第8話「激励会」
翌日から私は騎士や兵士達に顔合わせに連れ回される事になった。
戦場で彼等を鼓舞し、戦意を高めなければならないからだ。
私は敵国の軍神アレスに対抗すべき希望の星として、召喚された聖女という触れ込みだ。
うーん、この騎士の中から
でも、この国の騎士や兵士だからバイキングじゃないし。
宗教観だって違うかもしれないし。
ああ、いかん、こんな所で職業意識が。
私は今休暇中なんだよね。
休暇中に職場に連絡するって、どうなんだろ。
広い訓練場に騎士団や兵団が集められ、ティアーソ国王をバックに重臣達が横並びに整列し、演説が始まる。
「諸君、よく聞け!
この度、隣国グストリム王国は降臨した軍神アレスの加護を受け戦争準備にかかっているという情報を得た。
戦争ともなれば、隣国である我が国アレクロウド王国は真っ先に狙われるであろう。
だが、いかに強大な敵国であろうとも、我らは生き残るため対抗せねばらぬ。
そのために我が国は召喚の儀を行った」
眼前の兵団からはおおおおおおおおと歓声が上がる。
「諸君等に紹介しよう。
我が国の召喚に応え協力を願い出てくれた『聖女』、名をヒルトという」
今日のお披露目に白い衣装を着た私に注目の目が集まる。
この大臣はよく言うね。
私は協力なんか願い出てないし、召喚に応えた事も無い。
変な強制されてるだけなのに、しっかり美談にされているよ。
「諸君等を勝利に導く聖女ヒルトに感謝を捧げ、諸君らの勇猛と威信を示すのだ」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉl」」」」
大臣の狡猾な演説に興奮したのか、兵団の熱気が凄い。
因みに私のボロが出ないように口をきく出番は無い。
ただ笑顔で手を振るだけだ。
この後は各兵舎を回り、より身近な距離で激励する事になっている。
そりゃ遠目で見た美女である希望の聖女が手の一つも握って励ましてくれれば、武骨な騎士や兵士、傭兵もイチコロで虜になるだろうね。
この後、私は作り笑いを浮かべ、大臣と共に白々しい激励を重ねるのだ。
まずは位の高い騎士団の兵舎から順に挨拶回りをする。
挨拶は順繰りに位が下がりげ、傭兵団にまで激励に行く予定だ。
兵舎は中庭に面した城内の中に何部屋かある。
この中には下級兵士や傭兵の宿舎は無さそうだ。
そういった衆は城外に兵舎があるのかな。
「ヒルト、当たり障りの無い範囲なら、お前も自分なりの激励を許す」
大臣は私のアドリブを許可してくれる。
そりゃぁ美女直々に声をかけた方が、男にはより効果的だよね。
それからは兵舎をめぐりつつ、私は思い付く激励をした。
「皆さんの武勇を期待します。
ぜひ戦士の館に招かれるよう、勇敢に奮戦なさって下さいませ」
「戦士の館?」
「何だそりゃ?」
「もしかして国王様が特別に労ってくれるのか?」
騎士達は初めて聞く『戦士の館』というワードに目を白黒させる。
文化が違うから、やっぱりここはミズガルズじゃないんだ。
「『戦士の館』とは勇猛にして武勇を示した戦士が神に招かれる所です。
神に招かれた戦士の魂は、神の戦士エインヘリヤルに称されるのです。
ぜひ皆様はエインヘリヤルになられますよう」
「神の戦士エインヘリヤル?」
「俺達は死んだら天国に行けるんじゃないのか?」
「いや、何かの例えだろ」
「『戦士の館』と兵舎は何が違うんだ?」
「神の戦士エインヘリヤルとは何とも格好良い称号じゃねぇか。はははは」
「それもそうだな」
「俺ぁ、その称号を名乗ってみてぇぜ。はははは」
どうやら本当の事だと思ってもらえないようだ。
後ろで聞いていた大臣から声がかかる。
「ヒルト、叙勲の時に使える新たな称号が誕生したではないか。ハッハッハッハッ」
これを聞いたらアスガルズの上司達、エインヘリヤルにスカウトに来るのかな。
慢性的な人材不足の最中だから異人種登用の門が開くかも。
冗談じゃなく、そんな気がしてきたよ。
二日をかけ激励に巡ったどの兵団も、反応は似たり寄ったりだった。
最後に当日私に付けられる騎士が紹介される。
騎士は三人。
内二人は男性騎士で、バスチューとグストリム。
もう一人が女性騎士で名前はアルレース。
アルレースは私の後ろで王国旗も掲げる係だという。
旗持ちを任されるだけあって、中々に筋肉質な女性騎士だ。
三人とも貴族家出身で、下民に愛想なんて振りまくかって顔をしている。
実際に「よろしくお願いします」の言葉は無い。
当日はこのフォーマンセルで応援する事になるのだとか。
私は鎧兜姿のこの三人に囲まれるんだね。
実質、護衛の騎士ではなく、逃げ出さないよう見張り役として。
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