第29話「オリンポス神界」

私達は移転ステーションホームを一旦アース神界に戻る。

久々のアース神界だから自分用に酒や食べ物を買い込んでおく。

その後はオリンポス神界移転門ホームまで移動しなければならない。



「随分たくさんの移転門があるのですね」


「軍神アレスから移転能力を貰ったから、

 もう移転ステーションを使わなくて済むんだけどね」


「それほどの力を貰ったのに何故ですか? なぜ移転門を?」


「初めての場所だと、何処に移転したら良いか解らないのよ」


「あー、なるほど、納得です」






私達は移転門を潜り、オリンポス神界に到着した。



「あれ? それほど暖かくないね」



ギリシャの資料を見れば、けっこう肩を出した服を着ている絵があった。

詳細を見ると、衣装はウールの一枚布であり、ペプロスいうらしい。

アルカイック期に入って、イオニア人が東方から流入した亜麻の優美な衣装を持ちこみ、キトンと呼ばれる衣服がほぼギリシア全土を席巻したと書かれている。


そういう衣装を着てるのだから、暖かいに違いないと思い込んでいた。

実際はそうじゃないようだ。


アルレースのためにも軍神アレスの所にすぐに行きたいところだ。

しかし相手は上位神。

いきなりでは会ってもくれないだろう。

だから観光しながら味方を作っていかなければならない。



「手が掛かるけど、仕方が無いよね」


「私はヒルト様と長くいられる方が良いです」



アルレースも観光が楽しいのかな。

私としても一人旅よりマシかもしれないし。


それにしても、やけにアルレースに懐かれてるね。

最初の頃は挑戦的だったけど。

いつから懐かれたんだろう。



「じゃあ、これから味方になりそうな神を探しに行こう」


「はい。

 ここの神様の世界って、どうなってるのですか?」


「三つの世界をそれぞれ最高神ゼウス、海神ポセイドン、冥界の王ハデスで治めてるんだよね」



私は主となるオリュンポス十二神の説明をする。


 天空最高神ゼウス 親:神クロノス / 女神レアー

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 ゼウスの妻ヘラ  親:神クロノス / 女神レアー

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 軍神アテナ      親:神ゼウス / 女神メーティス(ゼウスの最初の妻)

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 太陽神アポロン    親:神ゼウス / 女神レートー

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 美の女神アフロディテ 親:ゼウスと女神ディオーネーの子説等

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 軍神アレス

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 月の女神アルテミス

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 大地母神デメテル


主な者は、ほぼこれくらいいる、

それ以外にも伝令の神ヘルメス、酒の神デュオニソス、鍛冶の神ヘパイストス、その他多数。



「たくさん神様がおられるのですね。

 なら最高神ゼウスに陳情に行けば」


「ゼウスは女癖が悪くて、手が早いから近づきたく無いんだよね。

 それで血縁関係がグチャグチャで訳判らないし」


「まあ、そうなんですか」


「ゼウスに関わると奥方のヘラに睨まれるから、もう最悪なの」



一応相談出来そうなのは、同じ軍神のアテナか、血縁の月と狩猟の女神アルテミス辺りかな。


ガイドと地図によれば、この街アゴラには鍛冶の神ヘパイストスの神殿があるらしい。

南に行けばアテネのパルテノン神殿がある。


アテネの北300kmのギリシャ最高峰オリュンポス山(海抜2917m)の頂きにオリンポス十二神と呼ばれる12柱の神が暮らしている。


取り敢えずこの世界の拠点を決めるために、街に宿をとる事にした。



「いつも思うのですが、ヒルト様は女神様なのに小さな宿にしか泊まらないのですね」



アルレースは気付いていたようだ。

元々彼女は貴族の子息令嬢だったから気になるのかも。



「いや、だって私はこれでも小市民だから」


「御冗談を」



いやいやいやいや、元の世界じゃ社員寮暮らしだったし。

何より金持ちでもないし。

やべ! 思い出したら、そろそろ収入源作らないと危険域が近づいてるじゃん。



「アルレースの言葉で思い出したよ。

 旅が続いて路銀も少なくなりました。

 だから少し働かないと」


「ええ⁈ 仕事を得るのですか?」



やっぱり、どこででも収入を得るには定番の『冒険者』をやるしかないか。

冒険者なら定住しなくちゃならない決まりはないし。

結構自由気ままに出来ると思うの。




改めて考えてみる。

冒険者って何だろう。


戦争なら傭兵という者達がいる。

街の警備や戦いなら兵士がいる。

獣や魔獣を狩るなら狩人ハンターがいる。

財宝を求めるのにトレジャーハンターがいる。(これが冒険者の概念に近いかも)


だけど冒険で得られる財宝って、生活圏の狭い人達の中で誰が財宝を隠すのか。

財宝を積んだ沈没船だってそれほどある訳じゃない。


まさか財宝を溜め込むと噂のドラゴンの住処に潜入するんだろうか。

そう考えると、どうやって生活を維持してるのか解らない。



常識的に考えられている冒険者は、様々な職業に属さない半端者?

いわゆる何でも屋で、専業ではないが狩りや戦いに参加する事がある。

土地に縛られず各地を渡り歩く。


そんな連中だから社会の最底辺に思われている。

基本届け出れば、誰でも冒険者登録は出来る。


そんな理由で貧困層が冒険者になるのも珍しくはない。

貧困家庭の口減らしに使われる事も。


冒険者達の互助会として冒険者ギルドがある。

そこでは一括して仕事を受注し、冒険者に仕事を発注する。

冒険者登録証があれば、どこの街でも通用する。

冒険者ギルドは多くの街と繋がりがある。

獲物情報を集め公開する場でもあって、冒険者は同業が集まるからパーティーを組みやすい。



「うーん。

 そう考えると冒険者になって賞金を稼ぐのが手っ取り早いね」


「下賤な冒険者になられるのですか?」



貴族令嬢のアルレースじゃ、やっぱりそう思うよね。

騎士として任務を受ける事はあっても、請負仕事で稼ぐ経験は無いだろう。



「アルレースは一緒に冒険者する事に抵抗ある?」


「いえ、ヒルト様と共に戦えるのが嬉しいです。

 実戦経験だって積めると思います」


「じゃあ、これから冒険者ギルドを探しに行こう。

 まずは登録しなくちゃね」


「はい」



私達はアゴラの街の冒険者になった。

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