第26話「アルレースの想い①」

※アルレース視点語りです。



私はアルレース・フォン・ドルフレッド。

アレクロウド王国ティアーソ国王に代々仕える伯爵家の次女として育ちました。


長男のリストリック兄様は文官として、次男のニコラルフ兄様は騎士として父様と一緒に王城で務めております。

上の姉様は侯爵家に嫁いでおります。




私も年頃になれば姉様と同じように他家に嫁ぐ事になると思っていました。

しかし子供の頃から活発だった私は、騎士であるニコラルフ兄様に憧れておりました。


騎士は男性ばかりがなれるものとは限りません。

王妃様や王女様のより近しい護衛として女性騎士は必要とされています。

ニコラルフ兄様に憧れていた私は、女性騎士になりたいと強く願ったのです。


家族からは反対されました。

騎士は主君のために命を掛け、御守りするのが仕事です。

嫁ぐより命の危険性がある女性騎士。

家族の誰もが良い顔をしません。


しかし私は我を押し通し、頑張って何とか女性騎士になる事が出来たのです。

そして私にも初仕事が任される時が来ました。


仕事内容を聞かされた時、絶句しました。


戦場にて賤民である女給の見張りと、王国旗を掲げ護るのが私に課せられた任務です。

なぜ王国は女給如きを大々的に扱うのか解りませんでした。


初めて見たヒルト様の印象は、ただの平民だなぁという思いしかありません。

一番最初に交わした言葉は「下賤な平民のあなたの着替えを手伝うのは不本意ですが、役割はしっかり演じて下さいよ」と言い放ったことを覚えています。




初めての参戦で戦地に向かう時、ヒルト様は白い衣装を身に纏っていらっしゃった。

王国は彼女を『聖女』と祭り上げる方針の様です。

戦火の中、彼女が戦死しても構わないと聞きます。


敵国は神の加護を受けていて強い。

ヒルト様は王国の自軍を鼓舞するために、目立たなければなりません。

それは非常に危険極まりない状態です。

私はヒルト様の後ろで逃亡の監視と、王国旗の保持に努めます。


私は生まれて初めての戦場の雰囲気に怯えていました。

しかし騎士であるから、皆に怯えを悟られてはいけません。


前方のヒルト様を見れば、泰然とした様子に驚きました。

人が戦い死んでいく戦場を彼女は恐くないのでしょうか。

私は声を掛けます。



「あなたは意外と動揺していないのですね」



ヒルト様からは意外な答えが返ってきます。



「まぁ、私はこんな戦場をいくつも潜り抜けて来てるからね」



なんですって⁉

戦場をいくつも潜り抜けて来てる?

そんな壮絶な人生をヒルト様は経験してきたと言うのです。

どんな人生を送って来られたのか私は考えました。

考えられるのは、戦火に追われた難民だったという事なのでしょうか。


私は聞きます。

「どうやら、あなたの出自は戦火に追われた難民という所でしょうか」

でも難民というには、何か雰囲気が違います。


この違和感は、もしかして戦場慣れ?

ヒルト様が兵士とも思えませんが。

私は感想を述べます。

「女傭兵と看做みなすには、少々違うような気もします」


私の言葉にヒルト様は太々ふてぶてしくも

「アルレースは騎士様なんだから、私が危なくなったら護ってね」と言いました。


平民が貴族で騎士である私に護れと言うのです。

思わず怒りが込み上げました。

「誰が下賤な平民のあなたなんかを。

 私達はあなたが戦死するのを見届けたり、逃亡しない様に見張っているだけですわ」

怒った私は言い切ると顔をそむけました。





そしてついに開戦が始まります。


初戦から自軍側の旗色が悪そうなのは判ります。

敵軍は我が軍を蹴散らし、戦線は段々と迫って来ます。

互いの軍勢同士の距離が縮まり始め、矢や魔法が陣営に届き始めます。

我が軍が敵軍に蹂躙されるのも時間の問題でしょう。


恐いです。

特に壇上で目立つヒルト様と私は一番狙われやすい。

ああ、神様、私達をお助け下さい。

神様、神様、神様、私達をお助け下さい。


私は恐怖に震えながらも王国旗を抱え、懸命に神に祈り続けます。

その時でした、神に祈りが通じたのか判りませんが、ヒルト様の雰囲気が一変します。


「アレクロウド王国軍の者ども、聞くが良い。

 貴方方が脅える必要は無い。

 私がきっと貴方方に勝利を齎す事を約束します」


ヒルト様の大声に後ろの私も何事かと目を開きます。


目の前に信じられない事が起き始めます。

ただの平民であるはずのヒルト様が、呪文を唱え大きな魔法を発動したのです。


ただの平民にこれほどの魔法を使える道理はありません。

いえ、私の知るどんな魔術師でも不可能なほどの魔法。

ヒルト様が発動した魔法は、敵軍を一瞬で壊走させる。

どうしてこれほどの魔法を。


ヒルト様がただの平民で女給というのは誤報なのかもしれない。

もしくは間諜対策のための、フェイク情報だったのでしょうか。

私はフェイク情報で真実を見誤っていた?


ヒルト様が『聖女』というのは本当の事だった?

いえ、目の前の事実を見れば間違いありません。

ヒルト様は本物の『聖女』だったのです。

『国を救う勝利の女神』としての実力を示されたのです。






この日以来、私はヒルト様の事を考え続けるようになりました。

ああ、私は何て無礼な口を聞いていたのでしょう。

フェイク情報に騙され、『聖女』に対し驕り高ぶった態度を見せていたのです。

もっと真摯に女性騎士として対応すべきだったのです。



「私は恥ずかしいですね」



ヒルト様に許されるなら、女性騎士として恥ずかしくない従者でありたい。

私の中に尊敬の念が芽生え始めます。

今後もヒルト様の側仕えを許されたい。

そんな事を考えながら家に帰り、眠りにつきました。



目が覚めるとヒルト様が私を覗き込んでいるのが見えました。

驚きました、何故私の目の前にヒルト様が。

しかも大きさがおかしいです。

これは夢の中なのでしょうか。


ヒルト様は言います。

私、アルレースは妖精フェアリーになっていると。

やはり夢の中に違いありません。

夢の中ならヒルト様の従者として供回りを務めても良いですよね?

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