第24話「妖精騎士クーフーリン」

宿泊した夜、なぜか私の泊った宿が騎士団に包囲された。


ズカズカと入って来て、部屋のドアをこじ開ける騎士団長。



「な、何? 誰なの?」



いきなりの事態に私達は驚いた。



「我が名はクーフーリン。妖精騎士団長である。

 御用検ごようあらためでドアを開けさせてもらった」


「クーフーリン?」



彼が噂で聞いたクーフーリンかぁ。

初めて見るけど妖精騎士って、人と大きさが変わらないんだ。



「左様。

 この宿の客の中にフェアリーを連れている者がいると聞いた。

 お前の事だと調べは付いている。

 俺は妖精騎士として、妖精を攫う者を許さない。

 抵抗は無駄だ、速やかに付いて来い」



どうやら私はどこかに連行されるらしい。

しかし一体どこから情報を掴んだのやら。

宿の者達と周辺住人は眠らされている様で、誰も騒ぎ出さない。



「待って下さいクーフーリン。

 私は攫われた妖精フェアリーじゃありません」



すかさずアルレースが抗議する。



「攫われたのでなければ、何故この者といる?」


「話せば長くなるんだけど」


「お前は黙っていろ」



クーフーリンは妖精の言葉しか聞かない様だ。



「ヒルト様に無礼を働かないで下さい。

 貴方が騎士なら、私もヒルト様の騎士として対峙します。

 ヒルト様、私に鎧を」



アルレースは女性騎士だった矜持に火が付いた様子。

私が出した鎧兜を装着し、剣を構えるアルレース。

私のために忠義を示し、敵に立ち向かおうとする姿は立派だ。

正に神のための戦士エインヘリヤルの称号を得るに相応しい。



「何だ、その紙っ切れのような防具は。

 妖精鎧ってのはミスリル精霊銀で出来ているのだぞ」



しかしクーフーリンに向ける剣は飾りじゃない。

本物にこだわるドワーフ職人の手により、鉄片を鍛造し、鋭く砥ぎ出されている。

切れ味はカミソリのように鋭く、良く切れる。



「私の鎧兜は名工ヴィンダーヴルの手による逸品なのです。

 いくら妖精騎士とて無礼は許せません」



クーフーリンは困惑した。

何故こいつは俺に助けを求めぬのだ。

助けを求めるどころか、攫われたであろう妖精フェアリーが、騎士として立ち向かってくる。

それも貧弱極まりない玩具の鎧兜を纏って、勝ち目も無い相手にだ。

鎧兜の程度はともかく、目の前にいるフェアリーは正しく騎士である。



「フェアリーであるお前が何故俺に立ち向かう」


「今の姿はフェアリーですが、私は人間であり、れっきとした女性騎士です」


「はあ? 人間だって? 訳が判らないぞ」


「私だって訳が判りません。

 しかし貴方が騎士なら、私も主君ヒルト様を御護りする騎士として対峙するのです」



おいおい、アルレースってばそんな決意で私に付いて来たのかぃ。




クーフーリンは困惑しまくった。

ヒルトを捕らえ、妖精女王城の査問官に引き渡すのが今回の指令だ。

しかし救い出すはずの妖精フェアリーの様子がおかしい。

嘘を言っているとも思えないが、詳しく話を聞く必要はありそうだ。


しかしヒルトを捕らえる命令は騎士として従わなけれなならない。



「うーむ、これは場所を改めてじっくり話を聞いた方が良いかもしれぬな。

 騎士達、この者達を連行せよ」


「貴様、無礼な、ヒルト様も私も罪人ではないぞ」



激怒したアルレースにクーフーリンは騎士としての礼節を取り戻した、



「うむ、失礼した騎士殿。

 この方々を女王城にお連れしろ」


「「「ははっ」」」


「妖精騎士達、粗末に扱うな! もっと敬意を払え!

 ヒルト様は我が国をお救い下さった救国の女神様なのだ」



体の小さなアルレースが、大きな妖精騎士達相手に上官のような口ぶりで怒鳴る。

主君ヒルトの扱いに本気で怒っている。


アルレース、ありがとう、すごく騎士らしいよ。


私達は妖精女王の御前で話し合いの席を設けてもらえるようだ。

思わぬ観光先が出来たってもんだね。




目の前の空間に転移ポータルが開く。

どうやら妖精の世界はこの世界と違う次元にあるようだ。


だからこそ、妖精はおいそれとこの世界にやって来ない訳だ。

誰かが連れ出さなければ、こちらの世界に妖精は来れない。

つまり意図的に連れ出す誰かと言えば、攫いに来た誰かという事になる。


そして誘拐犯人を追って妖精騎士団がやって来る。

必要となれば、戦闘も辞さない騎士団だ。

エルフ達が恐れるのも解る気がする。

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