第14話「王宮会議は踊る」
城内ではヒルトの扱いに盛り上がっている。
今後とも彼女の力は必要になるだろう。
そのために、どのように遇すれば良いのか。
戦に勝利をもたらす聖女を、国内に留め置くにはどうすれば良いか。
どうして軍神アレスの加護を受けた敵軍を打ち破る聖女を下民だと思ったのか。
王族も、貴族も、騎士達も、議論に議論を重ねていた。
政治的に彼女の存在と影響力は無視出来ない。
国のイメージ向上のまたとないチャンスでもある。
「それほどの大魔術で奇跡を起こせたのだ。
彼女はやはり本物の女神だったのかも知れませぬ」
「という事は神召喚の儀は失敗ではなかったという事になりますぞ」
「なぜ彼女は自分の事を平民の女給だなんて言ったのでしょうな」
「それはあれじゃ、我等が信用に値するか試されたのかも」
「せっかく召喚に応えられて来て下さった
是が非でも我等王国に定住して頂かねば」
「実際の話、どのようにして女神様を遇して良いのやら」
「そうですなぁ、今の所、最上の貴賓室で休んで頂いているが」
「新たに女神の住まう神殿を新設すれば」
「おぉ、それは良い考えだ」
「ならば神官どもを彼女の配下に付ければ」
「うむ、貴族位を受けた
議論の方向は、ヒルトをこの国に縛り付ける事に決定している。
そのための第一歩として彼女を『勝利の女神』と喧伝し叙勲を行う。
貴族として待遇と役職を与える事も画策された。
そうする事でネガな噂も一気に払拭されるに違いないと考えた。
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その一方で、とある貴族家では問題が持ち上がっていた。
「昨夜からアルレースが目覚めぬだと?」
「はい旦那様、急に昏倒なさいまして、意識が戻らぬ様子」
執事は心配で憔悴しきっている。
「只今、主治医が診断に当たっていますが、原因も病名も不明との事です」
主治医ですら、どうにもならない事。
誰にも良策は思い浮かばず、手をこまねいているしかない。
「ああぁぁぁ、アルレースはどうしてそんな事に」
色々と治療を試しているが、主治医でも治療手段が解らない様子。
貴族家当主や侍従達、家族やメイドに至るまで困惑を深めている。
昏倒するアルレースは、ただ寝かせておくしか方法が無いようだ。
「皆、事態が急変したら、すぐにでも知らせてくれ」
いくら心配でも、当主は王城での会議に出席しなければならない。
娘の突然の事態に
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城内会議ではヒルトの扱いについて大方の方針は決まったようだ。
①定義としてヒルトの正体は、召喚の儀に応えて来訪した女神である事。
そのような情報流布し、近づくのも畏れ多い方だと認識を定着させる。
②現人女神ヒルトに国王手づから貴族位を
これによりアレクロウド王国貴族として王国民とする。
③現人女神ヒルトに神殿を建立し、彼女の住居とする。
今までの神官は配下に任命する。
④政治・軍事においては顧問として、会議に参加してもらう。
それからは神殿建設や
出来れば
そのために王宮前庭は一般開放して、高い場所で良く見えるようにする計画だ。。
私は貴賓室内にあるベッドでゴロゴロしていた。
窓の外の風景はもう見飽きたし、他にやる事が無い。
部屋付きメイドの見張る前で、旅行ガイドブックを広げる訳にもいかないし。
因みに軍神アレスの神気に当てられ失神した部屋付きメイドは、居眠りと誤解され交代させられている。
彼女はきつい罰を受けなければ良いんだけどね。
そんな時だった。
女官ベネデッタがやって来て、会議の決定事項を聞かされた。
当然ベネデッタの態度は最初の頃とは違う。
手の平返しが気持ち悪いよ。
「ふうん。
今王国内はそんな事になってるんだ。
私の事情は何一つ聞いてくれないんだね」
平然とした顔で返事したけど、それらは面倒臭いと想像出来た物全部じゃん。
これは何としても逃げ出さなきゃいけない。
そもそも王宮の貴族なんて、
常に言質を取られないように、気を付け続けなければならない毎日を送る。
騙し、騙され利用し合う世界なんてやってられないってば。
そんな場所に列席させられるんじゃ精神が持たないよ。
貴族が偉い人とか、身形が綺麗とか、格好良いなんて思うのは子供か知らない人だね。
今のヒルトは脱出方法を持っている。
なら、トンズラのチャンスは
「ヒルト様のご要望なら式典が終わった後、
アレクロウド王国陛下は何でもお聞き入れ下さると存じます」
ベネデッタは畏まって告げる。
でも聞き入れる事が出来る望みと、聞き入れられない望みってあるんだよね。
当然、私の望みはアレクロウド王国達、または国民全員が聞き入れられないだろう。
そんな事は言わなくても考えれば判る。
なんたって私は本来の計画通り、旅行に行きたいのだから。
それまでは、これまで通り食っちゃ寝を決め込む。
これは食い逃げじゃないよね?
宿泊代金を請求されても、こんな高級待遇は払えないからね?
私はそれなりの結果を出してるんだから、許されると思うの。
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