第23話「スヴァルトアルフヘイム」

街道は山間部を抜け、平地に辿り着く。


ここがスヴァルトアルフヘイム、黒いダークエルフの住まう世界なのか。

街は結構計画的に区画整理され、文明的な建物が林立していた。

道路の両脇には街路樹が並び、店舗が道路に接している所は無い。

公園や緑地帯も整備され、気持ち良いほど整っている。



「これが黒いダークエルフの街?」


「何だかアルフヘイムの方が原始的に感じますね」



ここまで文明的に発展させるには長い事かかっただろうと想像がつく。

森林の乏しい地で日焼けして色が黒くなるほどに。

文明を進歩させてきた苦労の証に違いないと確信出来た。


闇堕ちしたなんて、ただのヘイトじゃん。


それにしても、ここもエルフの世界だから、アルレースには隠れていて貰う事にする。



私達は喫茶店に入り、軽食を摘まみながら考えてみた。


平地に暮らす黒いダークエルフにも様々な資源は必要だ。

文明を維持・発展させるには、大量に炭や薪など燃料がいる。

そして森林地帯には様々な資源がある。

エルフ同士の諍いは、資源の奪い合いから来ているに違いない。


まあ、社会的な違いは解った。

スヴァルトアルフヘイムの観光名所は何かなと、旅行ガイドブックを開く事にする。


解説の一つには『アース神族が狼のフェンリルを縛るための足枷グレイプニルを入手するために、フレイの召使いのスキールニルをスヴァルトアールヴヘイムに送っている』

という事も書かれている。



「そうなんだ、何かしら繋がりもあるのかも」



ドワーフのニダヴェリールが遠くないせいなのか工業力があるらしい。

物資の輸送手段のメインとして水路が発達している。

けど、水路は汚染が進んでいるという。


この世界の北部には、あちこちに煙突が立ち並ぶ工場の多い風景なんだろうね。

何となく町工場が集まった地域というイメージがわいて来る。

ドワーフとも共存しているのかも。


ガイドブックを読んでいると声が掛かった。



「お姉さんは旅行者なんですか?」



見ると10才位の黒いダークエルフの少女がいた。

繋ぎの作業着風ファッションで、名をアルテいうらしい。



「そうだけど」


「もしかして宿を探してるのかなと思って」



アルテちゃんは宿屋の娘だと言う。

黒いダークエルフでもドワーフでもないヒルトが珍しかったようだ。



「宿なら家に来れば良いよ」


「じゃぁ、そうしようかな。

 アルテちゃんは観光に良い所知ってる?」


「お姉さんはどんな所を見たいの?」



アルテちゃんは聞いてくる。


ちょっと待て。

この子の考える観光名所と、私の考える観光名所は違うかもしれない。

子供の遊び場に連れていかれても困るし。

むしろ宿の大人に聞いた方が良いかもしれない。



「まずは宿に案内してくれるかな」


「うん」



私達はアルテちゃんの案内で一軒の宿屋に辿り着いた。

割と小さな宿屋だけど、私にはこれくらいが丁度良い。



「おとうさ~ん、お客さん連れて来たよ」


「おう、そうか、偉いぞアルテ。

 いらっしゃいお嬢さん。

 何泊のご予定で?」



奥から黒いダークエルフの夫婦が接客に現れた。



「何泊になるかは、観光名所次第かな」



そんな私の答えに夫婦は困惑した顔になる。

なに? 何? スヴァルトアルフヘイムには観光名所って無いのかな。



「今、スヴァルトアルフヘイムじゃ工場地帯が発展していて、

 お客さんがそんな物観たいかと思えたのですよ」



宿のご主人はそんな事を言う。

観光事業を考えない現地じゃ、そう考えるのも仕方無いのかも。

確かに工場が立ち並んでいる風景を観るのもどうかと思えるし。

この宿はビジネス旅館のような物かもしれない。



「じゃあ、一泊の予定で」


「ありがとうございます。

 では、お部屋にご案内します」



スヴァルトアルフヘイムにも移転ステーションがあるようだ。

明日適当にあちこちを見て回った後、次の目的地に行けば良いだろう。

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