第7話「装備試着問題」

しばらくの間、私に用意されている 部屋に待機させられる事になった。

なんでも『勝利の女神の衣装』を制作中らしい。


三日ほど経った頃、数名の女官とメイド達が大勢で押し寄せて来た。

そんな中にベネデッタもいる。

『勝利の女神の衣装』がある程度出来上がったので、試着をしなければならないらしい。


運び込まれた箱からメイドが次々に何かを取り出し始めた。

どうやらあれが『勝利の女神の衣装』らしい。


広げられた衣装を見て私は固まった。



「なにそれ、趣味悪!」



コスプレなんて物じゃない。

布の材質は良いんだろうけど、着ぐるみ一歩手前の代物。

とにかくゴテゴテと飾りを趣味が悪いほど飾り付けられてハデハデだ。

何やら光を反射してキラキラした物が散りばめられている。



「ベネデッタ様、如何いかがでしょう?」


「聖女らしく美しく仕上がったと自負いたしますわ」


「う…………。

 ま、まあ美しい事は美しいですわね」



どこがやねん! あんたらおかしいで。

私、レイヤーじゃないんですけどぉ。

こんなの着て人前に立たなきゃいけないの?

私にだって『恥』という物があるんだからね。



「人目を引くのが目的だから派手になるのも致し方無しですわね」


「装備は如何いかがいたしましょう」


「そうですねぇ……。

 儀仗用の杖を振りかざすのも良いかと思われますね」


「いえ、どうせなら王国旗なら」



何やら装備の事まで考え始めたよ。

放っておくとどうなってしまうか解らない。

私は思わず提案してしまう。



「防具や剣なら私も持ってるんだけど」


「え?」


「防具や剣ですって?」


「平民なのに持っているのですか?」



どいつもこいつも平民平民って五月蠅うるさいよ。

私は戦場を駆け巡るワルキューレの1柱ひとりなんだから、剣くらい持ってるし。



私は亜空間収納からウルフバートバイキングの剣、ラウンドシールド、羽根の付いた兜を取り出し装着して見せた。


うん、こりゃぁ基本バイキングのスタイルだ。



「まあ!」


「一体どこから、そのような物を」


「その装備には私達の装備は似合いませんね」


「ああ、最初から考え直しですわ」


「その姿なら、白い衣装で風にたなびくイメージが合いそうです」



女官達は騒ぎ始める。


これなら趣味の悪い装備は回避できるかも。



「皆様、すぐにデザインの変更に入りますわよ」


「ええ、そのように致しましょう」


「何故かヒルトのあの姿は様になっていますね」


「そうですね。

 何となく着慣れているというか、着こなしているというか」



どうやら方向性を変える事に成功したようだ。

女官達はヤイノヤイノ言いながら部屋から出て行った。

私は防具と剣を亜空間収納に収納し、何食わぬ顔で窓の外を眺める事にした。






しばらくすると衛兵がやって来た。

女官達から状況を聞いたのだろう。



「お前が剣を所持していると聞いた。

 城内では武器禁止となっている。

 剣や武具は没収するから、素直に従うように」



衛兵の言う事は警備上もっともだ。


しかし私は渡す気はない。


亜空間収納がばれる危険性があるし、剣や防具は神界製である。

人の造りし代物しろものとは段違いの品質の物ばかり。

神界ではたいした物でなくても、人の世界から見れば神具ともいえる。

下手に人間の手に渡って問題を起こし、面倒臭くなるのは御免だ。


この城の人達は私を利用しようとしているだけだし。

私が何かしてあげたいと思えるような人もいない。

どこかで旅立てるチャンスが巡って来れば良いのだけど。


この国を見捨てるのかどうかと言えば、私は旅行者であって関係は無い。

この国に思い入れも特別親しい人もいない。

だからこの国がどうなろうと所詮他人事だ。



「そんな物があると思うなら探してみたら?」


「差し出さぬというのだな?」


「だから探せば良いと言ってるでしょ」



衛兵はむかついた表情で部屋の中を探したり、メイドに聞いたりしていた。

剣や盾は亜空間収納の中だから、どこを探しても出て来ないよね。

衛兵は引き下がるしかなかった。


しかし怪しいという情報は広がるんだろうな。

胡散臭い報告でも誰か上司に通達はするはずだから。

今はそれを理由に部屋を牢屋に代えられない事を祈ろう。





その後、何人か人を代え室内捜査が行われたが、剣は出て来ない。

怪しまれながらも私は無罪放免となった。

だって、証拠が出て来ないんだもん。





やがて女官達のデザインは決まったようだ。


群衆の目を引けるよに、純白のローブのように風に翻る服らしい。

下にはチェーンメイル鎖帷子を着る事になるとか。

その上で剣を持ち、兜と盾を持つスタイルだそうだ。

衣装制作のために採寸や試着が断続的に繰り返される。


更に後ろには王国旗を持つ従者と、護衛の騎士が二人就けられる予定との事だ。

このフォーマンセルは私を逃がさない布陣かな。

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