第19話「アルヴァルディファイト」

試合は進み、興奮の坩堝と化した観客席からは歓声や悲鳴が沸き起こる。

とにかく、どの試合も迫力が尋常じゃない。

技を応酬する時の音も凄いし、踏み下ろす足や倒れる選手の地響きも凄い。



やがてアルヴァルディ選手の試合の番が迫り始め、目の前のモニター目線が変わる。



「おおおお、愈々いよいよアルヴァルディさんの出番だ。

 パイルダーオーン!」


「その掛け声は何でございましょう?」



感極まって叫ぶ私に、訳の解らないアルレースは目を白黒させている。



「はっはっはっはっ

 お嬢さんのように叫ぶお客さんはたまにいるね」



おお、インカムでアルヴァルディさんと会話が出来る様だ。


客は選手と会話しながら試合が出来る。

そんな体験は選手と客の一体感を生む。

良く出来たシステムだと思う。




「では、行くぞお嬢さん。

 思い切り声援を贈ってくれよ」


「はいっ」



アルヴァルディさんは立ち上がり、モニターの目線は更に高くなる。

ズシン、ズシン、と歩き出すが、画面のブレは無い。


相手選手もアルヴァルディさんと同じく巨大ロボット姿だ。

今回の試合は『兵器あり』だから、飛び道具有り、巨大剣有りになる。

腕には大砲、背中には巨大バリスタが装着されている。

足にはローラーがあるから、ローラーダッシュでもするのかな。


ゴング代わりの大砲が空砲を撃ち、試合が始まる。


先ずは相手を伺いながらバリスタや大砲で中距離牽制し合う。

いくら巨人でも、そんなのが当たればただじゃ済まないだろう。

互いに回避は慣れているようで、上手く砲撃を躱し合う。



「ふ、当たらねば、どうという事は無い」



おお、有名なあのセリフを。



双方、大砲の弾を撃ち切ると、ローラーダッシュで間合いを詰める。

しかし回り込みながら優勢な体制を取り合うために景色が凄く回転した。

画面に合わせ、コクピットも多少揺れたり、前後左右に傾いたりする。

本当に搭乗してたら、遠心力のGに耐えられなかったろう。



「あわわわわわ」


「搭乗者、しっかりせよ」



慌てる私にアルヴァルディさんが注意をくれる。

この信頼感がまた堪らない。

思わず操縦者として嬉しくなる。



「わ、わかった、頑張れー! アルヴァルディさん」


うおおおおぉぉぉぉ――――――――――――



私の声援を受けたアルヴァルディさんは、叫び声をあげチャージアップをする。

画面がババババとフラッシュした。

アルヴァルディさん自体が放電している訳じゃないが、凄い演出だ。

私の肩に乗るアルレースは息を飲んでいる。


十分接近が終わると、互いに手四つに組み合い、力比べになる。

アルヴァルディさんの荒い鼻息の音がコクピットに響く。


力負けした相手選手はすかさず技の掛け合いに動き出す。

アルヴァルディさんも負けじと技の掛け合いに応じ始めた。

鎧やナックルの激しいぶつかり合いが会場に響きわたる。


さすがに30m級巨人による格闘だ。

ボディスラムのような大技を使うと、会場の破壊被害は凄い事になる。

だから打撃戦と組技の応酬に集中する。

それだけでも迫力が凄すぎだ。



「凄い、凄い、本当に巨大ロボットバトルみたい」



私のテンションも上がる。


一旦距離を置く両選手は、これまた巨大な剣を抜き放つ。

どれほど巨大な鉄板なのか、航空機の主翼位はありそうだ。


巨人同士の剣戟も凄かった。

ガキン、ガキンという音じゃなく、ドゴン、ドゴンという金属塊の衝突音。

音速を超える刃先から出るソニックブームは、会場中で爆発音を発する。

相手選手の死闘は続き、互いに疲労し始める。


疲労のためかアルヴァルディさんの旗色が悪そうだ。

相手選手はチャンス到来とばかりに剣を振りかざして来る。

剣を肩に受けたアルヴァルディさんは片膝を付く。



「あぶな―――い! がんばれー、アルヴァルディさーん」


うおおおおぉぉぉぉ――――――――――――



私の声援を受け、アルヴァルディさんの反撃だ。

相手選手が降り下ろした剣を戻す時アルヴァルディさんは飛び上がる。

そしてドロップキックで吹き飛ばす。

相手選手は盛大に吹き飛んだ。



「おいおい、30m級巨人のする事かいな」



倒れた相手選手が立ち上がろうとした所、アルヴァルディさんは両手で手刀を叩き付ける。



「今度はモンゴリアンチョップ!」



倒れた相手選手にドゴンドゴンとストンピングをかますアルヴァルディさん。


ドコーーン ドコーーンドコーーンドコーーーンと凄い音が会場中に響き渡る。



「巨人のストンピングってパイルバンカー杭打機みたい」


「ひいぃぃぃ、ドラゴンですら踏み潰されそうです」



相手選手は辛うじて立ち上がるが、反撃する余力は無さそうだ。


その時、ゴングが連打される。


試合はアルヴァルディさんの勝ちだ。



「搭乗者のお陰でベストバウトが出来た。

 ありがとう、お嬢さん。今回の勝利は貴女のお陰だ」



私はその言葉で現実に戻って来る。

どことなくヒーローショーで叫ばれるセリフに似ているような。




とにかく私達は巨人達のショーに興奮しまくった。

熱血試合と同時に巨大ロボを操縦した気分を味わった。

と同時に、あんな奴らと絶対に戦争したくないと思った。




私達はスパで汗を流してから、ムスペルヘイムを退散する事にした。

それにしても試合は興奮したよ。

熱中しすぎて暑さなんか忘れてた。


アルレースはあまりにも巨大な選手が動き回る試合だったから目をまわしていた。

そうなんだよ、彼女の元の世界には巨人もロボットもいない。

そればかりか体が妖精フェアリーだから15㎝位しかない。

大きい物は余計に巨大に見えた事だろう。



スパで汗を流し、落ち着いてくると暑さが戻って来た。

早い事、次の世界に行かなければ身が保たない。

私達は売店を覗き、早々に移転門プラットホームに向かう。

次に向かう世界はエルフが暮らす世界のアルフヘイムだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る