第31話「ヘパイストス①」

あれから私達は稼ぎまくった。

アルレースには上空から索敵をしてもらった。

どこまでも遠くに行っても、移転ですぐに帰れるし、何度も往復出来る。

大量に狩った獲物は亜空間収納に収めて持ち運び出来た。

戦闘で受けた多少の傷はすぐに治せるし。


普通の冒険者は大物一頭仕留めたら、その日は持ち帰るのがやっとだ。

だから、そのアドバンテージは大きい。


でも毎日大量に獲物を持ち込んだから、買い取りレートが下がっちゃったんだよね。

そのために他の冒険者達から嫌われた。

でも安心してくれたまえ、半径50km内の魔獣は絶滅した。

あれ? どうしたの? 冒険者たちの目が恐いよ。



三ヶ月も続け、ギルドレベルもAになった。


そろそろ剣や盾の修理や調整もした方が良さそうだ。

私は冒険者ギルドの受付で鍛冶屋を紹介して貰うことにした。

この街の鍛冶屋は割と多いようだ。

それ以外にも耳寄りな情報を得た。


鍛冶屋が祀る鍛冶の神ヘパイストスの神殿があるらしい。

鍛冶神ヘパイストスといえば有名所の神様だ。



「でも、これはアレスに近づく足がかりになるかも」


「そうですね」



普通の鍛冶屋と鍛冶神ヘパイストスの神殿、どちらに行くかとなれば、決まっている。

選択肢は一つしかない。

鍛冶神ヘパイストスの神殿一択だね。

但し一般人が仕事を頼むのは無理な話かもしれない。



「装備の修理は鍛冶神ヘパイストスの神殿の後で街の鍛冶屋に行けば良いし」



私はギルドで神殿の場所を聞いて向かう事にした。





丘の上に沢山の柱で屋根を支えた石造りの神殿が見えた。

ヘパイストスは鍛冶の神だから、拝殿に訪れるのは鍛冶屋が多いんだろうね。

私達は拝殿に向かう。


拝殿には大きなヘパイストス神像が置かれている。

一般人の参拝はここまでだ。

しかし拝殿の奥、本殿はやけに賑やかだった。

何事かと覗いてみると、本殿では二人の男が酒を酌み交わしているのが見えた。



「何だか不敬な風景が見えますね、酷くお酒臭いです」


「うーん……。

 主祭神がお酒を呑んでるなら不敬とは言い難いかも」


「えぇ⁉ あの方々は神様なのですか?」



見知らぬ人間が神殿で宴会してれば不敬極まりない。

しかし家主の主祭神が家呑みしてる分には勝手だろう。



「誰じゃい、儂んの玄関で話し込んでる奴ぁ」



私達に気付いたヘパイストスがこちらに来ようとする。



「いいじゃねぇか、ヘパイの旦那、あんなの無視しときゃよ」


「いや、儂んの玄関にいるんだ、何か用でもあんじゃないか?」


「そか、なら良い、そこのお姉ちゃん、一緒に飲まんかや?」


「おう、そりゃ良い。

 手酌より美女のお酌の方が酒も美味いからな、ガハハハ」



酔っぱらい同士の会話は支離滅裂だ。

私はコンパニオンじゃないってぇの。

仕事を思い出しちゃうじゃないの。

どうやら人の目では彼等は見えないが、神族の私や妖精のアルレースには見えるようだ。


けど知見を得るチャンスと言って良い状況だ。

しょうがない、お酌の一つもしてあげるかな。


鍛冶神ヘパイストスとのよしみを結ぶためだ、取って置きの物を出しちゃおうか。

私用のお酒『アクアビット』。

ジャガイモやハーブを使用している蒸留酒。

消毒にも使えるし、寒さ凌ぎにも使える逸品だ。



「私からもお酒をお注ぎしますね?」


「おう、何じゃいこりゃ、芋焼酎か?」


「芋焼酎にしちゃ、要らん物入れ過ぎじゃないかい?」


「嫌ですよぅ、せっかく私の故郷の地酒『アクアビット』をお出ししたのに」


「ほう、どこの地酒だろうな」


「おらにゃわかんねぇ」



もはや二人はグダグダだ。

今日はお酒を置いて帰った方が良いかもしれない。



「ヒルト様、今日はもうおいとました方が良いと思うのですが」



アルレースは下品な酔っぱらいは苦手そうだ。



「ん? んんん? おい、儂ぁ相当酔っちまったようだ、妙な者まで見え始めたぞ」


「ああ、ああ、おらもだ、虫人間が見える」


「失礼な方々ですね、私の姿は妖精フェアリーなんですよ」


「あああぁぁぁ、虫人間の言葉まで聞こえて来たぞぃ」


「そうだな、悪酔いしたかもしれねぇ、もうダメだぁぁぁ」


「……ヒルト様、もう帰りましょう」


「そうだね」



酔っぱらい相手じゃ、まともな話は出来そうもない。

私達は定宿に引き返す事にした。




-------




酔いつぶれたヘパイストスともう一柱ひとりが目を覚ましたのは夕方だった。

ヘパイストスと一緒に飲んでいたのは酒の神デュオニソスだった。



「うーん、二日酔いで頭が痛てぇぜ」


「んん? なんか見慣れない酒が置いてあるが」


「そういやぁ酒盛り中に美人さんが来てくれた覚えが」


「ああ、朧気ながら誰か居たな、誰だか知らないが」



テーブルの上には飲み空かした空き瓶と酒の肴の残り、『アクアビット』が残っていた。



「珍しい酒だな、誰がくれたんだ?」


「わかんねぇ」


「まいったなぁ、今度来たらお礼を言わなきゃな」


「んじゃ、おらは取って置きのブドウ酒をお礼してやんべぇょ」



二柱ふたりは泥酔した最中に訪れた何者かにバツの悪い思いがした。

正気しらふに戻ってみると、誰が訪れたのか解らない。

しかし、どこかの珍しい酒を献上してくれただろう事は確かだ。

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