第25話「妖精女王城」

私達は王城の会議室に案内された。

一番上座に鎮座しているのが妖精女王らしい。


なぜ妖精女王と断定出来ないかと言うと、女王は人型をしていないからだ。

不定形に姿を変える光の塊といった感じ。

でも、何処からともなく声は発するんだよね。

妖精女王って位だから、アルレースのような羽のある人型かと期待しちゃったよ。


会議用机の対面には、クーフーリンとたぶん国の偉い方々かな。


おもむろに妖精女王から口火を切った。

議長を務めるから、やっぱこの方が妖精女王で決まりか。



「クーフーリンの報告は聞きました。

 今回同行頂いたのは異世界の方だそうですね」


「は、解せないのは同行している妖精フェアリーは人間との事であります」



クーフーリンは疑問を提示する。



「攫われたフェアリーではないのか」


「では何故あのフェアリーは外界にいて、お前が連れているのであるか」



妖精女王は答えをアルレースに振った。



「その問いには本人に答えてもらいましょう」



アルレースは答える。



「私はアレクロウド王国、ティアーソ王に仕える騎士でした。

 就寝後、目が覚めた後なぜかこの姿になっていたのです」


「その理由は判りますか?」


「判りません」


「そちらの者、ヒルトと申すか、汝がこの妖精を攫ったのではないと言うのだな?」


「そうですよ」


「では、何処でこの妖精を手に入れたのか」


「アレスに貰った箱の中に入ってたんですよ」


「アレスとは何者であるか?」


「オリュンポス神族の軍神アレスです」



私の答えに会議室の一堂に戦慄が走る。



「何と、神が関わっておるのか」


「神と関われるとは、ただ者ではないぞ」


「見たところ巫女ではない様だし」


「ヒルト、神に関わる事が出来る汝は何者であるか」


「ヒルト様は私の国を軍神アレス率いる敵軍から救ってくれたのです。

 だから救国の女神様だと思っています」



アルレースは割って入って来た。

ウルウルと私を見る目が何だか信奉者か狂信者みたいでイヤだ。



「アルレースには聞いておらぬ。

 ヒルト、神に直接関われる汝は何者であるか?」


「私はアース神族でワルキューレの1柱ひとり

 今は休暇中で旅行中なんだけど」



会議室中は凍り付いた。

やがて意を決した一人が口を開く。



「ほ、本当に女神様であられるのか」


「クーフーリンは女神様を罪人として我等の前に連行したのか」


「クーフーリン、この莫迦者めが」


「女神様、我等に神罰はお許し下され!」


「よく見ろ、女神様は怒っている様子ではないぞ」



なぜ一同がこうも動揺するか。

それはヒエラルキーで見れば、妖精の上には精霊がいる。

精霊の上には神がいる。

つまり、ヒエラルキーの最上位者が神という事。


いくら神族でも、私は下っ端の有象無象の一柱ひとりだけどね。

別に彼等を滅ぼせるほどの力は無いし。


妖精女王を前にした妖精達の中に、女王をも凌ぐ最上位者である神がいる。

全員がその事実に驚愕し、動揺を見せている。

下級の一般神いっぱんじんだけど神は神。

クーフーリンは知らずに誘拐犯だと思い連れ込んでしまったのだ。


連れ込んだ目的は誘拐犯としての弾劾だ。

本来、妖精如きが立場的にも神を弾劾できる事じゃない。

妖精や精霊では神には敵わないのだから。

下手をすれば一方的に不敬だと怒りを買い神罰を受けかねない。

一同はそれを恐れている。


そして誘拐の容疑が一番濃いのは軍神アレスだ。



「信じられないなら、装備を身に着けるけど」



私は亜空間収納から装備を出して身に着けた。

羽根の付いた兜、ウルフバートとラウンドシールド。

背中には長い三つ編みの髪。


これで信じてくれれば良いんだけど。


私の姿に目を剥いて驚くクーフーリン達。



「そ、その姿は正にワルキューレ戦乙女


「私が言った通り、ヒルト様は救国の女神様に間違いありません」



アルレースは自慢げに胸を張る。



良かった、私を神族と思ってくれる方々がいたよ。感激!



「私は妖精女王様に聞きたいんだけど、アルレースを元の姿に戻せるかな?」



会議場の一同は声も出せずに首を横に振る。

その答えに私は落胆した。



「そっかぁ、じゃあアルレースを元の姿に戻せるのは軍神アレスだけなのかな。

 いずれ観光旅行で行くオリンポス神界でアレスを詰問する事を約束するからね」


「私はまだヒルト様にお伴したいのです」



アルレース私に縋って来る。



「じゃ、私の疑いも晴れたようだから旅を続けたいけど」


「お、お待ち下さい。女神ヒルト様」



帰ろうとする私達を妖精女王が引き留めた。



「今回の我等の御無礼をお詫びをしたいのです」



妖精女王からのお詫びの品かぁ。

何が良いかなとアルレースを見る。

そうだ、アルレースがいつまで妖精姿でいるか解らないけど、本物の妖精鎧を誂えてもらうのも良いかも。



「じゃあ、アルレースに本物の妖精鎧を誂えてくれる?」


「はい、是非にも」



私の注文に妖精女王は二つ返事でOKしてくれた。

アルレースは嬉しそうだ。

ドワーフが造ってくれた方は儀仗用に取っておけば良いかな。

実用に耐える物をもらえるなら何よりだ。



「ヒルト様、私にまた鎧兜を誂えて下さるのですね」


「あ、それとアルレースに飛び方を誰か教えてあげてもらえないかな」



忘れる所だったよ。

ここは妖精の世界だ。

最高のコーチが揃ってると思うんだよね。



「アルレース様は飛べなかったのですか」



皆驚いている。

しかも私の従者認定されたから様付けされてるよ。



「うん、アルレース、元は人間だから飛ぶ経験が無いんだよね」


「解りました。

 私の配下の者をコーチにお付けする事を約束いたします」



妖精女王が良いコーチを紹介してくれると言う。



「ありがとうございます妖精女王様、宜しくお願いします」



これでアルレースも少しはフェアリーらしくなるだろう。

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