第43話「シャラド・ナヴラートリ」

「何か、盛大なお祭りが始まるみたいだね」



街中はシャラド・ナヴラートリの準備で慌ただしい。

何でも九日間続くらしい。

街中の彼方此方あちこちに簡易神殿として大きなテントが張られている。

テントの中は女神の神像が安置されるらしい。



「どのような女神様のお祭りなんでしょう?」


「ドゥルガー女神らしいね」



どうせ観光に来たのだから、最後まで観て行っても良いかも。

そう思いながら遠目にテントの中を覗いてみた。



「この女神様も手の数がやたらと多いですね」


「そうだねぇ、ここの女神って何で手が多いのが沢山いるんだろ」



観光ガイドを開いてどんな女神様なのか調べてみた。

祀られている女神はドゥルガーという戦女神らしい。

敵のアスラ神族を一柱ひとりで殲滅したという。

神々はそれぞれの武器をドゥルガー女神に貸し与えた。

10種の武器を受け取るために、10の腕になったとか。



「何だか無茶苦茶な話ですね」


「う~ん、神界じゃそうとも言い切れないんだよね」


「そうなのですか」



アルレースと話していると、巫女らしき人物から声を掛けられた。



「シャラド・ナヴラートリ見物のお客様ですか?」


「え? あ、はい、観光客です」


「宜しければ女神様の像にお参りしていきませんか?」



巫女らしき女性はシャイラプトリと名乗った。

このお祭りは九日間続くけど、最後の四日間が重要になるのだという。

お祭りの間、民衆の踊りが絶える事が無かった。

凄いバイタリティだね。


私達はお参りの言葉をシャイラプトリから教わった。

毎日別のテントの女神像にお参りした方が良いらしい。


シャイラプトリからグレーのタスキを貰ってお祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



これで一回目のお参りは終了だ。



「このお参りは九日間続くのですね」


「私にとっては女神様に挨拶に来た程度の事になるのかな」



まぁ、違う世界の礼儀作法になるのかもしれない。






次の日、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はブラフマーチャリニ。

オレンジ色のタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



三日目、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はチャンドラガンダ。

ホワイトのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



四日目、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はクシュマンダ。

レッドのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



五日目、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はスカンドマタ。

ブルーのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



六日目、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

今日からドゥルガー・プージャー祭に入ったと聞いた。

そこで私達を案内した巫女の名はカティヤニ。

イエローのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



七日目、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はカラーラトリ。

グリーンのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



八日目、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はマハーガウリ。

ピーコックグリーンのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



九日目の最終日、私達は別のテントの女神像にお参りをした。

そこで私達を案内した巫女の名はシディダトリ。

パープルのタスキをもらい、お祈りの言葉を唱える。



「オーム カーティヤーヤナーニャイ ヴィッドゥマヘー カンニャークマーリャイ ディーマヒ タンノー ドゥルガー プラチョーダヤートゥ」



「ナモサッタナン・サンミャクサンモダクチナン・タニヤタ・オン・シャレイ・シュレイ・チュンディ・ソワカ」



私達のお祈りの言葉に答えるようにマントラを唱える巫女達が揃っていた。

私達を囲むように円陣を執っていると言って良い。


グレーの巫女衣装のシャイラプトリ

オレンジの巫女衣装のブラフマーチャリニ

白い巫女衣装のチャンドラガンダ

レッドの巫女衣装のクシュマンダ

ブルーの巫女衣装のスカンドマタ

イエローの巫女衣装のカティヤニ

グリーンの巫女衣装のカラーラトリ

ピーコックグリーンの巫女衣装のマハーガウリ

パープルの巫女衣装のシディダトリ



彼女達から預かった九色九本のタスキを返しつつ何事かと聞いてみる。


「え、と、巡礼満願のお祝いかな?」


「貴女方に教えたお祈りの言葉はマントラなのです」



彼女達は説明をくれた。

長いマントラを一心に唱えた時、瞑想状態に導かれていたという。


マントラの意味は『我らがカーティヤーヤニーを知り、カニヤークマーリーを瞑想出来る様にドゥルガーよ、我らを導き給え』という事らしい。


つまり私とアルレースは彼女達の導きで知らず知らずの内瞑想をしていた事になる。



「ああ、なるほど、これはそういうお祭りだったんですね」



一柱ひとりで納得していたら、九人の巫女さん達は否定する。


「いいえ、違います。

 デーヴァ神界にて、ご挨拶に回られた異神界から来られた貴女にドゥルガー様がご挨拶をお望みなのです」


「え? ドゥルガー女神様が? 私の事判ってた?」



気が付くと周りの様子がおかしい。

私達と巫女達以外の人々はいつの間にか色を失い、時間が止ったように静止状態になっていた。

私達以外の景色はモノクロ写真が背景になっているような景色。

多くの人々の織り成す雑踏の音声おんじょうも聞こえない。


もしかして女神のテリトリー内に取り込まれている?

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