第40話「エジプト観光」

カイロの街は首都らしく凄く賑やかだ。

新市街からナイル川沿いに南には、オールド・カイロがある。

そこはカイロで最も古い市街地で、コプト地区にはコプト博物館やギリシア正教会の修道院、ユダヤ教のシナゴーグなどがある。



「ここにもギリシャの痕跡があるんだね」


「ヒルト様、あそこに変わった方が居られますね」


「ムスリムの戒律で女性は人前で肌や顔を晒しちゃいけないらしいよ」


「こんなに暑いのにですか、大変ですね」



全身を布で覆った女性が多い。

ニカーブスタイルと言うらしい。

もしくは ヒジャーブ(スカーフ)を被る女性だ。


丸い物を乗せた建物がモスクで礼拝所なんだろう。

それだけでムスリムの街だと理解出来てしまう。


雑踏の中、白いニカーブスタイルの者がいた、



「何だろうね、頭から白いシーツのような布で覆ってるのは。

 まさか、とあるお化けの一族とか?」



旅行ガイドを捲れば、どうやら古代エジプト神の メジェド様のようだ。

メジェド様はとにかく目力(めじから)が強いらしい。

そればかりか目から強力なビームまで発して敵を殲滅するのだとか。



「それにしても古代エジプトには物凄く神様が沢山居られたのですね」



旅行ガイドを覗いたアルレースはビックリしている。

何せ神様名だけの列記でも、

ハトホル、ソプデト、ウプウアウト、ケプリ、ヌト、バステト、マアト、クヌム、ヘケト、セト、ミン、ホルス、テフヌト、ウアジェト、オシリス、ペトスコス、モンチュ、アヌビス、ムト、ネフェルトゥム、ネクベト、セラピス、プタハ、トート、セベク、イシス、アテン、ハピ、アメン、ハトメヒト、ゲブ、ベス、アペデマク、ネフティス、ラー、メジェド

等々ウジャウジャいる。

歴史を感じされる数だね。



私はメジェド様に挨拶をしてみた。



「メジェド様イネヂュヘル!」



旅行ガイドによれば、イネヂュヘルとは古代エジプト語で万歳の意味らしい。



「汝は誰ぞ? 我が視えるのであるか?」


「私はアース神族の者だから見えますよ。

 こちらのアルレースは人間ですが、今は妖精フェアリーだから見えるようですね」


「そうでったか、エジプトを満喫しておるか?」


「いえ、来たばかりなので」



私はメジェド様にエジプト神界がどうなっているのか聞いてみた。

最近日本で有名になって、多くの人に知見を得たせいかメジェド様は元気が良い。

しかし神界の方は雌伏状態で細々とした惨状らしい。


今はもうミイラを作っていないし、神々は殆ど仕事が無いという。

それでも人類遺産として残る限り存在が消える事は無いようだ。

いつの日にか古代エジプトの神々が復活する時も巡って来るのかな。


それでも一部じゃホルス神の目は紙幣に印刷され、世界中に広まっていたりする。

多分、世界を裏から操る秘密結社でも従えてる可能性はあるのかも。



「汝、それは言葉にしてはならぬ」


「あ、はい」



やっぱり自由な石工組合の黒幕なのかな。

神々が大人しくしているとも思えないし。

表から姿を消して、裏で暗躍するという事は十分考えられる。

メジェド様は雌伏状態と言ったし。



旅行ガイドを調べてみる。


ユダヤ教って前1230年頃モーセがユダヤ人を率いてエジプトから脱出する頃から興ったんだ。

その割に聖書の中にエジプトの事が伏せられている。

元々はアブラハムの一族が持っていた宗教で、祭神は先祖神だったはず。

アブラハムの宗教とは、聖書の預言者アブラハムの神を受け継ぐユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三宗教を指す。

キリスト教の祭神イエスは元々ユダヤ教なんだ。

お父さんのヨゼフは大工と言うけど、この地域の家って石造りばかり。

つまり親子そろって自由な石工組合の一員でもあった訳だ。


うん、これは今言う事じゃ無いね。

何より時が熟していないのが判る。



「我の言いたい事は理解出来たであろう?」



メジェド様は眼力に思いを込めて私の口を塞ぐ。

本来識るべき事はすべて砂の下に隠されているように。

時が熟すまでは隠される太古の神々の英知は封印される。



「そうですね」



私の立場はあくまでも旅行者でストレンジャーなのだ。

平安を享受したければ、込み入った策略に首を突っ込まない方が良い。





私達は適度に観光した後、エジプト料理を食べ、次の旅行予定地に向かう事にした。

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