第12話「戦い終わって」
「あ、貴女様は一体何者なのですか?」
アルレースが恐る恐る聞いて来た。
「私は
うん、休暇中なのだよ。
「
「まぁ、ある意味どちらも正解だよ」
「戦乙女で女給だなんて、私には理解が及びません。
そもそも
敵軍を一瞬で壊走させるような見た事も無い大魔法。
一介の平民で女給の使えるような物じゃない。
今正に女神の力?を垣間見た。
女神の力と言うには不浄過ぎるが、敵を一瞬で壊走させたのは事実だ。
そして見事アレクロウド王国軍に逆転勝利をもたらした。
これを神業と言わずして何と言えば良いのだろう。
「女神だ」
「彼女は本当に勝利の女神だった」
我に返った周りの騎士達は思わず口にする。
皆口々に畏怖と畏敬の念を込めて。
「誰だ、ヒルト様を下民だと言った奴は」
「そうだ、そうだ、平民の女給如きに出来る事じゃないぞ」
こんな反応は、作戦司令部の貴族達も同様だった。
「信じられぬ物を見た」
「軍神アレスの加護を受けた精強な軍勢を倒せたなんて信じられん」
「勝利の女神、聖女ヒルト様を王都にお連れせねば」
「そ、そうだな。
ぜひティアーソ国王陛下に勝利の凱旋と叙勲を奏上せねばなるまいて」
「今回の大殊勲は彼女だ」
私は態度が急変した貴族達から馬車に乗せられ、王都に帰還する事になった。
馬車の中には供回りを務めたアルレース・バスチュー・グストリムが同乗する。
まだ私の逃亡を防ぐために着いて来る気なんだ。
だけど皆、私を見る目が熱いし態度が違う。
今回は話しかければ、畏まって口を開いてくれる。
そういえば、他の
私が連絡しないってのもあるんだろうけど。
いくら戦士でも、異民族じゃ駄目なのかな。
そしてアレクロウド王国で祭り上げられて縛り付けられるのも御免だ。
まず行ってみたかったのは、炎の世界ムスペルヘイムなのだから。
ヒルト一行を乗せた馬車は、護衛の騎士団が囲むようにして、一路王都を目指す。
今回の帰国は作戦司令部の上級貴族達も同行する事になっている。
帰りは歩兵の速度に合わせないから、結構早い。
戦後処理が終われば、本隊は現地にいた中隊と共に帰還となる予定だ。
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先触れの伝令によって早馬を飛ばし、王都にいち早く戦勝報告が届けられた。
「なんと、我が軍が逆転勝利をしただと?」
ティアーソ王は感慨に打ち震えていた。
軍神アレスの加護を得た敵軍に勝利出来るとは考えていなかった。
ただ無抵抗で国境を奪われるよりはと、派兵したに過ぎない今回の戦争。
最小限に被害を抑えられれば、それで良かった。
それが極小被害で敵軍を壊滅できた。
思わず手に入った僥倖。
今回は無事に国境線を護る事が出来た。
今の所、敵国と全面戦争をするつもりは無い。
だから更なる進撃はしない事になっている。
「国王様、今回の戦勝殊勲は召喚した女給だそうです」
「ああ、あの捨て駒に使うつもりだった奴か」
本人を呼んで更に詳しい話を聞かない事には、ティアーソ王とて事情が解らない。
なぜ平民の女給如きが、大逆転という殊勲を上げられたのか。
本来なら敵の流れ矢にでも当たって死んでもらい、敗戦の言い訳に使う予定だったのだ。戦場で彼女は救国に立ち上がったが、無念の戦死という栄誉が与えられる予定だった。なのに奇跡の大逆転という僥倖。
これは大々的に叙勲し、称えなくて何とするか。
アレクロウド王国に帰還したヒルトは、戦場に同行した貴族達の強い要請で貴賓室に遇される事になった。
「わぉ、ここもまた落ち着かない部屋だねぇ」
最初に軟禁された部屋よりさらに高価な調度品に溢れていた。
部屋付きメイドも一段階位が高いらしい。
戦場で着ていた衣装は、部屋付きメイドからランドリーメイドに渡された。
馬車旅で疲れた私はベッドに倒れこみ、疲れを癒す事にした。
天井が高く広い部屋の中で天蓋付きのベッドは、カーテンを閉めれば丁度良い空間になる。
「はぁ、こういう狭小空間って落ち着くわぁ」
思わず心身共に力みが抜け弛緩する。
そんな時だった。
カーテンを閉めたベッドの向こうに強力な神気が発生した。
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