第10話「作戦会議」

作戦司令部のテントの中、作戦会議の場が築かれていた。

地図を広げた机の周りには、将軍と思しき貴族と軍閥貴族が五人、更に各軍団長が揃っている。

さすがに上級貴族たちは身形も剣を帯び見栄えが良く、立派な髭を蓄えていた。



うん、いかにも偉いというか、偉そうというか。

印象は粗野なバイキング達とは一味違うね。



伝令によれば、敵軍本隊も続々集結中らしい。

戦場予定地には益々キナ臭い空気が蔓延し始める。

後は何を切っ掛けに戦争大義を掲げるかが残っているようだ。


敵軍は騎兵・歩兵・槍兵・弓兵・魔術師団・後方支援兵を含めて約二万

当方自軍は同じ様な構成で約一万九千

兵数ではほぼ互角に思える。



軍人達は作戦会議を始める。

今の所、敵軍は横列の陣形を執っているらしい。



「突破には魚鱗陣形が効果的だと考えられるが、横列陣形の後ろに鶴翼陣形が控えている」


「それでは下手に突っ込むと鶴翼陣形の餌食になりますな」


「先ずは敵の陣形を崩す攻撃が先決でありましょうな」


「川は水量も少なく浅く、防御に不向きと聞いておりますぞ」


「それでは単なる平地と変わりませんな」


「うむ、足止めにはなりませぬ」



会議が進み、こちらの作戦は、セオリー通りに弓矢と攻撃魔法の応酬戦闘から始まるが、開始初っ端に騎馬兵で特攻して一撃離脱戦法ヒットエンドランの波状攻撃で戦闘と回離脱を繰り返し敵陣の歩兵部隊を混乱させる。


弓矢と魔法攻撃が降り注ぐ中大変だね。

だから騎馬兵は防御武装が厚いのか。


当然敵軍も騎馬兵でこちらの騎馬兵を抑え込もうとするだろう。

敵陣であるなら騎馬兵同士が暴れれば好都合。

この際、騎馬兵は歩兵からの引きずり落としに気を付けなければ危ない。


陣形の両翼と中央から騎馬兵が突入した時に、敵軍は陣形を変えるだろう。

それは混乱の中、どの様に変わるか解らない。

だから騎馬兵軍団は深追いせずに、帰還する事を第一として行動する。


混乱をしている敵軍に、アレクロウド王国歩兵軍団が突入する。

歩兵軍団は混乱をしている敵軍団の各個撃破に努める。


最終目標は敵陣の指揮系統を乱し、敵軍首脳部を潰す。

敵軍が壊走を始めたら終了だ。

それが今回の勝利条件になる。

別に殲滅戦を狙っている訳じゃない。


後方支援部隊は怪我人の早期収容、迅速な手当てに掛かる。

また帰還した兵の武器や武装交換に当たる。


本当は裏工作だってやっているだろうし、互いに間諜や破壊工作員を潜り込ませ合っているのは確実だろう。



私は布陣の真ん中で、士気高揚に努めなければならないらしい。

周りは兵士に固められ円環陣になるという。

まるで私の周りは本陣の様だ。

もちろん本当の本陣は作戦司令部になるのだけど。



以上が作戦司令部の考えた作戦だった。



一見上手く行きそうに思えるんだけど、敵軍はどういう作戦でいるんだろうね。

普通に人対人の戦争なら、それもアリなんだろうけど。

今回は敵軍には軍神アレスが加護を与えている。

たぶん戦況は思わしく無さそう。


孔子の兵法書に

『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』

『兵は詭道なり』

『力を用うる事少く、功を見る事多き者は、聖人の道哉』

という言葉があるけど、そんなの無い世界だからしょうがないのかな。





作戦会議中も最前線では、投石やら舌戦やら、小競り合いを繰り返している。

本格的開戦の前哨戦なのか、戦争の切っ掛けを掴むチャンスを狙っているのか判らない。

小競り合いと言っても、双方に怪我人は出ているんだよね。

状況は険悪といって良い。


両軍の時間は次第に煮詰まって鎧袖一触がいしゅういっしょくになって行く。

空気が重いね。


私は白い衣装に着替え、出陣準備に掛かる。



「あなたは意外と動揺していないのですね」



横に立つアルレースは緊張した声で聴いて来る。


戦場経験少ないのかな?

お貴族様なのに気丈さが足りないよ。


アルレースは若干震えている様だけど、これは武者奮いじゃない。

まぁ、私も経験があるから、それをわらわないけどね。

初々ういういしいとは思うけど。



「まぁ、私はこんな戦場をいくつも潜り抜けて来てるからね」



アルレースは驚愕で目を見開いて私を見る。



「どうやら、あなたの出自は戦火に追われた難民という所でしょうか」



Booooooooooo。

外れ。

私はワルキューレ戦乙女だから数多あまたの戦場を駆け巡って来たんだよ。

君等とは戦場経験が違うのさ。



「女傭兵と看做みなすには、少々違うような気もします」



アルレースは堂々としている私に違和感を覚え始めた様子。



「アルレースは騎士様なんだから、私が危なくなったら護ってね」


「誰が下賤な平民のあなたなんかを。

 私達はあなたが戦死するのを見届けたり、逃亡しない様に見張っているだけですわ」



怒ったアルレースはプイと顔をそむける。


とうとう本音が漏れてブッチャケたか。

戦場の空気に怯え初めているアルレースだけど、気位は高いまま。

けどね、戦争という生きるか死ぬかの戦いの場じゃ、そんなもの役に立たないよ。

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