第35話「軍神アテナ」

「あなたたちはアテナ様を探して来て下さい」


「畏まりました」



アルテミスは従者達に捜索を命じた。

命を受けた従者達は忍者のように姿を消してしまう。



「あの方達は忍者ですか?」


「いいえ、ニンフですよ」



はあ、忍者じゃなくてニンフですか、ニンニン。


彼女達は大地に広く感覚を広げて探してくれているらしい。

従者達はじきに戻って来てアルテミスに報告をした。



「アテナイのアクロポリスにいるようですね。

 連絡が付いたので、神殿で待ち合わせのアポが取れました」



無事に会見が出来そうだ。

アルテミスは一緒に来てくれると言う。



アテナの神殿がある所自体がアテナイ。

のような規模なのかのしれない。

その中にヘパイストス神殿があるアゴラの街があった。

アクロポリスはまた別の街なのかも。

もしかして市庁舎があるのがアクロポリスって事かな。


そう考えると結構広いんだね。




-------




神殿の入り口には衛兵が護っているのが見える。


うん、普通に武器を持っている門兵だね。

ここを通りたければ我を倒して行け、なんてのじゃなさそうだ。


アテナは拝殿の奥の本殿にいた。

普通、そこが神の居室になるよね。


アテナも軍神という肩書があるけど、アルテミスと同じ様なデザインの服装だった。

そりゃそうか、軍事でなければ鎧兜は着けないか。


部屋の隅には止まり木があって、ハーピーの様なのが止っている。

アテナはニケと呼んでいる。

ペットなのかも。




アテナの従者が目の前のテーブルにハーブティー「シデリティス」を用意してくれる。

さわやかな香りで飲みやすいという。

話を聞くと、ハーブってギリシャから広まったとか。


一息ついた後、アルテミスに紹介されアテナとの会談が始まった。

アルレースは私の肩に座ってもらう。

妖精の姿だと、思ったより具合の良い場所が無いんだよね。


私は事の経緯を話し、アルテミスと共に助力を頼む。



「そうなんですか、あの方は何て事を」



アテナはアルレースに視線を向け憤慨した。



「関係の無い方を巻き込むなんて許せませんね。

 三柱さんにんで抗議に行きましょう」



アルテミスも怒っている。

軍神アレスは女神の敵だ。


アレスは300km北のオリンポス神殿にいるらしい。

ギリシャ最高峰、海抜2917mのオリュンポス山を登らなきゃならないから大変だ。

私達はアテナとアルテミスの従者達や護衛兵士達に護られ、向かう事にした。

当初思っていたより大所帯での大変な移動になった。



「まぁ、普通はやんごとなき方々の移動はこうだよね。

 それにしてもアテナ様」


「何でしょう?」


「いませんね、金、銀、青銅の鎧を着た騎士達が」


「あー、あれですか、私も見てから検討はした事はあるのですが」



人間にはどう修行しても、神のような戦いは無理だったらしい。

そもそも技名は解っても、どんな技なのかが判らない謎の闘技だった。

普通にパンクラチオンと言ってくれた方が理解出来ただろう。



「皆さん、何の話をしておられるのです?」



アルレースだけが理解出来なくて目をしばたいている。



「アルレースはこんな話、知らなくて良いから」


「そうですか、女神様にしか解らない高度な話題だったのですね」



何やら誤解しているようだけど、放っておこう。






「ペガサス、本当にいるのですね」



アルレースは珍しそうに眺めている。

私もペガサスを見るのは初めてだ。



「スレイプニルとは違うんだねぇ」



翼は無いけどスレイプニルだって空を駆ける。


ペガサスは護衛兵士達が騎乗し、馬車も引く。

今回出した馬車は三台で、私達が先頭の馬車に乗る。

次いで従者達の馬車、食料やテントなどを積んだ荷馬車と続く。



「チャリオットばかりが有名だけど、四輪の馬車もあるのですよ」



アルテミスが説明をしてくれる。

300kmも移動するのだ、しばらくは私が旅した話題が続く。


道中、お二人から神酒ネクタルとアムブロシアを奨められた。

アムブロシアは食べると不老不死になり、傷口に塗るとたちまち回復するとされる神々の食物だという。

私にはフルーツサラダに見えるんだけど。

お返しに私は故郷の地酒『アクアビット』を提供する。



「神々のお酒や食べ物は不老不死になるのですか、凄いです。

 出来れば、傷薬ポーションとして少し欲しいのですが」



一緒にお相伴にあずかるアルレースは効能に目を輝かせている。

多分、アルレースも不老不死になってるのかな。

人間に戻ったらどうなってるのか知らないけど。



「貴女はお酒を薬として使いたいのですか、面白いですね」



アテナは気前良く、従者に命じて小瓶に入れたネクタルと、小物入れにアムブロシアをいくつかくれた。

私はありがたく亜空間収納に大事に仕舞う事にした。


まぁひとえに酒といってもアルコール分は色々利用法がある。

消毒に使えるし、百薬の長と言うくらいだから薬でもある。

うん、アルレースは間違ってないよ。

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