第11話「開戦」
やがて最前線では指揮官同士、口上のやり取りが始まった。
敵軍は
「我が国の善良なる村が、野蛮なるそちらの兵士に蹂躙され、村や森林に火をかけられた。それら蛮行を我が国は看過出来ぬのである。素直に非を認め兵を引くが良い蛮族どもめが。引かねば強大なる我が国の力を知らしめるのみ」
うん、これは自作自演臭い言掛りだ。
「こちらは誠実であるにも係わらず、無実の罪を擦り付けられた。薄汚い言掛りに従うと思うな、正義は我に有り。我が国の怒りの力思い知れ」
とこちらも正義を主張。
「我が国は正義なるゆえに神は加護を賜ったのだ。正当性はこちらにある」
神の威信を振りかざす敵軍にこちらも応酬。
「こちらも『聖女』がいる。戦いで勝利し、必ずや無実と正義を証明して見せる」
『聖女』のワードに敵軍は大笑いを始めた。
そりゃ『聖女』と『軍神』では格が違い過ぎってもんだ。
人間には見えない様だけど、敵軍の上空、雲の上にはホログラムのように超巨大な軍神アレスの姿が見える。
アレスはこの戦争をゲームの駒のように楽しむつもりだろう。
しかし敵軍は軍神アレスの加護で敵兵全員、二倍の攻撃力、二倍の士気、二倍の機動力、二倍の胆力に高まっている。
「こちらの軍は全てバフ掛けで、二倍、にばーい、ニバーイ、ツヴァーイだぜい、いぇぃ! さあ、どうするアレクロウド王国」
軍神アレスは楽しそうに口ずさんでいる。
結局この戦争は軍神の遊びに過ぎないんだね。
「最早これ以上の侮辱許し難し! 者ども見せてやれ、アレクロウド王国の底力を!」
「合戦開始だーーーーーーー」
「角笛を吹き鳴らせ! 銅鑼を打て!」
ブオーーーーー ブオーーーーー ブオーーーーー
ブオーーーーー ブオーーーーー ブオーーーーー
ブオーーーーー ブオーーーーー ブオーーーーー
ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャン
ついに合戦の火蓋が切られ、角笛や銅鑼が戦場中に打ち鳴らされ、吹き鳴らされた。
うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお
うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
同時にすべての兵から雄叫びが上がる。
私達は手筈通り、自軍の中央で円環の陣を張り、壇上に上がり自軍の鼓舞が始まった。先に持ち込まれた壇は、私を視認し易い様にとの策略だ。
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「ヤバイぞ敵軍が異様に強い」
自軍の騎馬兵団は鉄壁の敵軍を打ち崩す事が出来ないでいた。
果敢に波状攻撃を繰り返すが、押し切られている。
騎馬兵団は敵の前衛を崩せず、苦戦を重ねる一方だ。
更には弓矢の集中砲火を浴びまくっていて危険な状態ともいえる。
そればかりか動いていない陣に、敵軍の攻撃魔法が届き始めている。
これでは中衛や後衛の部隊がパニックを起こしてしまう。
見れば軍神アレスは満足そうに観戦をしている有様だ。
やがて敵軍は鉄壁の衛と共に前進が始まった。
境界線である川を歩きで越え、ジリジリとアレクロウド王国軍を圧迫し始める。
このまま進軍が続けば、アレクロウド王国軍の敗北は確定するだろう。
私はアレクロウド王国に良い思い入れは何も無い。
しかし、このままムザムザと敗北していくのを見ていなければならないなんて。
何か、そういうシチュエーションは気分が悪い。
後ろを見れば、アルレースが王国旗を支えながら、青い顔をして震えている
アルレースにも好感は無いし。
アレクロウド王国には、一方的に召喚されて軟禁されただけだし。
だから誰にも、どこにも恩義は無い。
無いよね?
うん、無いと思うよ私は。
あるとすれば、一宿一飯の恩義くらいかな。
いや、もっと泊っているし、もっと食べてるか。
でも国を救ってやるほどの恩義じゃない。
しかし、私は負けるのがもっとイヤ。
見せてやろうじゃないの、神の力を。
私だってアース神族の者だ。
軍神アレスほどの力は無いけど、鼻を明かすくらいは出来るだろう。
「アレクロウド王国軍の者ども、聞くが良い。
貴方方が脅える必要は無い。
私がきっと貴方方に勝利を齎す事を約束します」
私の大声に後ろのアルレースも何事かと目を開く。
私は壇上で両手を広げ、白のローブを風にたなびかせる。
上空では何事かと軍神アレスも、ビックリ顔でガン見しているのが見える。
マヌケ顔の軍神アレス。
今こそ神族の力、神聖ルーンを発動させる。
「Gå ned i magen til fiendens hær foran meg(我が眼前にいる敵軍の腹よ下れ)」
私の眼前、上空に光り輝く巨大な
その光景に戦争中の両軍は戦いを止め、驚愕の顔で上空を仰ぎ見始めた。
あれほど五月蠅かった蛮声は止み、息を飲む皆からは声が出ない。
後ろのアルレースも周りの騎士達も、同様の驚愕した表情で動きを止める。
次の瞬間、敵軍の兵士達は全員戦闘が止まった。
青ざめ、腹を抱えて前かがみになり、戦意を喪失した。
そして一気に壊走が始まる。
漏れるのが先か、無事に持ち堪えるか。
いや、こんなに広い戦場で持ち堪える事が出来た兵士も騎士もいなかった。
誰が押し寄せる便意を物ともせずに戦闘を続けられるだろう。
敵に斬られて死ぬか、戦闘中に垂れ流すか。
難しい問題だ。
「み、皆、何をしている、追撃のチャンスだ! 進めーーーー」
「「「お、おう」」」
「うわ! なんだ、この臭いは」
号令で我に返ったアレクロウド王国軍の兵士達は汚臭漂う戦場で追撃に走る。
壊走した敵軍は最早敵になり得なかった。
敵国軍兵士達は汚物に塗れ壊走を続けながらも、次々に討ち取られていく。
「あああぁぁぁーーー
何てこった、俺の側の軍勢が何て有様に」
下界の戦場の有様に軍神アレスも目と鼻を覆う。
「あの『聖女』とやらは何者なんだ?
俺のせっかくの戦争アートが不浄な汚物と汚辱に塗れ敗北するなんて」
軍神アレスは初めて汚物に塗れ、不本意な敗北を喫し、みじめな敗北感に塗れた。
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後書き編集
※ツヴァイ(Zwei)はドイツ語で「2」を意味する語句。
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