第36話「オリュンポス総本山神殿」

「オリンピア~~~~~」


「ふふふ、古いですね」



流石にギリシャ最高峰、海抜2917mのオリュンポス山を馬車で登山する訳には行かない。

私達はペガサスに乗馬して飛空する事にする。

山頂の神殿は思っていたより大きかった。



「大きいですね」


「オリュンポス神族の総本山ですから」



今までの個神殿はそれなりの住居も兼ねていた。

総本山ともなれば、12神一堂に集まる場所だから大きくならざるを得ない。

とまり、アレスの私室も総本山の中に在るという事か。


神々の総本山というからには、神も行政や人事の総合庁舎に当たるのかな。

人間の世界では国会や庁舎、または王城に相当するのが、この神殿なのかも。



私達は神殿の入り口でペガサスから降りた。

駆け付けた従者達にペガサスを受け渡し、厩舎に連れて行かせる。


アテナとアルテミスに連れられ、顔パスで門衛の前を通り過ぎ神殿の中に入る。

さすがに中は総本山の神殿だけあって、天井が高い。

しばらく廊下を歩き、ドアの一つをアテナはノックする。



「アレス、おるか?」


「申し訳ありませんが、アレス様はただいまお取込み中で」



部屋の中から従者が申し訳無さそうに出て来て対応した。

本来は会見依頼をだしてアポを取るのが通常だろう。


しかし火急の用件ともなれば、そんな手続きは吹っ飛ばす。

アテナとアルテミスが手続きを無視したのは、怒りを持っての怒鳴り込みだからだ。

怒鳴り込むのに、律儀にアポを取る者はいない。



「またやってるのですか」



呆れるアテナとアルテミス。


お取込み中と言えば、あれだ。

どうやらゲームを再開している最中に違いない。

ステージを変えたのかどうかは知らないけど。


この雰囲気は知っている。

アレスって奴は意外とヒッキーなのかもしれないね。

神話でもアテナの陰に隠れて、あまりエピソードは聞かないし。

つまり、普段何をしてるのかが解る気がする。


アテナは私達に申し訳なさそうな顔をする。



「仕方ありません。

 皆様、取り敢えずは私の私室で寛いで下さいませ」


「そうですね」



私達はアテナの私室に移る事にした。







神殿内において『私室』と言われているけど、執務室兼応接室になっている。

軍神らしく、女性的な華美さは少ない部屋だ。

室内ではアテナの従者達が接客の用意を始めている。


ソファーに座った私は旅行ガイドを開き、アテナの情報を探す。


『アテナはギリシアのテッサリア地方で崇拝されていた都市の守り神のコレー低級女神の集合体でトリートゲネイアと古くは呼ばれていた。アテナイも支配するようになってから全国区になり大女神並みの扱いを受けている』


なるほどね。

ガイドから解った事は、両者とも軍神とされているけど方向性が違うようだ。

アテナは戦争に勝つための戦略や栄誉の神。

アレスは戦場での狂乱や破壊の神。


同じ軍神でも随分と性格が違うんだねぇ。

違う意味で軍神が二柱ふたりいる事に察しがついたけど。



「ヒルトさんは何を見ていらっしゃるのかしら」



横から不意にアルテミスが覗き込んで来る。



「あぁ、その、私旅行中なんで、ここの神界の事情や次の予定地などを」


「そうでしたか、旅行中とは羨ましいですね」



アルテミスは休暇って取れないのかな。

それとも単なる社交辞令?


そんな時アテナは戻って来た。



「おまたせ。

 ここは仕事部屋で色気が無いでしょう、ふふふ」



やっぱりパルテノン神殿が本来のアテナの住居のようだ。


私達はこの部屋でアレスの取り込みが終わるまで待たせてもらう事にする。

まぁ、待つ間二柱ふたりからは、私の旅の話をせがまれるんだけどね。


私は二柱ふたりにアスガルズ神界の事、召喚魔術で呼ばれた所、

巨人世界ムスペルヘイム、エルフの世界アルフヘイム、

黒いダークエルフの世界スヴァルトアルフヘイム、妖精界の話をした。

二柱ふたりには世界の名前位しか知らないようで、楽しそうに聞いてくれる。



「旅行で色々と経験されてるのですね」


「色々見分されて、ヒルトさんが本当に羨ましいですわ」



彼女達は旅行など出来ない様子。

有名所の女神様達も仕事に追われてるのかな。

オリンポスの神々って楽しそうにやってるように思ってた。

中間管理職の事情は知らないけど、彼女達も暇ではなさそうだ。


しばらく話し込んで一区切り付いた後、時刻を伺いアテナの雰囲気が変わる。



「さて、愈々いよいよですわね」


「そうですね。

 これからお兄様にきつく難詰しなければ」



私達は再びアレスの部屋に向け突き進む。






扉をノックすると先ほどの従者が現れる。



「申し訳ありませんが、アレス様はまだ取り込み中でして」


「私達は十分待ちました。

 このままでは何時まで経っても用件は済みません。

 どうせ大した事をしていないのは承知しています。

 是非とも話さなければならないのですから、押し通させてもらいますよ。

 貴方はお退きなさい」


「お兄様、出ていらっしゃい、お話があります」



アテナとアルテミスは私達を連れてアレスの私室に押し入った。

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