第13話「軍神アレス降臨」

突如強い神気の出現。

そんな神気に耐えられる人間はいないだろう。

事実、部屋付きメイドはアレスの神気で失神してしまった。



「何事?」



私はベッドのカーテンを開けて様子を見る。

すると目の前に軍神アレスが人間大の大きさで立っていた。

私の神気を追って来たのかな。


軍神アレスは怒っている様だ。

そりゃそうか、ゲームを楽しんでいたら、突然乱入されて負けを喫したのだから。



「俺に手痛い黒星を付けたお前は何者なんだ?」



例え人同士でも話を聞いてみなければ、どんな仕事してる人なのか判らないよね。

そんな事情は神同士でも同じ事。



「私はヒルト。

 神界アスガルズのアース神族、ワルキューレ戦乙女の一人です」


「はあぁぁ? アース神族のワルキューレ戦乙女だって?

 そんなのが何故ここにいる?」


「何者かの召喚魔術に引っ掛かったんですよ。

 元々貴方様と敵対するつもりは無いけど、襲われたら抵抗くらいしますって」


「ふむ、そうなのか」



しばし考え込む軍神アレス。



「お前は、この国の味方なのか?」


「いいえ。

 たいした義理も恩義も感じていませんよ」


「つまり、お前は本当に俺の敵として人間に加担しているのではないんだな?」


「敵対したつもりは無いし、するつもりもありません。

 私は旅行中なんです。

 いずれはオリュンポス神族の世界にも観光に行きたいから、敵対したくないですよ」


「旅行者なのか、なるほどな。

 俺との敵対は不可抗力だった訳か」



軍神アレスは納得してくれたようだ。



「お前の事情は判った。

 もう怒らないから、さっさと何処かへ旅立ってくれないか?」



もうゲームの邪魔をするなという事か。



「旅立ちたくても、この世界の移転門が解らないんですよ」


「移転門の場所が解らないだと?」



いきなり召喚されて軟禁されてたんだから仕方ないよね?

この世界の情報が、ほとんど無いのもどうにもならない。



「人の世界に神々の移転門など存在しないのだが。

 一柱ひとりで移転も出来ないのか」


「無いのですか?

 神界でも一般神いっぱんじんですから、一柱ひとりで移転出来ないのも仕方ないですよ。

 軍神アレス様に送って頂ければ、ありがたいと思いますが」



軍神アレスは呆れ顔だ。


人間界で言えば、地理も知らなければ、車も無い。

だから何とかしてくれという状態だから。


しばらく考え込む軍神アレス。


邪魔者は排除したいが、ヒルトは外国神がいこくじんだ。

ゲーム如きで下手な国際問題は起こしたくない。

ヒルトに移転方法があれば、この世界から出て行くのは間違いないだろう。

ならば移転能力を与えてやっても構わないのでは?


しかし何の見返りも無く、移転能力を与えてやるのも癪に障る。



「お前に移転能力を与えてやるとして対価は払えるか?」


「旅行者ですから手持ちも少ないし、

 一般神いっぱんじんだから金持ちでもありません」



ヒルトの無能っぷりに更に呆れる軍神アレス。


力のある上級神ではないから、仕方無い事ではあるが。

人の世界に例えるなら、大臣級の者に役所下級職員が生意気言っているようなもの。

実際、それほど神格に開きがある。



「まったく、お前は疫病神のような奴だな」


「私はワルキューレ戦乙女ですよ? 疫病神やくざと一緒にしないで下さいよ」



神界において疫病神なんて、人間界のやくざと一緒だ。

ゲームの邪魔になったからといって、こんな事言いに来るなんて。

なんとケツの穴の小さい事。



「ああぁぁ、もういい、お前には移転能力を授けるから、さっさと旅立て」


「移転能力を授けてくれるんですか?」


「ああ、但し、只で授けるのも癪に障る。

 少々仕返しはさせてもらう。

 それを対価だと思ってもらおう」



ヒルトは思った。

なんとケツの穴の小さい事。

誰かにオカマ掘られて広げられて来いってんだ。



かくして軍神アレスから私は移転能力を授けてもらった。



「それとこれは、旅への餞別だと思ってもらいたい。

 旅の道中で開けるように、喜んでもらえる事だろう」



アレスはヒルトに小箱を渡した。


なんだ、ケツの穴の小さい男だと思ったけど、良い所もあるんだ。

何が入ってるか知らないけど、無碍むげには出来ないよね。

ありがたく頂戴する事にしましょ。


彼は注意事項を告げると移転でさっさと帰って行った。

まだゲームの続きをやるのかな。

他の国で最初からやり直しをする可能性は高いかも。

そうなれば、当面の所アレクロウド王国は安泰になる。


それにしてもどんな仕返しをされる事やら。


ともかく、これで私はいつでも好きな時にどこにでも行けるようになった。


城内では記念式典の準備で活発になっている。


私を『救国の聖女』として祭り上げようとしているのは確実だろう。

こんな所で祭り上げられていたら、何処にも自由に行けなくなる。

そうなる事は火を見るより確かな未来だね。


私の目的は、もぎ取った休暇で旅行をしてリフレッシュする事にある。

この国に縛り付けらるのは目的とは違う。

まらば、先の計画通り移転能力でトンズラするに限る。

それも後腐れ無しに。


だから問題はいつの時点で移転するかになるかな。

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