと思っている。
人としての人生が終わった後、ヒルト様の
「アルレースは一体誰に仕えたいのでしょうね。
せめて私もアルレースから、仕えたい主君と思ってもらいたいと願います。
ですからアルレースの想い人の事は、これ以上詮索は致しません。
アルレース以外で私の護衛をお願いしたい騎士はいませんもの」
「ありがたき幸せにございます」
「私はアルレースの夢のお話が大好きです。
また聞かせて下さいね」
「仰せのままに」
王女殿下の護衛騎士と言っても、二十四時間付きっ切りという訳にもいかない。
普段はアルレースともう一人女性騎士が、交代で護衛をする事になっている。
もう一人の女性騎士の名はオルギーナ。
アルレースの先輩格にあたる人物だ。
やがて時報を知らせる鐘が鳴り響き、アルレースはオルギーナと引継ぎ報告を終え退室していく。
おそらく、この後彼女は猛訓練に明け暮れるのだろう。
「オルギーナ、アルレースはどうしてあんなに傷だらけなのでしょう」
「何とも必死の雰囲気が絶えませんね」
「アルレースは引継ぎの後、休んでいるのでしょうか」
「それは無いかと存じます」
「私はアルレースにも休んで欲しいと願っています。
どうすれば彼女に心休まる安寧を与えられるのか」
「アリエット王女殿下はお優しいのですね」
「私はもっとアルレースの主君らしくありたいと思ったのです」
「アルレースは十分騎士として勤めていると思いますが」
「それはそうですが、私には彼女の心が解らないのです。
解りたくても心に壁があるように感じています。
騎士として職務に忠実でも、人として心が繋がっていないのではないでしょうか」
「それは重要な事なのでしょうか。
騎士は騎士としての本分を全うしていれば宜しいかと」
「私は多くを望み過ぎているのでしょうか」
「いえ、アリエット王女殿下は、お優しい方と存じております」
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