第47話「アレクロウド王国のアルレース①」

私はベッドで目が覚めた。


私の異変に気が付いた部屋付きメイドは、大騒ぎで両親の元に走って行く。


部屋の中の景色は記憶通りの部屋だった。


今まで尺度が違い過ぎていた世界に慣れたせいか変な感じを受ける。

でも、これが私の元々の世界だったはずだ。



「アルレース! アルレース!」



メイドから連絡を受けた父様と母様、リストリック兄様とニコラルフ兄様が部屋に走って来ました。



「アルレース! やっと、やっと目覚めたのだな」


「良かった、このまま目覚めずに死んでしまったらと心配でした」


「アルレース、体に異常は無いか? 大丈夫か?」


「一体何があったんだアルレース」



家族の皆は私の目覚めを歓喜しています。

一体どのくらい眠りについていたのでしょう。

皆がこれほど心配しているのだから、二日や三日ではないだろうと想像出来ます。



「私は長い夢を見ていたようです」



起き上がり、ベッドから羽ばたいて出ようとして失敗しました。

立ち上がり、そのまま倒れてしまいました。

夢の中の私は妖精フェアリーでしたが、今はただの人間なんですね。



「アルレース、どうした、大丈夫じゃないのか?」


「お父様、大丈夫です。寝惚けただけですわ」



やがて主治医が呼ばれ、診察を受けた後、しばらく安静にしているよう言われました。

私は三ヶ月くらい眠りに落ちていたと聞かされました。

そんなに長く寝ていれば、筋力も落ちたに違いありません。



「お前に渡す物がある」


「私に?」



お父様は箱を持ってきました。


何でもヒルト様が「もうじきアルレースは目覚めます。その時に渡して下さい」と置いて行ったそうです。

何が入っているのか知らないが、私を害を加えるような関りは無いと判断され、保管していたとか。



「あの食わせ者の女給めが」



お父様は酷く気分を害しています。

お城での戦勝祝いの最中、突如姿を消したヒルト様。

そのために大変な騒ぎになったと言います。

国王様は退陣にまで追い込まれ、第一王子が国王に就任する事になったほどだと。


お父様、ヒルト様の事を悪く言わないで下さい。

夢の中のヒルト様は気さくで良い女神様だったのです。

私の想いを汚されているようで悲しくなります。




私は箱の中を見て唖然とします。


箱の中の物は全部夢の中で私に下賜された物ばかりでした。

ヒルト様と旅をした様々な思い出が、夢と現実が、グルンと入れ替わるような奇妙な感覚に襲われます。



「では、では、今までの夢は全て本当の事だった⁈」


「夢? アルレースは今までどんな夢を見てたんだね?」



そう、確かに私は長い事眠りについていた。

私の体は確かにこのベッドに寝かされ続けていたのです。

今までの夢と見紛う経験に現実味は無いけど、何か夢とは違う気がします。

普通の夢と何が違うか説明は出来ないのですが、



「夢の中のヒルト様は本当に女神様で、旅をしておられました。

 私は供回りを務めたくても、体が小さくて出来なかったのです」



不思議な事に、夢の隅々まで記憶に残っています。

まるであの旅は夢ではないと主張するように。


そして夢ではなかった証拠品まで目の前に有るのです。


ドワーフの制作した鎧兜。

妖精女王様から頂戴した妖精鎧兜。

鍛冶の神が制作した鎧兜。

オリンポス神界で頂いた神酒ネクタルとアムブロシア。


これらの物は人に広めて良い物ではありませんね。

今この世界に在って良い物ではない事が理解出来ます。



「お父様、文官を呼んで下さいませ」


「何を思い付いたのだ?」


「私は夢での事を思い出して記録に残そうと思いました」


「そうか、まだ暫くは安静が必要だから、夢日記を口述筆記するのも良いだろう」



お父様は私が語ろうとしている事を単なる夢日記だと思っているようですね。

私は異世界や神界での出来事を残そうと思っているのです。

私の記憶が薄れない内に。


そして寿命で人生を終えて、ヒルト様のエインヘリヤル神のための戦士になるのです。

この決意を薄れさせないためにも、今までの経験と記憶を文章として残したいのです。




やがてお父様が呼んだ文官がやって来ました。

エミリーヌという女性の文官で、我が家に仕える者の一人。


エミリーヌがベッドの横で椅子に座り、私の話を筆記していきます。

別人ですが、彼女が横にいるだけでヒルト様を感じてしまいますね。



「アルレース様、中々面白いお話です」


「全部本当の事だと言ったら、どのように思います?」


「アルレース様のお話は誰にも再現は出来ません。

 夢の中の世界なら不思議ではないのでしょうけど、無理ですね」


「エミリーヌもその様に思うのですね」


「それは仕方ありません。アルレース様の夢のお話ですから」




数日間続いたエミリーヌとの口述筆記の日々は終わりを告げた。

その後は元の体調に戻るまで、体を動かす訓練が続くのだった。


私はアレクロウド王国の女性騎士なのだ。

早く騎士団に復帰してお役目を頂かなくては。

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