第20話「アルフヘイム」
アルフヘイムは見渡す限り森林しかない雰囲気だ。
森林の民エルフは森の中に暮らし、狩猟と採集で生活をしていると聞く。
ムスペルヘイムより気温も低く、森の香りが心地良い。
「ヒルト様、この世界はムスペルヘイムより過ごしやすいけど。
森林浴以外で楽しめるのでしょうか」
「ジビエ料理や山菜料理が期待出来るかも」
「私にとって野生獣の肉は珍しく無かったので」
貴族であったアルレースは、王族主催の狩に付き合わされたのかも。
それならジビエは珍しくもないか。
私達は宿をとり、部屋の中で旅行ガイドブックと地図を眺める。
この世界は森林の無い地域もあるようだ。
その地域がスヴァルトアルフヘイムで、
平地に住むエルフなのかな。
日光を遮る物が無ければ、日焼けするだろうし。
そしてこの世界には、もう一つの地域がある。
卓越した鉱夫や腕の立つ鍛冶屋のドワーフや小人達の世界ニダヴェリール。
この世界には森林と平地と山岳地帯以外に海も湖も川もあるようだ。
そちらに行けば海鮮料理が食べられるのかな。
アルフヘイムとスヴァルトアルフヘイム、
そしてニダヴェリールと三地域に分かれた同一世界の様だった。
森林地帯や平地はエルフが暮らし、ドワーフの住むニダヴェリールは山岳地帯にある。
うん、そこら辺は鉄板設定という所だね。
エルフは一族毎に森林のあちこちに点在して集落を造っている。
私達が泊っている宿は、そんな集落の一つのようだ。
林業が盛んなのかなと思ったけど、そうではないらしい。
あくまでも狩猟と採集で生計を立てているという。
森林の中で狩猟してるんだから、皆剣より弓の名手になるよね。
エルフの服が緑色なのは迷彩色になっているようだ。
森林の中はエルフが歩く生活道が出来ている。
舗装をしている訳じゃなくて、多くのエルフ達が歩いて踏み固まった道になる。
「私達旅行者が楽しめる施設は無いのかな」
「さすがに森林浴と料理だけでは飽きますよね」
「そうだねぇ、キノコ狩とかタケノコ狩とかあれば、森の中も楽しめると思うんだよね」
でも毒キノコの見分けが付かない私いじゃ難しいかも。
「でも果物狩りなら、あるかもしれないと思うのですが」
「それだ! 良いね、果物狩り。
やってるかどうか、宿のエルフに聞いてみよう」
私達は階段を下りて受付に向かう。
宿の受付にはエルフのおばちゃんが座っている。
私はさっそく聞いてみた。
「果物狩り? お客さん、面白いアイデアをくれるねぇ」
おばちゃんの言うには、農作物は主に物々交換に使われているとか。
一族の食料や交換物になるから、観光物にする事を考えた事が無かったらしい。
この世界には貨幣経済無いんかい。
「ところでお客さん、胸ポケットに何を入れてるんだい?」
胸ポケットの中で時折モソモソ動くアルレースに気が付いた様子。
「リスか何かかね? そんな狭い所に押し込んでちゃ可哀想だよ」
「あ、いえ、そんなんじゃないから」
それでも、おばちゃんは動物好きなのか盛んに覗きたがる。
押し問答を続けるうち、ちらとアルレースが見えた様子。
「リスじゃないようだね」
「どうしよっかな、あまり人に見せたくないんだけど」
アルフヘイムでまだ一度も妖精の情報は聞いていない。
つまり、この世界にも妖精はいない可能性が考えられる。
そうなれば妖精姿のアルレースを見られるのは宜しくないと思う。
「良いよ、人には言わないからさ、あたしだけが知っていれば良いだろう?」
なおもしつこく食い下がるおばちゃん。
よほど小動物好きなのかも。
あまりにもしつこいから私は折れた。
「ちょっとだけよ?」
胸ポケットからアルレースが顔をのぞかせる。
「小人? それにしては小さいね……。
お嬢さん、もっとその姿をよく見せておくれ」
おばちゃんの言葉から察するに、この世界に小人はいるようだ。
それでも小人は50㎝程の背丈の種族らしい。
15㎝程のアルレースは全然小さい事になる。
興味津々のおばちゃんの声にアルレースは身を乗り出してみた。
「ひっ!!! よ、妖精フェアリー……」
おばちゃんエルフは青ざめる。
「どうしたんですか?」
「あんた、どこでそのフェアリーを捕まえて来たんだい?
悪いけど、宿から出て行っておくれ。
今なら誰にも黙っててやるからさ」
急に態度が変わるおばちゃんエルフ。
私は理由を詳しく聞いてみた。
フェアリーなどの妖精を捕まえたり攫ったりすると、妖精騎士クーフーリンが許さないという。
「あんた、見つかれば、妖精騎士クーフーリンが軍団を率いて攻めてくるよ。
絶対にその妖精を元に戻した方が良いよ」
「こういう訳かぁ、くそアレスめがぁ、ロキみたいな事を」
しかしアルレースは生粋の妖精じゃないし、元に戻す方法も私は知らない。
アルレースの姿である妖精は、軍神アレスが攫った物か、姿を変えられたのかは判らない。
つまり、何をされたのかは軍神アレスに聞かなければ解らないのだ。
アルレースも元の世界の記憶はあるけど、妖精の記憶は無い。
だから飛ぶ経験も無いし、飛ぶ方法も知らないから出来ない。
妖精達は王国に住み、女王が統治しているという噂にも似た御伽話はあるという。
つまり妖精を返そうにも、誰も妖精女王の居場所を知らない。
妖精女王に妖精を返そうにも、私には方法が解らない。
だから妖精女王と相談したいけど、居場所が判らない。
私達は宿から追い出された。
もしこのまま宿に泊まっていたら、いつクーフーリンに知られ、攻め込まれるか判ったものじゃない。
「困ったねぇ」
今さら他の宿に泊まる事も出来ない。
「ヒルト様の身の潔白は、私が弁護したいと思います」
アルレースは私を庇おうとしてくれているけど、彼女も妖精女王の居場所を知らないのだ。
こうなれば森の中で野宿をしながらクーフーリンを待つしかないのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます