第46話「神界会議」

神殿内の会議室でオリンポス神界の神々とデーヴァ神界の三女神、そして私とアルレースの話し合いが始まった。


オリンポス神界の神々は代表的12神。

ゼウス・ゼウスの妻ヘラ・ゼウスの娘アテナ・アポロン・アプロディーテ・

アルテミス・デメテル・ヘパイストス・ヘルメス・ポセイドン・ヘスティア

そして当事者のアレス


対するはデーヴァ神界の三女神。

チャンディードゥルガーウマーパールバティシュリーラクシュミー

そしてアース神族の私ヒルトとアレクロウド王国所属騎士アルレース。



お世話になったヘパイストス様はともかくとして、アテナとアルテミスは味方だろう。

そうだよね? きっと。



「ふーー、女神というのはもっと可愛らしい者だと思っておったが……」



最高神ゼウスは実に嫌そうな顔で三女神を眺めている。


確かにチャンディードゥルガーウマーパールバティシュリーラクシュミーは可愛い女神とは言い難い。

可愛いのが成長して美さんではある。



「私が可愛くなるのは相手次第ですわ」



シュリーラクシュミーは冷めた目でゼウスを睥睨している。



「まぁ、それはともかくだ、今回の三女神達は騒動を何故起こしたのだ」


「父上様、その原因を私は知っています」



アテナとアルテミスが私の擁護を始めた。


アレスが楽しんでいたゲームにヒルトが乱入した事が発端だ。

アレス側に敵対した国に、変な召喚術に引っ掛かって力を貸さなくてはならなくなった事。

敵対の軍勢に襲われるなら抵抗の一つも止むを得なかった事。

それがアレスのゲームに乱入になってしまった事。

ヒルトからは悪意でアレスに介入した訳ではなかった事。

ゲームで敗退した腹癒せにアレスは仕返しを考えた事。

ヒルトの近くにいて尊敬の念を抱いていたアルレースを、ヒルトのお荷物にして困らせる事が目的だった事。

以前捕獲していた妖精フェアリーの体にアルレースの意識を封じ込めた事。


それら一連の事情をアルテミスはゼウスに伝えた。


アテナとアルテミスは、難詰したがアレスは聞き入れず逆切れされた事を付け加える。


デーヴァ神族の三女神もアテナの言葉に続く。



「私達はそのような目に合っているアルレースに同情して怒っているのです」



「ふーむ、話を聞く限りじゃアレスが事の元凶のようだな」


「父上!」


「さすがに儂でも擁護は難しい」



アレスを見たゼウスは目を閉じ、首を横に振る。


私は希望をアレスに伝える。



「アレス、アルレースを元に戻しなさいよ」


「それは……やぶさかではないが」



チャンディードゥルガーシュリーラクシュミーが反論する。


「何ですか、その言草いいぐさは、まだお仕置きが足りませんか?」


「あんたの仕返しにアルレースは関係無いでしょう」


「だってよぅ、その女はヒルトの従者になりたがってたんだぜ。

 俺はその願いを叶えてやっただけじゃねぇかよ」



アレクロウド王国でアルレースの体は魂が抜けたように眠りについているらしい。

アルレースの家族や近習達、使用人達もどうなってしまうか気が気じゃないだろう。

騎士に取り立てた王国の人達も心配しているんじゃなかろうか。



「アルレースはどうなの?」


「私は何時までもヒルト様にお仕えしていたいです」


「アルレース、それは駄目でしょう。

 アレクロウド王国でご家族がひどく心配してると思うの。

 だからアレスには絶対に元に戻してもらわなきゃ」


「そんなぁ、ヒルト様ぁ」



旅の途中で見たアルレースの忠義心はエインヘリヤル神のための戦士に相応しいと思う。

でもそれは今じゃ駄目だと思う。

味方してくれた方々の尽力も無駄になってしまう。



「じゃあ、こうしましょう。

 アルレースはひとまず元に戻って、人としての人生をまっとうしなさい。

 寿命を迎えた時、私に対する忠義心がまだあるなら、改めて私のエインヘリヤルとして迎えます」


「ヒルト様のエインヘリヤルですか。

 でも人生を全うした後なんて先が長過ぎます」


「アルレース、人の寿命はどれくらいかな?

 今現在のアルレースは何歳なの?」


「私は17歳で、人の寿命は病気や戦いが無ければ60から80位でしょうか」


「残りほぼ40年から60年位は長いかな?

 私達神族はどれくらい生きてると思ってる?」


「ヒルト様がワルキューレ戦乙女をしているのが千数百年と」


「気が付いた?

 私達にとって40~60年なんて大した時間じゃないの。

 だからアルレースが寿命を迎えるまで待つなんて、どうって事無いんだから」



アルレースは俯いて黙ってしまった。


でも、それなりのケジメは着けなければならない筈。

アレスにはアルレースを元に戻してもらう。

それで今回の騒動は決着にしてもらう。


私はアルレースのご家族に鎧兜を届け、本人に渡してもらう事にする。



「ヒルトさんはその後どうするのです?」


「私は旅行を続けようかなと。

 最終的には豊葦原瑞穂の国に行ってみたいし」


「豊葦原瑞穂の国ですか」


「なら私が案内してあげましょうか?」



チャンディードゥルガーが突拍子もない事を言う。



「私達デーヴァ神族の者達って、豊葦原瑞穂の国に半帰化してるし」


「ええええぇぇぇぇぇ???」


「ちゃんと日本名だってありますからね」



豊葦原瑞穂の国、人間界名『日本』。

インドの神々は日本に移住してしまった者もいるらしい。

移住した神々はインドでは、忘れ去られた神になっているとか。

日本では神殿に住んでいる訳じゃなく、お寺に住居を構えているそうだ。


神社仏閣参りという楽しみ方も出来るかも。



「よろしければ御一緒お願いします」


「良いですよ、一緒に参りましょう、私にはフランクな接し方で良いでよ」



「では、方針も決まったようだから会議は終わる。

 息子のアレスには後始末をさせるでな、それで許してくれまいか?」



一応結論は出て神界会議は終了した。


ゼウスは始終渋い顔をしていた。

これ以上事を荒立てて神界同士の戦争なんて大事にはしたくない。

ゼウスのその判断は本当に英断だった。


戦争するつもりになっても、戦争にすらならなかっただろう。

たった一柱ひとりで一つの神族を殲滅した女神がいるのだから。

アスラ神族のように殲滅・蹂躙されるより、丸く収まった方が余程良い。

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