第6話「ヒルトの役目」

私はしばらく用意された部屋の中で過ごしていた。


正直、やる事が無い。


城外に観光に出る事も許されない。


部屋の外には二人の衛兵が、誰も出入り出来ない様に見張ってる。

唯一出入り出来るのは、食事の上げ下げをするメイドと、女官のベネデッタだけだ。

一応用意された服には着替えている。


食事は王侯貴族用の食事だから、不味い物は無いけど、まさか毒は盛ってないよね?

まぁ、神界の者である私に、人間界の毒は効かないけど。




来賓待遇とはいえ、これはしっかり軟禁状態だね。




室内には用事を申し付けるためのメイドが控えている。

私の見張りも兼ねてるのかな。

時々やって来るベネデッタへの対応や、食事の手伝いもメイドの仕事のようだ。

しかし私の話し相手になってくれないのが残念な所。


寝る以外する事が無いから、窓の外を眺める位しか出来る事が無い。


城壁の向こうには結構民家が広がっているのが見える。

さすがに王都だから国で一番大きい都市って事になるのか。

都市の向こうには森が見え、遥か彼方には青く山が見える。

城内の窓から街並みは伺えるけど、人の往来までは見る事は出来ないようだ。


それでも異国情緒くらいは味わえるかな。








「ヒルト様、ベネデッタ様がお越しです」



部屋付きメイドが告げる。



「お通しして」


「退屈しておられるようですね」



入室してきたベネデッタは冷たい目で睥睨する。

まさに貴族が下賤な者を見る目だ。



「まあね」



やって来たベネデッタが言うには、今後の用件らしい。

何を言われるのか判らないけど、部屋を移動して告げられるそうだ。

私はベネデッタに先導され、警備兵と共に城内を歩かされる。


私、罪人じゃないのに、どこに連行されるんだろう。

まぁ、待遇の良さからして罪人扱いじゃないのは判るけど。


途中、いくつか扉が見える。

扉の向こうには何の部屋があるのか解らないけど、とにかく数が多い。

聞いた所で扉の向こうに面白そうな物があるとは思えない。


考えてみれば、国家の中枢で政治機関が詰まっているはずなんだよね。

王城って庁舎の建物と似たような物なのかもという気がするよ。

庁舎と違うのは王様家族が住んでいるって所かな。

そういえば戦争ともなれば、鉄壁の要塞にもなるんだっけ。





やがて無言で歩く一行は一つの扉にたどり着く。

扉の前の衛兵に要件を告げると、室内に合図を送る。

開けられた扉の中から、この部屋付きのメイドが現れ、私達の入室を促した。

どうやら、この部屋は貴族の執務室のようだ。


ベネデッタは貴族の一人に報告する。



「ヒルトをお連れしました」


「ご苦労」



この部屋の主はハーラルフというらしい。

中肉中背の30代の男。

雰囲気から察するに文官といった所か。

王城勤めの貴族だから、そこそこ位は高いのかな。



「ヒルト、汝に会議の決定を伝えようとお連れした」



ちょっと、いきなり召喚されて何一方的に押し付けるのさ。


文句を言いたいけど、衛兵もいて反抗できる雰囲気じゃない。

しょうがないから取り敢えず黙って話を聞く事にした。



「はぁ」


「それでは、聞いてくれ」



ソファーを奨められ、ハーラルフの説明が始まった。

メイドはお茶に支度にかかり、全員の目の前にお茶を置く。


説明によれば、隣国との関係が険悪になりつつあるらしい。

隣国のバックで軍神アレスが加護を与えている為に戦意が高揚しているという。

戦争になれば、隣国であるアレクロウド王国が真っ先に狙われる可能性が高い。

敵に軍神アレスが着いているなら、アレクロウド王国も対抗しなければならなくなったという。



うん、そこまではベネデッタから聞いた話と一致するね。

それで私が召喚魔術に引っ掛かったという訳か。



「故に我が国は軍神アレスに対抗出来得る神の召喚を試みたのだ」



神の誰を呼びたかったのか知らないけど、あんな粗雑な召喚術じゃ無理があるよね。

そもそも人が神を召喚しようなんて、思い上がりも甚だしいけど。

そんなのに引っ掛かった私も私だけど。



「しかし召喚は失敗だった。

 よりにも平民の女給だなんて。

 改めて再召喚の儀を行う事は難しいのだ」


「私、今すごい侮辱を受けてるんですけど。

 初対面の人に、いきなりdisられなきゃならない言われは無いと思うんですけど」


「平民如きが何を言う。お前では神に打ち勝てぬであろうが」



ああ、身分差ってこんな扱いを受けるんだ。

確かに軍神アレスと私じゃ、神格が違いすぎるってのは合ってるよ。

でも人間如きにマウントされるなんて下級神は辛いよね。



「だが、寛容な我らはお前に栄誉を与えようという話になった。

 ただの平民に国家を揚げて栄誉を授けるのだ、我等に感謝を捧げるが良いぞ」


「栄誉?」



ハーラルフは言う。

戦争になった時、ヒルトは『勝利の女神』として、アレクロウド王国軍を鼓舞して戦意の高揚に努めて欲しいと。

『勝利の女神』として『国を救う聖女』として前線に立ってアレクロウド王国軍の希望の星になる栄誉をヒルトに与えるのだと。

そのために『勝利の女神』らしい衣装を用意してくれると言う。



何だかなぁ――――。

ちっとも嬉しい気になれないのは何だろう。



「喜べ、平民のお前には名誉な事だろう?

 良いな? お前は栄誉を受けるのだ。拒否権は無いぞ」



だぁ――――――。

強制かいっ!

観光旅行に出て、訳の解らん召喚をされ、いきなり何を強要されるのやら。

そもそも、そっちの都合や問題であって、私には関係無いってぇの!

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