第15話「ヒルト移転」
城下町では盛んに『勝利の女神』が喧伝された。
軍神アレスの加護を受けた敵軍に、見事な逆転勝利を
その一部始終を一般民衆にも開放されるという。
異例な事に城門内に一般民衆が入れるのだ。
そしてその場で『勝利の女神』を拝見できる。
いくら何でも入城制限があるだろうから、早い者勝ちだ。
そういう話題で歓喜に沸かない民衆はいない。
王城の前庭は騎士団が出陣する時の待機場所にもなる。
そして様々な催事会場に使われる事も多い。
城下町の民衆全てが入れる程ではないが、かなりの広さがある。
庭の両側には正装した騎士団が整列をする。
ヒルトの
ファンファーレの合図でヒルトは蓮台に誂えられた輿に乗り、城門から城内に入り、バルコニーに登場する。
そんな儀式の説明を受けた私はウンザリした。
「盛大なのも程があるんじゃない?」
「いえいえ、
ベネデッタは厚顔無恥なのか、顔色一つ変えていない。
私はメイド達に囲まれ、着付けの最中だ。
城門が開かれ、民衆が城内に入り始める前に、私は城門衛兵の詰め所に移動する事になっているらしい。
着替えの終わった私は女官達に囲まれ、衛兵詰め所に案内される。
いや、これは連行かな?
衛兵詰め所の中には、儀礼用の鎧を装着した
衛兵詰め所の横には、幕屋があり、布が掛けられている輿が安置されている。
布が取り払われた蓮台に誂えられた輿って、人が担ぐ蓮台に据え付けられた椅子に後と横に屏風が据え付けられた物だった。
どうやら私が乗ったこれを、騎士達が担いで入城するらしい。
その際、ファンファーレが吹き鳴らされ、両側に民衆が割れた中を進むと言う。
「はあぁ、ここまで目立たなきゃならないの? いやだなぁ」
端で観るには、良いセレモニーかもしれない。
でも小市民の私が主役を張って喜ぶのは無理だ。
でも運搬中が脱出のチャンスかな?
その際、一腐れ言ってやらなければ気が済まない。
やがて城門は開かれ、多くの民衆が雪崩込み始めた。
腹を決めた私は幕屋で隠された輿に乗り、四人の騎士達が担ぎ上げる。
騎士団長が剣を掲げ前を歩き、市民が押し寄せない様に露払い役をするらしい。
しばし待機していると、城のバルコニーから国王の演説が始まった。
演説内容を要約すると、アレクロウド王国に救国の聖女、
一通りの演説が終わると、厳かにファンファーレ演奏が始まった。
「
騎士団長から声が掛かった。
私は黙って頷く。
輿は幕屋から出て城門前に進み、王城正門に向け人波の間をゆっくり行進し始めた。
行進は前庭中央辺りに差し掛かる。
うん、ここがチャンスだね。
私は輿から立ち上がり、上空に神聖ルーンで花火を打ち上げる。
「何事か!?」
突然の出来事に場は騒然とし出す。
いよいよ私の演説の開始だ。
両手を広げ、大きな声で話す事にする。
「皆さま、聞いて下さい。
私は出来れば良心溢れる人と交流したかったし、思いも寄せたかった。
貴族社会ではどうなのか知らないけど、ここには心許せる人はいない。
だから私は神界に戻る事にしました。
では、おさらばです」
ヒルトは移転でこの場から消失した。
青ざめるティアーソ国王達。
突然の事態にざわめく民衆。
呆気に囚われる騎士団達。
「俺達は女神様に見捨てられたのか?」
「こんな事態を引き起こしたティアーソ国王や貴族達が悪いんだ」
「女神様に見捨てられるなんて」
「女神様に見捨てられたアレクロウド王国は滅亡するの?」
「私は滅亡されられる国に住むのは嫌」
「そうだ、もう我慢出来んぞ」
群衆は女神が去った事に怒りを覚え、暴徒と化し始めた。
庭の両側で待機警備をしていた騎士団も慌てふためく。
もはや統一行動を執るのは無理だろう。
騒ぎ始める群衆を抑え込む事に必死になり始める。
これほどセレモニーを大袈裟にしなかったら、ここまでの混乱は起きなかったに違いない。
しかし、アレクロウド王国に
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